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日本国民に対する裏切り行為。アメリカの意向に沿い国の形を変えてきたポチぶりを米国議会でアピールした岸田演説の“狂気の沙汰”

4月11日、日本の首相としては9年前の安倍晋三氏以来2人目となる「米議会上下両院合同会議」での演説を行った岸田文雄氏。国内大手メディアでも大きく取り上げられましたが、その内容を改めて精査すると数々の問題点が浮かび上がってくるのが事実のようです。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、首相官邸のHP等に掲載されている岸田氏の演説の全文を引きつつ、何が問題であるかを詳細に解説。その上で、「非常に屈辱的で強烈な違和感が残る最低の演説」と結論付けています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:岸田首相の米議会での演説について

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

歴史に残る売国演説。Google日本元社長が岸田首相「米議会演説」に猛ツッコミ

先日、岸田首相が訪米して現地時間の4月11日に米連邦議会上下両院合同会議で「未来に向けて -我々のグローバル・パートナーシップ-」と題したスピーチを行いました。

今回の岸田首相の訪米について、日本の大手メディア各社は、「国賓待遇」ということを強調して、「両国の絆がかつてなく深まった」などと概ね好意的な報道に終始しました。上記の演説についても、「英語が流暢だった」とか「15回もスタンディングオベーションがあった」などと概ね高評価のようでした。

岸田首相自身も、バイデン大統領に大統領専用車「ビースト」に乗せてもらって、その時のツーショット写真を公開するなど、裕子夫人共々大はしゃぎで、終始ご満悦の様子でした。

もちろん、我が国にとって、日米同盟は外交や安全保障の基軸であり、経済面からも両国の関係を良好かつ緊密に保つことは極めて重要です。しかしながら、大きく変わりゆく世界情勢の中で、現在の米国には、覇権国家としてのかつての一極集中的な勢いはもはやありません。

中国が台頭し、ロシアが戦争を始め、中東情勢が再び不安定になり、グローバル・サウスと呼ばれる国々の米国離れも進む中、今の岸田政権の度を越したとも言える対米追従一辺倒のスタンスは、逆に我が国の国際的な立ち位置を危うくするものではないかと危惧しています。

今回は、岸田首相訪米のハイライトであった上記の米議会での演説について、私なりに突っ込んでみたいと思います。

なお、同演説は、首相官邸ホームページに日本語訳が掲載されていますので、その全文を以下に引用しました。なお、外務省ホームページにも同様の内容がPDFで掲載されており、こちらには英文の原稿も同じくPDFで掲載されています。

首相官邸ホームページ演説原稿(日本語訳)
外務省ホームページ演説原稿(英語)
同上(日本語訳)

誰が原稿を書いたのかはわかりませんが、外務省が書いて、それを岸田氏側近の木原誠二氏あたりが添削したか、または逆に木原氏が原文を書いてそれを外務省が添削したか、そんなところでしょう。

報道によると、1980年代にレーガン米大統領のスピーチ原稿を書いた経験があるベテランの米国人スピーチライターを起用し、岸田氏はそのライターが録音した発音を何度も聞き返しながら練習したともあります。万が一、その人物に原稿の内容にまで介入させていたとすれば、とんでもない話です。

(岸田首相演説始まり)

議長、副大統領、連邦議会議員の皆様、御来賓の方々、皆様、ありがとうございます。日本の国会では、これほど素敵な拍手を受けることはまずありません。そして、ギャラリーにいる妻の裕子を御紹介します。私が裕子と結婚したという一事をもって、私の決断全てが正しいものであると、皆様に信用いただけるのではないでしょうか。

辻野突っ込み:いきなりですが、失礼ながら、裕子夫人についても私はかなり疑問符を付けています。岸田家は翔太郎氏の問題や、首相公邸でのファミリー忘年会などのスキャンダルもありました。夫人が本当にしっかりした人なのであれば、旦那も息子ももう少しまともなのではないのかと思ってしまいます。

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岸田首相の「暴走の原動力」になっている虚栄心の正体

民主主義の本丸であるこの議場で、そして米国国民の代表である皆様の前で、こうしてお話しできることを大変光栄に存じます。9年前、私の盟友であった故・安倍元総理が、正にこの壇上で、「希望の同盟へ」と題した演説を行いました。私は当時、安倍内閣の外務大臣として両国間のきずなを目の当たりにし、深く感銘を受けました。

