クリエイターの発信を支える「まぐまぐ」の提供でお送りするラジオ番組『Why So Good?』。毎回ゲストを迎え、「何をやっているか」ではなく「なぜそれに至ったのか」を掘り下げる30分番組だ。今回のゲストは、ジャーナリスト/ファクトチェッカーの古田大輔氏。
古田氏は、朝日新聞記者、BuzzFeed Japan創刊編集長を経て独立。2022年より日本ファクトチェックセンターの編集長を務める。延べ2万人を超える記者や学生にデジタル報道セミナーを実施し、慶應義塾大学の非常勤講師、個人ニュースレター「コモンファクト」やYouTubeでの発信など、メディアと情報の現場で活動を続けている。
MC越川慎司氏(株式会社クロスリバー代表取締役)は、冒頭で「今日は一番聞きたいネタ」と切り出した。ハルシネーション、フェイクニュース、ディープフェイク——。ここから、AI時代に偽情報を見抜けなくなった私たちの現在地と、それでも情報を発信し続ける理由が、古田氏の言葉で語られていく。
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「見抜けたのは、わずか14.5%」——偽情報は、AI以前から世界を揺らしていた
越川: 事前にお話を伺って、今日の話はハルシネーションの域を超えていると聞きました。興味津々なのと、薄ら怖くなってきたのと、両方です。僕は七つのAIを使っていますが、精度が良くて87%、13%は間違えるからちゃんとチェックしてね、と思っていたんです。でも古田さんのお話では、AIどころじゃないと。意図的に嘘の情報を流す人間が山ほどいる、ということなんでしょうか。
古田: AIで問題が加速したのは確かです。ただ、AIの前から問題は大きかったんですよ。世界的に言われ始めたのは2016年。イギリスがEUから離脱するブレグジットの国民投票と、アメリカでトランプさんが最初に当選した選挙です。どちらも意外な結果だったので、状況を調べてみると、偽の情報が大量に拡散していたことがわかった。本当に、星の数ほど間違った情報があるわけです。
僕らが衝撃を受けた調査があります。日本で実際に拡散した15の偽情報を、2万人に見てもらいました。そのうち「見たことがある」という人に、これは本当だと思いましたかと聞いたんです。
しかもその15の情報は、そのことに少しでも詳しい人が見れば、一瞬で間違いだとわかるレベルです。僕が見たら全部わかりました。ところが、聞いた5,000人のうち、間違っていると見抜けた人は、わずか14.5%だったんです。
越川: 14.5%だけ。それは個人のリテラシーやスキルの問題ではなく、そもそも一般の人が見抜けない状態になっているということですか。
古田: そういうことです。「正しい」と答えた人は51.5%でした。人間には、それまでに学んできたことによるバイアスが、例外なく存在します。自分の持っている知識と食い違わないなと思えば、事実として受け取りがちなんです。
見抜ける自信は、当てずっぽうと同じ——ディープフェイクの現在地
古田: AIが特に恐ろしいのは、画像や動画が簡単に作れることです。AIで作った画像や動画を見抜く自信がある、という人が結構いるんですよ。特に若い世代に多い。
越川: 「これはAIだ」と。
古田: ただ研究によると、2024年の段階で、AIか本物かをイエス・ノーで当てるクイズをやったら、結果は当てずっぽうと同じレベルでした。僕はまだわかりましたけどね、2024年は。でも今年に入って、イラン戦争で大量のディープフェイクが出てきて、僕もわからなかった。世界中のプロが「これは無理だ」と言い始めたのが、今年です。
越川: 真偽を見抜くプロでさえ、画像や動画はほぼ見抜けない状態だと。
古田: 我々も見抜けないから、作る側は作りたい放題になっています。
上條: すごく初心者な質問なんですが、見抜くためのポイントは、何かあるんでしょうか。
古田: 一昔前は、AIで作ると看板の文字が崩れるとか、人間の歯の数が多すぎるとか、指が微妙に細いとか、いろいろあったんです。細部の描写が苦手だったので。でも最近のものは、ほぼそこをクリアしています。
