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80歳の居住者に「建て替え」を提案…高齢マンションが抱える再生問題

大規模な改修などを行い、不動産としての価値を保ち続けようという「マンションの再生」ですが、そこには大きな壁が立ちはだかっているといいます。メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』の廣田信子さんは、住民のコミュニティがマンションの将来のカギを握っていると指摘しています。

コミュニティなくして再生は不可能?

こんにちは! 廣田信子です。

建物の高経年化、居住者の高齢化が進んだマンションをただ維持管理するだけなく、今の時代の基準やニーズを満たすようにバリューアップすることで市場での価値を維持して長く使っていこう…。

マンションの再生長寿命化とは、ざっくり言うとこういうことです。

新耐震基準で、ハートビル法以後建てられたバリアフリー対応のもので、早くから価値を維持するための戦略をもって取り組んでいるマンションは長く住居としての価値を持ち続けられると思います。

問題は…通常の維持管理は何とかやってきたが、バリューアップまではとても手が回らない…高齢化が進行し、全体に活気がなくなり、市場価格もかなり下がってきている…亡くなる方も多くなり、それによる空室も増えている。

そういう状況になっているマンションをどう再生していくか…です。

長寿命化を図り、魅力的なマンションに再生して市場での価値を維持しいこう、というのは簡単ですが、その合意形成は簡単なことではありません

80歳の一人暮らしの人に対して、「30年後を考えたら今手を打つことが重要なんだ。まとまった金額の費用負担が生じても、場合によっては一時仮住まいが必要でも、耐震性が確保され、若い人にも魅力的なマンションに今再生させるべきで、それが資産価値を上げることになるんだ」と力説しても、賛同を得られにくいのは当然だと思います。自分が80歳の当事者でも反対しそうです。

多額の費用負担を伴い、長期の仮住まいが必要な「建替え」について、4/5の賛同を得るのは難しいのだったら「再生」でいくしかないんだ…ということになっても、大きな変更を伴う「再生」には、3/4の賛成が必要で、この3/4を確保することすら至難の業なのです。

先週、マンションの再生を支援している専門家と話をしました。合意形成の苦労話を語っていた彼が、ポロッと「結局、コミュニティしかないんですよ。最後、3/4の賛成が確保できるかどうかは…」…と。

何だか、私のいつものセリフみたいですが…私が誘導したわけでは決してなく、こぼれるようにポロッと出たことばです。それだけ、管理組合と接していて感じる実感なんだと思います。

住んでいる人たちの仲間意識なくして、高齢化が進んだマンションの再生に向けての合意形成は考えにくい…私も同じ思いです。

自分だって、超高齢になって周りとの付き合いも薄かったら、きっと今の生活を変えたくない、今のままで十分と思う気がします。今後の介護や病気にどれだけお金がかかるか読めないのにまとまったお金を支出したくないわ~、しかも一時的に引っ越さなくちゃならないなんて、絶対にいやだわ~と思い、「反対」というでしょう。どちらにしていいか分からなくて、意思表示をしないことも考えられます。

でも、同じマンションで長い時間を共にし、一緒に役員をしたり、お祭りをしたりという仲間がいれば…次世代の人たちとも挨拶や立ち話を交わす場があれば…そして、その人たちが一生懸命取り組んでいる姿を見ていたら、自分はもうとても役員はできないけど、次の世代の人たちが30年後を思って、マンションを今立て直そうとしているのであれば、自分ができる最後のコミュニティへのご奉公として、再生の計画に賛成しよう…と思える気がします。

そういう人間の心理を嫌って、「コミュニティなんてなまじあると、自分がどうしたいかより、周りの空気を読んだ意思表示をする人が出て、そのお蔭で結局損をさせられている人が出る」と言った有識者がいました。この人の言う、損得というのは金銭的な見返りのことを言うのでしょうか(それだって、市場でそんなにいつも得な判断ができる人って少ないと思いますが…)。

でも、人間は、そんなに自分にとっての目先の損得だけ考えて日々の決断をしている訳ではありません。お世話になった人には、何かお返したい…いつも優しくしてくれる人からの頼まれごとなら、ちょっと無理しても聞いちゃう…頑張っている姿を日々見ていたら、何とか協力しようという気持ちになる…特に意識をしなくても、そういう周りとのかかわり合いの中で、私たちは小さな決断を積み重ねているのではないでしょうか。

私なんか、非合理の塊みたいな生き方と言われそうですが、ほとんどそうやって生きている気がします。そして、同じように、そういう周りに支えられて生きていると感じています。

自分が超高齢になって、あとどのくらい生きられるかな…という時になって、自分のいなくなった後にマンションに暮らすだろう人たちのことを思って負担を伴う「再生」に賛成するってすごいことだと思うんです。ここが自分の居場所だと思え、周囲への信頼や感謝がなければ、そういう気持ちにはならないと思います。だから、そういう気持ちになれるコミュニティを地道に育むことが必要で、それがマンションの将来のカギを握っているのです。

で、彼曰く、「すでに2つの老いがすすんでいるマンションは、できるだけ早く再生に向けての合意形成をしてほしい。そうしないと、仲間意識のベースがあった人たちが、高齢で意思表示が難しくなったり、亡くなったりして、どんどん決議に加われなくなってしまう。それによって反対者はごく少数なのに、賛成という明確な意思表示がない人が増えていくために3/4というのがとてつもなく高いハードルになるんだよね。住戸はこれだけ余っているんだから。全部が、市場価値がある活気のあるマンションとして生き残ることは難しい。合意形成できないマンションは市場からこぼれ落ちてもしょうがない」…と。

人にさりげなく心を配り合うコミュニティがなく、ガチガチの管理組合運営で、つねに理事会や総会が戦いの場になっているようなマンションは、重大な合意形成の場面で、厳しい現実を経験することになると思います。

それがよく分かっているからこそ、「コミュニティなんていらない派」の人の中から特別多数決議なんていらない、建替えも再生もすべて過半数で決められるようにすべきだ、なんて暴論が出てくるんですね。

究極の上から目線~。

image by: Shutterstock

 

まんしょんオタクのマンションこぼれ話
マンションのことなら誰よりもよく知る廣田信子がマンション住まいの方、これからマンションに住みたいと思っている方、マンションに関わるお仕事をされている方など、マンションに関わるすべての人へ、マンションを取り巻く様々なストーリーをお届けします。
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