辻野突っ込み:この人には、安倍氏に対するコンプレックスが常に付いて回っている印象を受けていますが、ここでもそう感じました。実はこれは非常に危険なことで、単に「安倍氏を超えたい」というちっぽけな虚栄心がこの人の暴走の原動力になっている気もします。

幼少期からずっと、私は米国とのつながりを感じてきました。おそらく、小学校の最初の3年間をニューヨークのクイーンズにある公立小学校であるPS20とPS13で過ごしたからでしょう。日本人は私一人でしたが、同級生達は私を親切に受け入れてくれ、お陰で新しい文化に溶け込むことができました。そうしてニューヨークにやって来た私たち家族は、1963年の秋から数年間にわたり、米国人と同じような生活を送りました。父は通商担当官として、職場のマンハッタンまで地下鉄で通っていました。私たちは、メッツやヤンキースを応援し、コニーアイランドでホットドッグを頬張り、休日には、ナイアガラの滝や、ここワシントンD.C.まで出かけたものです。

そして今も思い出すのは、日本の少年にとっては物珍しく面白かったアニメ「フリントストーン」。今でもあの番組を懐かしく感じます。ただ、「ヤバダバドゥー」の意味を日本語訳することはできませんでしたが。あれから60年の歳月を経て、クイーンズの善良なる皆様にメッセージがあります。私の家族と私をあれほど温かく迎えてくださって、ありがとうございました。あの時代のことを、私は一時も忘れたことはありません。

辻野突っ込み:私は岸田氏と同年代の1957年生まれなので、フリントストーンに郷愁を感じる感覚はわかる気がします。岸田氏が米国生活をしていた頃は、まさに懐の深い古き良き時代の米国を体感できたのではないでしょうか。『パパは何でも知っている』や『奥様は魔女』などの米国のテレビ番組が日本でも放映され、それらを通じて垣間見た圧倒的に豊かな米国という国への一方的なあこがれが、どんな日本人にも多かれ少なかれあった時代だと思います。

だからこそ、私は本日、米国の長く、親しい友人として、皆様にお話しさせていただきます。米国国立公園局が、タイダル・ベイスンの再生プロジェクトを実施中と承知しています。日本は友情のあかしとして、米国の建国250周年に先立ち、タイダル・ベイスンに植えられる予定の桜250本を贈呈させていただきます。

当時のことをおぼえている方もいらっしゃるかもしれませんが、1964年の世界博覧会は、クイーンズで開催されました。シンボルは巨大な球体のモニュメントで、テーマは「相互理解を通じた平和」でした。

しかし、今の私たちは、平和には「理解」以上のものが必要だということを知っています。「覚悟」が必要なのです。米国は、経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくりました。自由と民主主義を擁護し、日本を含む各国の安定と繁栄を促しました。そして必要なときには、より良い世界へのコミットメントを果たすために、尊い犠牲も払ってきました。

辻野突っ込み:平和には「覚悟」が必要だ、と言うのであれば、ここでは、かつて太平洋戦争でお互いに戦った相手である両国の歴史に言及すべきだったでしょう。その上で、悲惨な戦争の教訓を生かし、戦後は戦争を放棄し平和憲法を掲げる国に生まれ変わった日本国の「平和に対する覚悟」について語るべきでした。

米国は、「世界の警察」的な役割で戦後の国際秩序の構築に貢献してきた半面、ネオコンの戦争屋たちが常に世界のどこかで紛争や戦争を起こすための工作を続けてきました。最近では、ウクライナ戦争を画策した一人と言われ、国務次官を務めたビクトリア・ヌーランドがTV番組で堂々と「戦争は米国の国益に寄与している」という主旨の発言をしています。

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中国の脅威を煽ったり強がりを言う前にまず見直すべきこと

およそ人類は、権威主義的な国家に抑圧されるような、つまり、追跡され、監視され、自己の内心の表現を否定されるような生き方はしたくない。米国の政策はそのような前提に基づいていました。

辻野突っ込み:2001年の9.11同時多発テロ以降、対テロ諜報活動の名目で、NSA(米国家安全保障局)などが米国の一般市民だけではなく、同盟国含めた各国の通信を傍受・監視していることはエドワード・スノーデンが命懸けで告発しており、この話はオリバー・ストーン監督によって映画にもなっています。