そうなると、状況から判断するしかありません。イラン戦争の空爆の映像なら、こんなに近くから、素人がスマホで逃げもせずに撮れるはずがない。あまりにも映像がきれいすぎる。そういうことを手がかりにするわけです。
でも今度は、AIに指示を出す人間もそこを考えて、逃げ惑いながらの撮影、という指示を入れてくる。
越川: 揺らしながら撮れ、と。
古田: そう言えてしまうから、いたちごっこで、完全に向こうのほうが上なんです。
「嘘つきの分け前」——本物まで疑わされる時代
古田: さらに悩ましいのは、嘘の情報がブワーッと流れ始めると、本当の情報まで疑わなくてはいけなくなることです。「これ本当か?」と思ってしまう。これは「嘘つきの分け前」という専門用語があるんですが、結局、嘘つきの側が得をするんです。
越川: そちらのサイドエフェクトもあるんですね。
僕らも、AIの文章を見抜くAIを、ClaudeやChatGPT、Geminiで作ってみたことがあるんです。ただ、結局は裏返しだなと。まとめがちだとか、よく使う記号があるとか、第三者の意見で断定しないとか、「AIっぽい文章」の特徴を学習させると、AIはそれを避けた文章を作ろうとしてしまう。
古田: AIの文章を判定する研究でも、すごいなと思った結果があります。英語のネイティブではない人の文章を、AIが書いた文章だと判定する確率が高いというものです。僕は外資系で働いていたけれど、英語はそんなにうまくないんですよ。たどたどしさが、逆に「AIだ」と判定される可能性がある。悲しいですね。
上條: 人間のほうが、自分は人間だと証明しなくてはいけなくなる、ということですね。
古田: さっきの嘘つきの分け前と、同じようなパターンなんです。
快・不快を感じた瞬間が、バイアスのサイン
越川: そんなふうにファクトを常に追っている古田さんは、日常生活で情報に触れるとき、ご自身のマイルールはありますか。
古田: まず、僕にもバイアスがあります。偏りがあるんです。人間は、情報を見た瞬間に、みんな快・不快を感じるんですよ。この情報はいい感じだな、と思ったり、これはちょっと嫌だな、と思ったり。でもそれは、バイアスなんです。根拠も確かめていないのに、快や不快の感情を持っているわけですから。
だから僕は、これは自分のバイアスを理解するいいトレーニングだと思っています。あらゆる情報を見て、一瞬で「そうだよね」と思ってしまったら、「あ、今、自分のバイアスが動いたな」と考える。そのうえで、根拠をちゃんと調べていく。そこは常にやっています。
越川: 仕事ができる人は、まさに同じ行動をとりますね。まず、反応と決定を分ける。パッと出た反応は固定観念にとらわれていることが多いので、少し疑いを持つ。そして、解決のアクションは検証すること。嘘だと思ったなら、反対側を調べれば反証できる。そうして事実の真偽性を高めていく。
古田: 人間の行動は、すべてそれまでに得た情報をもとにした判断ですよね。だから日々の生活そのものが、情報を見分ける訓練みたいなものだと思うんです。
越川: そこにたどり着くには、「自分には知らないことがある」と認識しなければいけない。無知の知ですね。AIのモデルが5日に1回出てくるような時代には、特に必要だと思います。
古田: 先ほどお話ししたように、事実を事実として認知できる人は、14.5%しかいないわけです。人間の認知能力は、めちゃくちゃ弱いんだと、自分自身が知っておくことがすごく大切です。「私は知らないんだ」と知ることで、事実確認の精度が上がっていきます。
越川: 変化の激しい時代に一番生き残れないのは、知ったかぶりだと思っています。固定観念で新しい情報を入れない人は、柔軟に判断できない。謙虚に、知らないことを前提にファクトを確認していく姿勢が要るんですね。
情報の民主化は素晴らしい。だが、詐欺師にも開かれている
越川: 古田さんの今後のビジョンを、ぜひ教えてください。
古田: 僕が25年ほど身を置いている報道業界、ニュース、ジャーナリズムの世界は、もう本当にボロボロになってきています。インターネットで、みんなが個人で発信できるようになった。それは素晴らしいことで、僕は「情報の民主化」だと思っています。
