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「改憲議論」以前の問題。率先して憲法違反を犯す自民や維新に高レベルの見識と叡智、倫理観が必要な憲法改正を任せられぬ訳

今年も各所でさまざまな議論がなされた5月3日の憲法記念日。岸田首相は改憲について「先送りできない重要な課題」としますが、識者はどう見ているのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、現行の日本国憲法は時代を先取りしたものする自身の解釈を紹介。さらに自民や維新中心の憲法見直しを「断固反対」としてその理由を詳述しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:憲法記念日に日本国憲法について考える

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

憲法記念日に日本国憲法について考える

前述した通り、本来なら「DXとは何か」のシリーズ第4回目なのですが、今号の配信日の5月3日は憲法記念日にあたるため、DXシリーズは1回お休みにして、今号では日本国憲法について考えてみたいと思います。

安倍政権になってから改憲の議論がにわかに活発になりました。その後はトーンダウンしていますが、岸田政権になってからも、実現性はともかく、岸田首相は幾度か改憲に前向きな発言をしています。

おかしな例えに聞こえるかもしれませんが、個人的には、立憲国家における憲法とは、コンピュータにおけるアーキテクチャまたはOS(オペレーティングシステム)のようなものだと捉えているので、時代の変化と共に内容を見直すこと自体については特に異論はありません。むしろ見直しの議論がある方が健全だとも思います。

しかしながら、現行の日本国憲法は時代を先取りした世界的に見ても非常に優れた憲法であると解釈しており、これをより良くする方向で見直すには、相当に高いレベルの見識、叡智、倫理観などが必要で、少なくとも現在の自民党や維新などの手にはとても負えないと思っています。すなわち、現在の自民党や維新が中心になって憲法を見直すことについては断固反対です。自民党の改憲草案も読みましたが、とても賛同できるような内容ではありません。

現行の日本国憲法を「時代を先取りした憲法」と感じるのは、言うまでもなく3原則といわれる「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を掲げているからです。太平洋戦争前の日本は、国権主義に基づいて人権が軽視され、帝国主義に基づいて軍部が力を持つ国でした。その結果、太平洋戦争の加害者となり、また同時に被害者として艱難辛苦の時代を招き入れ、民間人を含めた310万人以上の国民が犠牲になってアジアの周辺国を苦しめる存在ともなりました。

その悲劇を教訓として、二度と再び同じ過ちを繰り返さないと誓い、国権主義から人権主義へ、帝国主義から平和主義へと大きく国の在り方を転換し、生まれ変わって出直すための最重要の行動規範が現行の日本国憲法であると解釈しています。

そして今や、デジタル時代、ネットワーク時代となり、個人がテクノロジーによって解放された時代を迎えました。「国民主権」や「基本的人権の尊重」という原理原則は、まさに今の「個が解放された時代」を80年近く前に予見していたかのようにすら感じます。

ですから、今あらためて日本国憲法の全文を読み返してみても、ここに書かれていることをしっかりと遵守しさえすれば、素晴らしい国になることは間違いないというほどの、きわめて崇高なものだと感じます。ところが、改憲派の自民党議員や維新の議員などは、そのことをまるで認識しておらず、国会議員でありながらこの憲法を遵守しているとはとても言えません。これは99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」に違反していると言えます。

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最悪なのは、第二次安倍政権あたりから、あからさまに憲法を軽視したような発言や、違憲にあたるような行為が目立つようになってきたことです。安倍元首相は、現行憲法を「みっともない憲法」などと呼び、9条に象徴される「平和主義」の原則を踏みにじって、集団的自衛権の行使を容認し武器輸出の解禁を伴う安保法制を2015年に強行採決で成立させました。

その後、防衛費の上限をGDP比2%に倍増させることを米国に約束し、岸田政権に至っては、昨年10月、5年間で43兆円もの防衛費を積み増すことを十分な国会審議や国民との合意形成をすることも無しに閣議決定のみで決めてしまいました。

憲法違反は9条に留まらず、たとえば14条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」なども守られていません。自民党裏金議員たちが、政治資金規正法違反でも脱税でも、まったく摘発されない事例をみても、一般国民との差別は明らかです。

憲法違反の事例を挙げ出すと切りがありませんが、たとえば15条2項「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」も守られていません。森友事件が象徴的でしたが、今や多くの官僚は一部の政治家の奉仕者であって全体の奉仕者とはとても言えません。全体の奉仕者であることを誇りにしてきた近畿財務局の職員がその実態に悲観して自死されたことには断腸の思いです。

また、36条「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」などについても、ウィシュマ・サンダマリさん死亡事件における名古屋出入国在留管理局職員の態度は、公務員による拷問に当たらなかったのだろうかと感じます。

他にも、よく問題にされる「人質司法」の悪しき慣習などは、34条や38条に違反している可能性がありますし、大川原化工機事件など、公安や検察のでっち上げ等の暴走は一向に後を絶ちません。

