みため重視の食育
『森の診療所から始める 旅こそアンチエイジング』第23号より一部抜粋
人は中身が大事、とは言っても、第一印象はその後の関係にも影響するし、外見をよくする、という観点は大事だと思っています
美人とか可愛い、という話をするつもりはありません。ただ健康的で清潔な外見、ということはコミュニケーション上、重要なファクターです。
子育てに失敗したお母さんの苦悩を綴ります。お母さんは60歳くらい、子供は28歳で知的障害を抱えた方でした。一見してひどいアトピー性皮膚炎、喘息で受診しました。ともかく顔が赤くはれ上がり、一部浸出液がにじむくらいひどいアトピー性皮膚炎なのです。
受診時、発作はなく、前回受診のときの喘息薬を処方してもらいたいらしく受診されました。
しかし、この方、かなりのタバコ臭。知的水準は別として年齢に達すれば酒・タバコは自由になります。そして偏食。お母さんにそこを指摘すると、食べないものを無理に食べさせるのはかわいそう。ただでさえ他の子と違って不憫だった。そう話されていました。
喘息もアトピー性皮膚炎もアレルギー疾患。それにタバコは喘息の気道粘膜をダイレクトに破壊するので、喘息の方はご法度。それから活性酸素を沢山発生するので、体内の炎症を増強し、すなわち皮膚の状態もかなり悪くなります。
もしもこのお母さんがわが子の将来を考えれば、読み書きよりも、偏食をなくす食べ物を与える努力とか、喫煙できる環境にはおかない、すなわちタバコを買うお金は渡さなかったはずです。
29歳の男性といえば力も強くなり、注意すると暴れだしたりする方は本当に手に負えなくなります。
だから小さい頃にひっぱたいても食育をすべきなのです。60歳になって子供の生活習慣改善を指示されなければならないお母さん(取り組むかどうかも不明ですが……)、お子さんより不憫です。
どんなにアトピー性皮膚炎、喘息の薬物治療をしても食事療法や禁煙をしなければ効果はありません。
もしこの男性、食事療法と禁煙で皮膚の状態が改善し、外見が健康的に見えれば、たとえ知的水準がどうであれ、ある程度人間のつながりに入りやすくなります。つまり生きる意味が見出せるはずなのです。そういう一生懸命な人びとが仕事をしながら幸せにくらしている福祉施設のことも私はよく知っています。
外見重視。この理論に上記の説明で異論があっても私はなんとも思いません。幸せは努力の上になりたちます。食育の基本テーマでもあるはずです。
生きていくことに最低限のことはスパルタでいい
最後に、もう一人の50歳くらいの、知的水準の低めの方。健診結果で脂質異常とメタボリック症候群を指摘されて私の外来へ。まず歩くことを指示し、1ヵ月後の受診。その方は体重が3kgも落ちてお腹まわりもすっきり。体重測定した看護師さん、栄養士さん、そして私に「よく頑張ったね!」と声をかけられ、「どうやって痩せたのですか?」と質問したら「○○駅から△△まであるいて……そして引き返して××に行って……」とても不器用な返答でしたが、そこには明らかに努力の後が……。
そしてちょっと涙ぐみながら「先生、本当にありがとう、おれ嬉しい、ありがとう……」と言ってくださった。
たぶん、この方、何をやっても「駄目だ」ばかり言われてきたのじゃないかな……。50歳といえばそういう年代、今回の「歩く」という努力が実を結んだのです。
駄目なものはダメ、生きていくことに最低限のことはスパルタでいいのです。毎年健診で体重が増加する一方の重役さんたち、少しは見習ってほしいのです。
最後に強調します。食育はスパルタだっていい。強引な「手法」ですが、私が最も大事だと思っていることは「空腹を感じさせる時」。
乳児アトピーの赤ちゃんのミルク、すごく不味いらしいのですが、小児科の先生がお母さんに、「最初は飲まないけど、背に腹は変えられないから絶対飲みますよ」そうですねえ。
今回はかなりきついことを話しました。ごめんなさい。
それで高校生の食育のテーマの一つに
みための食育学。アンチエイジング学会の分科会に「みためのアンチエイジング」というのが存在します。突き詰めるところ、美学という道なのですよ。 これは教える価値のある項目です。