薬物依存や脱税など数々の問題を抱え、長年にわたり「ダメ息子」というイメージで語られてきたバイデン前大統領の次男ハンター・バイデン氏。ところが最近では、そんな過去を自らさらけ出しつつ「異色な活動」を展開し始めている事実をご存知でしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、ハンター氏がたどってきた複雑な半生を紹介。その上で、彼の「お騒がせ的な行動」の真意を推察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:バイデン次男の変則的な活動は評価できるのか?
「ダメ息子」の何が悪い。バイデン次男の変則的な活動は評価できるのか?
トランプ政権が依然として右派ポピュリズム政策を継続中の現在、民主党側ではその批判票を大きく集票しようとしている一方で、左右分裂を抱えています。とにかく、クリントン=オバマ路線というのは、「キラキラした富裕層の理想論」だとして若い世代から拒絶を突きつけられています。
その一方で、AOCやサンダース、マムダニに代表される左派というのは、堂々と「民主的(公選を経た)社会主義」を名乗り、中南部には反発こそあれ、支持はほとんどありません。この両者については、「トランプという敵」が存在するから連携が組めているものの、例えば大統領選では本当に組めるのかは怪しい情勢です。この両者の確執というのは、経済政策だけでなく、AIやガザ問題ではもっと深い溝を抱えています。
そんな中で、奇妙な立ち位置にいるのが、退任したジョー・バイデン前大統領の次男、ハンター・バイデン氏です。何かと負の話題として扱われてきたハンター氏ですが、既に56歳となる中、不思議な存在が出てきているのです。
このハンター氏を理解するには、彼が長年いわば「ダメ息子」というイメージで扱われてきた経緯を無視する訳には行きません。彼にとっては、その社会的イメージを作り上げたものとして、2つの大きなストーリーがあります。
1点目は、家族の悲劇というストーリーです。なんとハンター氏が2歳という幼い頃に、母親の運転するクルマが交通事故に遭ったのでした。ハンターと1歳上の兄のボウ、また妹のナオミも同乗しており、母親とナオミは死亡、兄のボーは複雑骨折を負う中で、ハンター自身は「頭蓋骨骨折、重度のPTSD」を負ったのでした。これは強烈な経験と言わねばなりません。
その後のバイデン家では、父親のジョーが頑固に再婚を拒否して兄のボウとハンターをシングルペアレントとして苦労して育てました。ただ、バイデンは、どうやら優秀なボウを可愛がり、ハンターはその兄の影のような存在であったようです。やがて、バイデンは周囲の勧めもあり、ジル夫人と再婚し異母妹が生まれました。ジルとの再婚に関しては、ボウとハンターが強く後押ししたということになっていますが、真相は不明です。
家族の悲劇というのは続きます。ボウは、Uペンからシラキュースの法科大学院と、法曹のキャリアを進みました。やがて、公選のデラウェア州司法長官になり、在任中に志願してイラク戦争に従軍しています。法曹と政治と軍のキャリアを重ねていくというのは、要するに上院議員とかその上を狙うということです。ボウ・バイデンは当時は副大統領だったバイデンの自慢の息子というわけでした。
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トランプが作った「ハンター・バイデンは極悪人」のイメージ
ところが、そのボウは、2015年に46歳で死去します。原因は脳腫瘍とされていますが、その遠因はイラクでの劣化ウラン弾による被爆ではないかと言われてもいます。しかし、このボウの死というのは、ハンターには厳しい事件でした。
父親のバイデンは、凄いショックを受けて延々と落ち込み、ボウのことばかりを語るようになっていったそうです。そして、ハンターとしては、ボウが一家の記憶のなかで理想化される中では、名誉回復、つまり「兄を超える」チャンスを永遠に失ったのでした。まさに家族の悲劇です。
では、亡くなったボウとハンターの兄弟は不仲であったのかと言うと、そうでもないようです。その証拠に、ボウは長男に「ハンター2世」と命名しています。また、ハンターは長女に「ナオミ」という1972年の事故で亡くなった妹の名をつけていますし、ボウもその後で生まれた長女のミドルネームを「ナオミ」としています。