米国は、自由こそが人類にとっての酸素のようなものだと信じていました。この世界は、米国が引き続き、国際問題においてそのような中心的な役割を果たし続けることを必要としています。しかし、私は今日、一部の米国国民の心の内で、世界における自国のあるべき役割について、自己疑念を持たれていることを感じています。

この自己疑念は、世界が歴史の転換点を迎えるのと時を同じくして生じているようです。ポスト冷戦期は既に過ぎ去り、私たちは今、人類史の次の時代を決定づける分かれ目にいます。米国が何世代にもわたり築いてきた国際秩序は今、新たな挑戦に直面しています。そしてそれは、私たちとは全く異なる価値観や原則を持つ主体からの挑戦です。自由と民主主義は現在、世界中で脅威にさらされています。

辻野突っ込み:国際秩序への新たな挑戦とは、中国やロシアの脅威を指しているのでしょうが、米国に迎合していたずらに対立の構図を強調するのではなく、今こそ異なる価値観や原則を持つ国々との対話の重要性や、彼等も含めた新たな合意形成や国際秩序の構築が求められている、その為に日米で協力していこう、ということこそを主張すべきでしょう。自分たちと異なる価値観や原則を持つ国々を単純に敵や脅威と見做すようでは、未来永劫世界平和など実現しません。

それにしても、自民党政治や岸田政権によって、今や足元自国での自由と民主主義がかつてない脅威にさらされてることをこの人はどこまで自覚しているのでしょうか…

気候変動は、自然災害、貧困、そして地球規模での避難民を引き起こしています。新型コロナウイルスのパンデミックでは、全人類が苦しみました。AI(人工知能)技術の急速な進歩により、AIの本質をめぐり、その将来性と危険性との狭間で、攻防が繰り広げられています。経済力のバランスは変化しています。グローバル・サウスは、課題と機会の双方に対処する上で一層重要な役割を果たし、より大きな発言力を求めています。

日本の近隣諸国に目を向けると、現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向は、日本の平和と安全だけでなく、国際社会全体の平和と安定にとっても、これまでにない最大の戦略的な挑戦をもたらしています。中国からのこのような挑戦が続く中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序や、平和を守るというコミットメントは、引き続き決定的な課題であり続けます。

辻野突っ込み:ここでも米国受けを前提に中国の脅威を煽っていますが、岸田政権は中国とほとんど対話をしていません。米国追従一辺倒で国内支持率が低迷する岸田政権を中国がまったく相手にしていない、という現実がありますが、中国の脅威を煽ったり強がりを言う前に、まず日本の対中外交を見直すべきでしょう。

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「今日のウクライナは明日の東アジア」という無責任極まりないセリフ

広島出身の私は、自身の政治キャリアを「核兵器のない世界」の実現という目標にささげてきました。NPT(核兵器不拡散条約)体制の再活性化と、国際的機運の向上に長年取り組んでまいりました。しかし、東アジアでは、核兵器拡散の差し迫った危険が存在します。北朝鮮による核・ミサイル計画は、直接的な脅威です。北朝鮮による拉致問題は、引き続き重大な問題です。北朝鮮による挑発は、地域を越えたインパクトをもたらしています。北朝鮮は、ウクライナに対する侵略戦争を支援するための弾道ミサイルをロシアに輸出し、その結果、ウクライナの人々の苦しみを大きく増大させています。

辻野突っ込み:よく言うよ、と思います。広島出身を売りにしながらも、米国の顔色を窺って核兵器禁止条約(TPNW)への参加すら見合わせている立場で、自身の政治キャリアを「核兵器のない世界」の実現という目標にささげてきたとは、詭弁もたいがいにして欲しいものです。

それこそ、本気でそう言うのであれば、昨年5月のG7広島サミットはその主張に沿ってG7各国の背中を押す最大のチャンスだったわけです。しかし、声明文の中でも核による抑止力を肯定し、サプライズでウクライナのゼレンスキー大統領の訪日まで受け入れて、まるでG7というよりもNATOの会合のような内容に失望した国民も多かったのではないでしょうか。

そして、核の脅威を語るのであれば、北朝鮮の話に逃げるのではなく、それこそ世界で唯一人類に対して核攻撃を仕掛けた国である米国に対して強くその反省を求め、二度と使わないことを誓わせることこそが世界で唯一の被爆国日本の代表がその加害国に対して示すべき態度でしょう。

