トランプ大統領の「多様性排除」政策の影響が、若い世代の未来にまで及び始めています。2025年の米国への留学生は前年比13.5%減、約20万人が米国を敬遠しました。大学側の調査でも57%が留学生の減少を報告し、「ビザ取得への不安」「歓迎されていないという懸念」が主な理由に挙がっています。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、著者で健康社会学者の河合薫さんが、留学先の国ごとに異なる教育効果のデータを紹介しながら、大人の都合で若者の貴重な経験を奪うことへの危機感を訴えています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
トランプ政策で米国離れが加速
トランプ大統領の「多様性やめたってよ」政策が、「若い世代の未来」にも影響を及ぼすリスクが高まってきました。
報道によると、2025年に学生ビザで米国に入国した留学生は126万8508人で前年に比べ13.5%も減少。約20万人もの若者が米国を敬遠したことになります。
米国の大学を対象とした調査でも、57%が留学生の減少を報告しており、その理由は「ビザ取得への不安」が96%、「歓迎されていないという懸念」も67%に上っています。日本でも、円安と相まって米国の人気が低下しており、25年秋学期の新規留学生数は17%減となりました。
米国の大学の良さはまさに「多様性」にあり、それがイノベーションの種でした。大学だけでなく、社会全体がまるで宝石箱のように、一人ひとりが異なる輝きを放っている──それが10歳で米国の土を踏んだ「私」の印象です。
それだけに、現在の状況は残念としか言いようがありません。
留学先で異なる「成長効果」
興味深い調査があります。日本人の海外留学がどのような効果をもたらすか、国や期間別に分析したものです。その結果、「主体性」の向上は米国が最も高く、「異文化理解」はカナダが高いという傾向が認められました。
この結果は、かつて両国の多様性に触れた身として、深く頷けるものです。
カナダでは、異なる文化を一つの国家として尊重する「マルチカルチュラリズム(多文化主義)」が国策として浸透しています。多様な背景を持つ人々が共生するありのままの姿を、五感を通じて吸収できる環境がそこにはあります。
一方で、「協働性」については、ドイツやフランスでマイナスの傾向が見られ、「知識・教養」の伸びもフランスでは低いという結果でした。
やはり欧州での学びは一筋縄ではいきません。独自の言語文化への誇りが極めて高く、安易な英語でのコミュニケーションよりも、徹底した自己主張と論理的思考が求められる「個」の社会だからでしょう。
若者の貴重な時間を奪わないで
いずれにせよ、実際に「現場」に行かないとわからないことが山ほどあります。「大人」の一歩手前という、柔軟性と吸収力に満ちた貴重な時期の経験は、その後の長い人生に大きな影響を与えます。外から「日本」を見て初めて気づくこともあれば、母語ではない環境で過ごすことで「もう一人の自分」に出会うこともできます。
そんな二度と戻ってこない大切な時間を、大人の勝手な都合で奪わないでほしい。そう願わずにはいられません。
みなさんのご意見もお聞かせください。
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