いずれにしても、現行憲法を守っていない人たちに改憲を口にする資格はないと思いますし、改憲を議論するのであれば、まずは現行憲法をしっかりと遵守してからにして欲しいと思います。

ちなみに、前号の最後でも述べましたが、安倍元首相や岸田首相など、改憲派の自民党議員たちは、二言目には現行の日本国憲法は米国(GHQ)から押し付けられたものであると主張します。確かに、太平洋戦争で日本軍を極度に恐れた米国が、二度と日本を軍事大国にしないために仕組んだ背景はあったと思います。

しかしながら、前述の通り、誰よりも戦争の悲惨さを体験した日本人自身が、その教訓から戦争放棄を謳う平和憲法を諸手を挙げて受け入れたのも事実です。また、幣原喜重郎をはじめ、多くの日本人も草案作成に携わりました。ですから、私自身は、今の日本国憲法は必ずしも米国から一方的に押し付けられたものだとは思っていません。80年近くの長い時間を掛けて、日本人の血肉となった憲法であると思っています。

【関連】日本国民に対する裏切り行為。アメリカの意向に沿い国の形を変えてきたポチぶりを米国議会でアピールした岸田演説の“狂気の沙汰”

その日本国憲法の精神を尊重して平和主義を貫いて生きた日本人の代表格が、アフガニスタンで亡くなった中村哲氏のような人物でしょう。2001年9月11日の米国同時多発テロの直後、衆議院のテロ対策特別委員会に参考人として呼ばれた中村氏は、「自衛隊派遣は有害無益」と自説を述べ、好戦的な自民党議員たちからヤジを浴び無礼な対応をされましたが、微動だにしませんでした。

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同氏を偲んで、今年1月に佐高信氏が共著で『中村哲という希望 日本国憲法を実行した男』という本を出しています。その中で、中村氏と交流のあった佐高氏は、同氏を「歩く日本国憲法」と述懐していますが、最後にその本の一節を引用して終わりにしたいと思います。

(前略)岸田軍拡に賛成の人は中村哲を否定する人である。「軍拡で暮らしは守れない」ことを中村は実践で示した。軍拡に賛成しない人、つまりは平和憲法を守れと叫ぶ人は頭がお花畑だとタカ派ならぬバカ派は叫ぶが、アフガニスタンの地で中村は平和をつくりだしたではないか。そして、世界の人は中村に拍手を送っているではないか。その、いわば日本の宝をなぜもっと大切にしないのか。

中村は憲法が日本にとって一番大事だと言う。「あれだけの犠牲を払った上でつくられたものだから、一つの成果じゃないかと思います。それを守らずして、国を守るもないですよね。だから、それこそ憲法というのは国の掟、法の親玉みたいなものなんじゃないですかね。憲法をあやふやにして国家をどうのこうのというのはおかしい。(中略)あれは世界中の人が憧れている理想であってね、守る努力はしなくちゃいけないんだ」

(前略)澤地との共著で中村は嘆いている。「2001年に衆議院で話して、ほんとうにこの人たちは、日本の行く末をあずけられる政治家だろうかと、目を疑いましたね。戦争といっても、これは殺人行為ですよ。対米協調だとか、国際社会の協力だとか、そんなきれいな、オブラートに包んだような言葉を使っても、協力するということは、殺人幇助罪です。そのことが、ちっとも考えられていない」

中村氏に限らず、以前にも紹介した立石泰則氏の著書『戦争体験と経営者』を読んでも、戦地を経験して復員した戦後の経済人には筋金入りの平和主義者が多くいたことがわかります。私が世話になったソニーを創業した井深大氏も徹底した平和主義者でした。

また、これも何度か言及しましたが、一兵卒として戦争の恐ろしさと理不尽さを戦場で経験し、米国の圧力に抵抗してロッキード事件を仕掛けられ失脚した田中角栄元首相は、「戦争を知っている奴が世の中の中心である限り日本は安全だ。しかし戦争を知らない奴が出てきて日本の中核になったときは怖い」と予言し、「将来、憲法改定があったとしても9条だけには触ってはならない」とも断言していたと言います。

【関連】田中角栄の予言が的中。日本を狂わせた“安倍政権の犬”が作る「戦争国家」ニッポン

いつの間にか、この国は、中村哲氏が「世界の理想」と語った平和憲法をないがしろにして軍拡路線をひた走るようになってしまいました。佐高氏も嘆くように、現行憲法遵守や平和主義を叫ぶと、「お花畑」などと揶揄されたり攻撃される嫌なムードが広がっています。

憲法記念日に際して、護憲派も改憲派も、今一度戦後日本国憲法が果たしてきた役割について、じっくりと振り返ってみるのも悪くないと思いますが、いかがでしょうか。

 

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年5月3日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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