特に、映画『オッペンハイマー』が先月から日本でも公開されたばかりですから、直接的に言いにくいのであれば、この映画について触れる形で上手にクギを指すメッセージを盛り込むような機転を利かせることも出来たのではないかと思います。

ロシアのウクライナに対するいわれのない、不当で残酷な侵略戦争は3年目を迎えました。私がよく申し上げているとおり、今日のウクライナは明日の東アジアかもしれません。さらに、ロシアは核による威嚇を継続しており、核兵器の惨禍が実際に再び繰り返されるのではないかと世界が懸念しています。このような現実の中で、日米同盟の抑止力の信頼性と強靱(きょうじん)性を維持するために、日米間の緊密な連携がこれまで以上に求められています。

辻野突っ込み:この辺からにわかにきな臭くなってきます。岸田氏は、まるで決めゼリフのように「今日のウクライナは明日の東アジア」とよく言いますが、これもかつて安倍元首相が決めゼリフにしていた「台湾有事は日本有事」を彷彿させる無責任極まりないセリフです。

有事に至るのは外交の失敗です。日本の政治家の責務は、台湾有事を起こさないように、あるいは明日の東アジアの平和と安定を守るために、前述した通り中国や今や敵国となったロシアと積極的に対話をしたり米国との間を取り持つことでしょう。その努力を怠って無責任に脅威を煽るような発言を継続することは、一国の首相として慎むべきであると思います。

ロシアの核による威嚇と言いますが、そもそもトランプ大統領時代の2018年に、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から一方的に離脱したのは米国の方です。繰り返しますが、日米同盟が重要なことは当たり前ですが、一方で、国際情勢の変化に応じて、日米間の連携については、むしろ適度な距離や節度を保つことこそがこれまで以上に求められているのです。

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アメリカを「正義のヒーロー扱い」するという不適切

新しい形の抑圧が、世界で見られるようになっています。デジタル技術を通じた自由の抑圧も行われています。ソーシャルメディアは検閲され、監視され、そしてコントロールされています。経済的威圧や、いわゆる「債務の罠」外交と呼ばれる、国家の経済的依存を悪用し、武器化する事例が増加しています。

辻野突っ込み:名指しこそしていないものの、ここも暗に中国を指していることは明らかですね。しかし、前述の通り、今や米国も似たようなものです。

このように急速に変化する困難に直面し、私たちは、私たちが共有する価値をいかに守り続けるのでしょうか。ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国。そこで孤独感や疲弊を感じている米国の国民の皆様に、私は語りかけたいのです。そのような希望を一人双肩に背負うことがいかなる重荷であるのか、私は理解しています。

世界は米国のリーダーシップを当てにしていますが、米国は、助けもなく、たった一人で、国際秩序を守ることを強いられる理由はありません。もちろん、米国のリーダーシップは必要不可欠です。もしも米国の支援がなかったら、モスクワからの猛襲を受けたウクライナの希望は、どれほど前についえ去ってしまっていたことでしょう。もしも米国の存在がなかったら、インド太平洋地域はどれほど前に、より厳しい現実にさいなまれていたことでしょう。

辻野突っ込み:この辺のくだりになると、何とも感情的、煽情的な訴えになっていることに驚かされます。まるで米国は、世界の秩序を維持するために孤軍奮闘を続けてきて、身も心も疲れ果てたヒーロー扱いで、そのヒーローに過剰とも言える労いと賛辞を送っている印象です。しかし、米国は本当にヒーローでしょうか。

繰り返しますが、米国は自国のエゴのために世界各地で紛争や戦争を画策してきた歴史を持つ国です。以前にこのメルマガでも何度か触れた通り、ウクライナに関しても、米英の戦争屋たちが巧妙にプーチンを追い込んでいったことを忘れてはなりません。先ほども言いましたが、前国務次官ビクトリア・ヌーランドなどは、ウクライナの戦争によって米国の経済が活性化し軍需産業関連企業の株価が上昇したことは米国の国益に寄与していると発言しています。

正義のヒーロー扱いは、社交辞令にしてもほどがある、というところでしょう。

皆様、米国の最も親しい友人、トモダチとして、日本国民は、自由の存続を確かなものにするために米国と共にあります。それは、日米両国の国民にとどまらず、全ての人々のためにであります。私は、これを米国への強い愛着から述べているのではありません。私は理想主義者であると同時に、現実主義者です。自由、民主主義、法の支配を守る。これは、日本の国益です。日本国民は、これらの価値に完全にコミットしています。人権が抑圧された社会、政治的な自己決定権が否定された社会、デジタル技術で毎日が監視下にある社会を、私は我々の子供たちに残したくありません。皆様も同じく感じておられますよね。これらの価値を守ることは、日米両国、そして世界中の未来世代のための大義であり、利益でもあるのです。