更に、ボウの死後にボウの奥さんと、義弟であるハンターは、男女の関係になっていたそうで、これは事実のようです。つまり、ボウとハンターの兄弟は、不思議な紐帯で結ばれているとも言えるし、妻をめぐる三角関係とも言えます。その奥には、バイデン父と2人の兄弟の関係に「シングルペアレントの苦労」だけではない、一種の強圧的なものがあったと言う推測も成り立ちます。
2点目は、ウクライナ問題です。ロシアがウクライナを攻めるはるか前、それこそ、ゼレンスキーがまだコメディアンだった時期から、ハンターは、ウクライナに関与していました。つまり、汚職や腐敗で悪評が立っていた時期のウクライナ財界において、パイプライン経由の天然ガスビジネスを「まともな西側規準の企業」にするためのコンサルとして入っていたのです。
やがて、ハンターは、ウクライナの天然ガス会社である「ブリスマ・ホールディングス」の取締役になっています。これは2014年から19年の期間であり、この期間で月額5万ドル(約536万円)の報酬を受けていたそうです。この報酬は高いと言えば高いですが、では、それ以外に何かウクライナでの悪事に関与していたのかというと、そうではありません。
問題は、この時期、つまり第一期目のトランプ政権が、大統領御大自身が全くの「スッカラカン」であり、しかも家業のビジネスを延命させるために、ドイツ銀行の融資を受けていた時期と言うことでした。ドイツ銀行は融資を渋り、仕方なしにサウジ王室とプーチンに保証人になってもらっていたのでした。ですから、トランプはプーチンに首根っこをつかまれていたのでした。
そこでトランプは、ウクライナのゼレンスキーをディスる、そのためにブリスマと言う企業が怪しいとか、ハンターが怪しいということを、延々と語り続けたのでした。結果的に、MAGAの連中は、このトランプ講談を大いにエンジョイして、ハンター・バイデンというのは腐敗した極悪人だと思い込んだのです。そして、間接的にこのことは民主党の票を削いでいきました。
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ここへ来て興味深いことになっているハンター氏の動き
一方で、ハンター自身は、長年、アルコールや薬物への依存症に苦しんでいました。兄ボウの死後は、荒れた生活となっていたと言われています。そんな中で、発生したのが「ラップトップ事件」でした。2019年、つまり父親が大統領だった時期ですが、ハンターが修理のために預けた「ラップトップ」のデータがFBIに渡ってしまったのです。
この経緯は今でも疑惑に満ちているのですが、修理店の主張は「ハンターがPCを取りに来なかったので怪しいので通報した」ということになっています。ですが、トランプ系の陰謀とか、ロシアの陰謀という説も出たり入ったりしています。それはともかく、ラップトップPCからでてきたのは、薬物を使用していたと思われるハンターの醜悪な写真など、スキャンダラスなデータだったのでした。
さらに24年には、麻薬の使用についてウソの申告をして銃を購入したとして有罪評決を受け、脱税でもトラブルになりました。最終的には父の大統領から恩赦を受けるかどうかで一族がもめるなどの騒動も話題になっています。
いずれにしても、非常に複雑で屈折した経緯を辿ってきたのがハンター氏の半生というわけですが、ここへ来て同氏の動きが興味深いことになっています。それは、ズバリ、
「ダメ人間としての過去をさらけ出して開き直る」
という態度です。そして、これによって、
「民主党系だけでなく、保守系も含めたアンチエリート層に受けたい」
「少なくとも、カマラ・ハリスなどのエリート政治家が主導する民主党の党内政治を引っかき回したい」
という意図を持っているようなのです。これは非常に興味深い動きです。
では、具体的にどんなことをやっているのかというと、
「保守系インフルエンサーとの対談」
「トランプJRとの格闘技対決の申し込み」
「暗号通貨 $LAPTOP の立ち上げ」
と、なかなかどうして派手な動きをしています。
まず、保守系のインフルエンサーとの対談ですが、具体的にはキャンディス・オーウェンズというアフリカ系女性が相手で、アメリカの新保守界隈では結構人気がある人物です。原籍はリベラルながら、リベラルの冷たさと保守の暖かさを実感して転向。その後は、同じくアフリカ系のラッパー、カニエ・ウェストと歩調を合わせてみたり、「黒人の脱リベラル」という運動を展開したりしています。