ただし、誰でも情報を流せるということは、嘘つきだって詐欺師だって情報を流せるということです。それで、情報環境がむちゃくちゃになってきている。
その中で、皆さんが生きていくうえで、より幸せな決断を下せるような、信頼性の高い情報を、どれだけ出していけるのか。そう考えたとき、僕自身の発信力を高めていかなければいけないと思いました。僕は新聞社で働き、その後はアメリカのインターネットメディアの日本版で編集長を務めました。今は日本ファクトチェックセンターの編集長をやりつつ、自分自身の発信力を高めていく。それが「コモンファクト」のプロジェクトです。
上條: 先ほど伺った、個人のニュースレターですね。
古田: 「今更ニュースレター?」と思う人もいるでしょう。実は、サブスタックで始めたんです。アメリカ生まれのニュースレターサービスで、このたび日本に本格上陸してくれました。世界で一番稼いでいる人は、これだけで一人、8億円稼いでいると言われているんですよ。
「誰が言うか」が問われる時代に、ピンで立つ
越川: 深夜にラジオを聴いている方なら、BuzzFeedを見たことがない人は、あまりいないと思うんです。古田さんは、その編集長だった。僕は、どんな情報かということ以上に、誰が情報を出しているかのほうが重要になると思っています。情報そのものの真偽は、もうわからなくなっているので、誰が一次情報として出しているかがポイントになる。
古田: もちろん、僕のことも疑ってほしいんです。
ただ、面白い調査があります。英語で「オーセンティシティ」、その人が本物かどうか、ということですね。わずか10年、20年前は、NHKがそう言っているから本物っぽい、オーセンティックだと、人は思っていました。でも、みんながYouTubeなどをずっと見るようになったら、YouTuberのほうが自分たちの世界に近いから本物っぽい、という感覚になった。メディアの正当性が移ってしまったんです。それまでマスメディアが持っていたものが、個人の発信者のほうが信じられる、となった。
これはもう、戻ることはないと思います。だからこそ、僕はピンで頑張るしかないなと思ったんです。
越川: 最初は少し怖いなと思っていたのですが、今日のお話で若干、勇気も出てきました。無知の知があるからこそ、判断力を磨いていく。
世の中が絶望的に思えたら、90分、体を動かす
上條: 今後のビジョンの欄を拝見したら、HYROXで表彰台に乗る、サハラマラソンを走る、とありました。
古田: フィジカルを鍛えるのが好きなんです。情報を見ていると、悲しくなってくるんですよ。僕は朝5時から起きて仕事をしているんですが、1時間半ぐらい仕事をすると、世の中、本当に絶望的だなと思う。だからそこで90分運動すると決めていて、毎日90分、運動しています。
越川: 90分はすごいですね。サハラマラソンは、トップオブトップです。
古田: チャレンジャーかドMしか行かない、というくらい、僕、砂漠が好きなんです。
上條: 古田さんの最新情報は、各種SNS、そして個人ニュースレター「コモンファクト」でご覧いただけます。
番組概要
- 番組名:Why So Good?
- 放送局:interfm
- 放送日時:毎週木曜25:00~25:30
- 出演:越川慎司氏(株式会社クロスリバー 代表取締役)
上條美沙子氏 - ゲスト出演:古田大輔氏(ジャーナリスト/ファクトチェッカー)
- 公式サイト:https://www.factcheckcenter.jp/author/daisuke/ - プロデューサー:エダコDX
- ラジオ本編はこちらから https://www.interfm.co.jp/whysogood
- interfm(東京:89.7MHz 横浜:76.5 MHz) https://www.interfm.co.jp/
- 番組TikTok(https://www.tiktok.com/@whysogood_radio)
※本記事は、トーク番組「Why So Good?」の放送内容をもとに再構成したものです