辻野突っ込み:米国の最も親しい友人と言い切っていますし、トモダチとして米国と共にある、としていますが、本当にそうであれば、相手にとって耳の痛いことも直言し、ノーと言うべきことに対してははっきりノーと言うのが本来あるべき姿でしょう。

岸田氏が理想主義者であると同時に現実主義者であるというのは初耳です。少なくとも私は岸田氏が理想を語る姿を見たことがありません。また、現実主義者として数々の課題に正面から向き合って真摯に解決しようと努力する姿も見たことがありません。

足元の自国では、政府の暴走が続き、社会的弱者の人権が抑圧され、デジタル行政の皮切りとなるはずのマイナカードでは混乱と不安が広がっています。河野太郎大臣は、マイナ保険証での受け付けができない医療機関があった場合、公的相談窓口に連絡するよう要請する文書を自民党議員に送付していて、岸田首相も24日の参院予算委で「不適切なものではない」としています。しかし、国会議員を使って「通報」を促すのは監視社会を想起させ、自由国家の理念には馴染みません。

他国に上記のような呼びかけを行うのであれば、まず自国で有言実行すべきでしょう。

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平和憲法を掲げる日本国民に対する裏切り行為

今この瞬間も、任務を遂行する自衛隊と米軍の隊員たちは、侵略を抑止し、平和を確かなものとするため、足並みをそろえて努力してくれています。私は隊員たちを賞賛し、感謝し、そして、隊員たちが両国から感謝されていることが、私たちの総意であると知っています。

辻野突っ込み:自衛隊と米軍とでは、そもそもミッションが全く異なります。その両者を一体として扱うようなメッセージは誤解を招くものであり厳に慎むべきです。

「自由と民主主義」という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇りに思います。共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、成すべきことをする、その準備はできています。世界中の民主主義国は、総力を挙げて取り組まなければなりません。皆様、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。

辻野突っ込み:ここでは、自衛隊と米軍ということだけでなく、さらに踏み込んで両国が一心同体のような表現をしています。言うまでもなく、両国はそれぞれ別々の独立国家であり、国の成り立ちも歴史も全く違います。お互いに大切な同盟国ではありますが、まるで運命共同体であるかのようなメッセージは国際社会に間違った印象を与えることにもなります。同盟国ではあっても、当然利害が一致することもあれば対立することもあるので、ここまで言い寄るのは明らかに度を越えています。

日本は長い年月をかけて変わってきました。第二次世界大戦の荒廃から立ち直った控え目な同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました。日本は国家安全保障戦略を改定しました。インド太平洋地域の将来の安定に関する不確実性が、私たちの政策、さらには考え方自体を変える契機となったのです。私自身、日米同盟を一層強固なものにするために、先頭に立って取り組んできました。

2022年、日本は、2027年度までに防衛予算をGDP(国内総生産)の2パーセントに達するよう相当な増額を行い、反撃能力を保有し、サイバーセキュリティーを向上させることを発表しました。今日、日米同盟の抑止力は、かつてなく強力であり、それは米国の日本への拡大抑止によって強化されています。

日本は、ロシアによるウクライナ侵略を受け、強力な対露制裁を実施しています。ウクライナに対し、対無人航空機検知システムを含む120億ドル以上の援助を表明してきました。このシステムの供与は、NATO(北大西洋条約機構)による支援策の一環であり、そう、日本は、地球の裏側にあるNATOとも協力しているのです。さらに、2月、荒廃したウクライナがこの苦難の時を乗り越えることを支えるべく、私はウクライナの経済成長と復興のための会議を主催しました。日本はこれからもウクライナと共にあります。

地政学的な状況が変化し、自信を深めるにつれ、日本は米国の最も近い同盟国という枠を超えて、視野を広げてきました。日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです。日米関係がこれほど緊密で、ビジョンとアプローチがこれほど一致したことはかつてありません。

辻野突っ込み:上記の4段は、今回の岸田演説のまさにクライマックスと言えるでしょう。そして、ここで述べられていることは、安倍政権の時代から岸田政権の時代にかけて、国民への説明や国民との合意形成を十分に行わないまま、政権が米国の意向に沿って勝手に日本という国の形を大きく変えてきたことについて、懸命にアピールしている内容と言えます。