その内容ですが、なかなか興味深いもので、まずお互いの家族における薬物濫用の「痛み」を語り合っています。その一方で、ハンター氏からは、父親の政権時代にホワイトハウスで発見され彼のものとされた「薬物」は、「自分のものではない」というファクトに関する発信もされています。
また、オーウェンズ氏からは、「以前、ハンター氏を攻撃したことへの謝罪」があったり、二人からは「一緒にバチカンへ行きたい」というコメントもありました。この「バチカン」というのは、勿論、イリノイ州出身のレオ14世のことです。レオ14世は「トランプのポピュリズムを否定」しつつ「エリート主義も同様に批判」していることから、左右対立を克服する鍵を持っているとされます。
ですから、保守のオーウェンズと、リベラルに属するハンターが、「一緒にバチカンへ行きたい」というのは、特別な意味があるのです。それは「トランプ的なものではない」と同時に「クリントン=オバマ的なものでもない」新しい連携を探すという意味になるからです。
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トランプ式へのパロディになっている「受け狙い」のネタ
2つ目と3つ目は、これはもっと「受け狙い」のネタといっていいと思います。ですが、実は手が込んでいるとも言えます。まず「ケージ内の格闘技」というのは、ハンターもドンJRも「塀の中に入ってもおかしくない存在」という自虐をかませつつ、プロレス好きを見せれば「庶民感覚だ」というトランプ式へのパロディになっているわけです。
また「$LAPTOP」というミームコインは、正に暗号資産「TRUMP」のパロディに他なりません。そして、実際に発行してみたものの、乱高下して大して儲からなかったという「オチ」までついています。
こうした「場末の際物ショー」的な行動ですが、勿論、ヒラリー派などのエリート系の民主党主流派は「眉をひそめて」いるわけです。ですが、保守の側からは「結構面白いじゃないか」という反応も出ています。これに乗じて、ハンター氏は、2028年の大統領予備選への参戦を口にするようになっています。
ハンター氏は勿論自分が本命候補ではないことは知っていると思います。ですが、自分が出て、TV討論の場で例えば「父の仇敵カマラ」などのエリート性を暴露できれば、面白い議論が喚起できるのでは、そんな思いはありそうです。カマラを叩けば、認知能力の低下している父はともかく、何かと確執の伝えられた継母のジルとの関係を修復して、バイデン家の家長として認知されるかもしれません。
それはともかく、Z世代などAIの脅威に晒され、団塊やミレニアル世代の金ピカなエリート主義は「本当に無理」と思っている世代が有権者の中核になってきています。そんな中で、トランプ主義という右派のポピュリズムは「さすがにやり過ぎて失速」しています。これに対して、リベラルな中での庶民主義のようなものを、どう打ち立ててゆくのか、これは難しい課題です。
この点については、民主党上院議員でありながら、製鉄業の復権を訴えてトランプとの連携を口にしているジョン・フェタマンなどとも部分的に共通するものがあるかもしれません(フェタマンは共和党への移籍の噂が絶えません)。とにかく、ヒラリーやオバマ、そしてハリスのような「リベラル・エリート」は「もう無理」という世代の声にどう応えるのか、このハンター氏の「お騒がせ」な行動は、その先駆、あるいは一種の触媒的な行動ではあるといえます。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年9月29日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「上野千鶴子さんの天皇制廃止論への大疑問」、人気連載「フラッシュバック81」もすぐに読めます。
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- 【Vol.658】冷泉彰彦のプリンストン通信 『バイデン次男の変則的な活動』(9/29)
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