米国と欧州の軍事同盟であるNATOのメンバーでもないのに、NATOに協力していることを誇らしげにアピールするのは、平和憲法を掲げる日本国民に対する裏切り行為とも言え、私には狂気の沙汰としか思えません。

また、本来、ウクライナへの支援はウクライナ国民への人道支援に限定すべきであり、ウクライナ政府への軍事支援に加担するようなことは断じてすべきではないと思います。「日本はこれからもウクライナと共にある」というメッセージは、ウクライナ政府やNATOに加担し続けるというメッセージでもあり、あまりにも軽率です。

軍事力を強化してNATOとも協力し、これからは米国のグローバル・パートナーとして地球の裏側で起きる紛争や戦争にも日本は積極的に介入すると宣言したにも等しいこのメッセージは、まさに日本国憲法をないがしろにするものであり、許し難い思いがするだけでなく、日本の将来に禍根を残すものとなることを憂えます。

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何の実態もない「新しい資本主義」を猛烈アピール

今日、両国のパートナーシップは二国間にとどまりません。例えば、米国、日本、韓国、豪州、インド、フィリピンによる三か国間や四か国間の協力、さらにはG7を通じた協力や、ASEAN(東南アジア諸国連合)との協力が挙げられます。日米韓の首脳は、三か国のパートナーシップの新時代の幕を開くため、昨夏、キャンプ・デービッドに集いました。

このような様々な取組から、多層的な地域枠組みが生まれ、日米同盟はその力を増強させる役割を果たしています。そして、同志国と共に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指しています。こうした努力に対し、ここ米国連邦議会では、超党派の強力な支持が頂けるのではないでしょうか。

辻野突っ込み:ここも米国受けを狙った中国包囲網の構築に日本も一役買うことをアピールしているものと思われますが、いたずらに中国を挑発してもいいことは何もありません。

日本は米国のリーダーシップを信じています。そして、米国の経済を信じています。日本は世界最大の対米直接投資国です。日本企業は、約8,000億ドルを投資し、米国内で約100万人の雇用を創出しています。これらは良質な雇用であり、製造業だけで50万人の雇用を生んでいます。

日本国内では、私は日本経済を牽引するために「新しい資本主義」という取組を推進しています。現下の課題や取組を成長の力へと変化させるために官民が連携しています。賃上げ、設備投資、株価。全てが30年ぶりの高い水準に達しました。日本経済は現在、いまだかつてない大きな変化を力にして、前進しています。成長志向の日本経済は、米国への更なる投資にもまた拍車をかけることでしょう。そして、日米両国は今後、世界経済を後押しし、力強い成長軌道へと導くことでしょう。

辻野突っ込み:これも空しく響くだけです。「新しい資本主義」に何の実体もないことは日本人なら誰でも知っています。2023年の日本の貿易収支は約6兆円の赤字ですが、その大半をデジタル関連が占めます。しかもデジタル関連収支の赤字は年々大きくなっています。すなわち、クラウド、DX、AIといった最先端の技術分野では、国内産業がほとんど育っていないのです。

国内は30年ぶりの株価高騰に浮足立っていますが、これは円安や中国経済の減速などによる外国資本の流入に起因するところが大きく、必ずしも日本経済が成長軌道に乗ったことを意味しているわけではありません。むしろこの30年間、日本経済が全く成長してこなかったことを強く印象付ける結果となっています。

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屈辱的で強烈な違和感が残る最低の売国演説

つい昨日、バイデン大統領と私は、AI、量子、半導体、バイオテクノロジー、クリーン・エネルギーといった次世代の新興技術の発展において、日米両国が世界をリードすることへのコミットメントを示したところです。そしてまた、両国間の協力分野は宇宙にも広がっています。これは、明るく希望に満ちた明日への道を照らしています。1969年のアポロ11号による月面着陸のテレビ中継は、今でも私の記憶に焼き付いています。

1月に、日本の月探査機は、史上初の月面へのピンポイント着陸を達成しました。昨日、バイデン大統領と私は、アルテミス計画の将来ミッションにおいて、日本人宇宙飛行士が米国人以外として初めて月面に着陸することとなると発表しました。本日は、2名の宇宙飛行士に来ていただいています。星出さん、タニさん、御起立いただけますでしょうか。星出彰彦氏は、これまでに3回、宇宙に飛び立たれてきました。また、2021年には国際宇宙ステーションの船長を5か月間務められました。

隣にいらっしゃるのはダニエル・タニ氏です。タニ氏は、船外活動を6回経験した日系米国人の元宇宙飛行士で、2回のミッションでは、なんと5,000万マイル以上のフライトを達成しました。ものすごい大量のマイレージ・ポイントになりますね。星出氏とタニ氏は、宇宙における日米協力の象徴的存在です。両国は今後も、このような協力をもっともっと将来にわたって築いていきます。お二人ともありがとうございました。

最後に、一言述べて締めくくらせていただきます。日本が米国の最も近い同盟国としての役割をどれほど真剣に受け止めているか。このことを、皆様に知っていただきたいと思います。私たちは共に大きな責任を担っています。日米両国は、平和にとって、自由にとって、そして繁栄にとって、必要不可欠な存在です。そう私は信じます。信念というきずなで結ばれ、私は、日本の堅固な同盟と不朽の友好をここに誓います。

「未来のためのグローバル・パートナー」。今日、私たち日本は、米国のグローバル・パートナーであり、この先もそうであり続けます。本日の御招待、皆様のおもてなし、そして米国が世界で果たしている役割に感謝します。

(岸田首相演説終わり)

辻野突っ込み まとめ:以上、岸田首相の米議会での演説にさまざま勝手な突っ込みを入れさせていただきました。日本のメディアでは、「意外と英語が上手だった」とか「米議員たちから賞賛された」などと表面的なことばかりをポジティブなトーンで報じるものが目立ちましたが、私にとっては非常に屈辱的で強烈な違和感が残る最低の演説に思えました。

歴史的に、日本は太平洋戦争で敗戦国になったことにより、米国の占領下に入り、その後、サンフランシスコ平和条約の締結によって形式的には独立国としての主権を取り戻しました。しかし、実質的には、日米合同委員会や米軍基地問題、横田空域問題などに象徴される通り、米国を宗主国とする従属関係が未だに続いていると言えます。日本のトップが本来果たすべき役割は、戦後今日まで続くこの従属関係を脱却した主権国家としての本来のポジションを取り戻すことにあると思います。

米大統領や米議員を相手にした答礼の演説とはいえ、あたかも対等な立場の同盟国であるかのような詭弁を弄しながら、美辞麗句を並べ立てて米国を過剰に持ち上げ、「信念というきずなで結ばれ、私は、日本の堅固な同盟と不朽の友好をここに誓います」という締めの言葉で国際社会に日米が運命共同体であることを宣言した今回の岸田首相の演説は、歴史に残る売国演説であったと言わざるを得ません。

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もっとしたたかにならなければ話にならない日本の政治家たち

長くなりましたが、余談ながら最後にもう一言付け加えます。

安倍元首相や岸田首相など、改憲派の自民党議員たちは、二言目には現行の日本国憲法は米国(GHQ)から押し付けられたものであると主張します。確かに、太平洋戦争で日本軍を極度に恐れた米国が、二度と日本を軍事大国にしないために仕組んだ背景はあったと思います。

しかしながら、誰よりも戦争の悲惨さを体験した日本人自身が、その教訓から戦争放棄を謳う平和憲法を諸手を挙げて受け入れたのも事実です。また、幣原喜重郎をはじめ、多くの日本人も草案作成に携わりました。ですから、私自身は、今の日本国憲法は必ずしも米国から一方的に押し付けられたものだとは思っていません。

とはいえ、改憲派の人たちがそのように主張するのであれば、日本に米国製武器の大量買い含めた防衛力強化を迫る米国に対して、むしろそれを逆手に取り、「いやいや、そもそも戦争放棄を謳う平和憲法を押し付けたのはあなた方米国なのだから、日本の防衛力強化や自衛隊の参戦を迫るのは自己矛盾だろう」とまずは米国の要求を押し返す材料に使えばよいのにと思います。

いずれにせよ、日本の政治家達も、米国と丁々発止するためには、もっとしたたかにならなければ話になりません。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年4月26日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください。DXを成功させるために重要な2つのことについて解説した「2.今週のメインコラム」や、「税金のペイシステムにアマゾンペイが入っている理由」に辻野さんが回答する読者質問コーナーもすぐに読めます

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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