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衆院選で獲得した戦後最多316議席。それでも始まりそうな自民党「高市おろし」のカウントダウン

衆院選で戦後最高の316議席を獲得し、盤石の「国会運営権」を手にしたと目される高市首相。しかしながら自民党内では早くも不穏な兆候が現れつつあるようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、高市政権の足元で芽吹き始めた「内部抗争の兆し」を検証。その上で、「最強政権」が抱える死角について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:巨大自民党の内部抗争はすでに始まっているのか?

「内側」に向くエネルギー。巨大自民党の内部抗争はすでに始まっているのか?

衆院選に圧勝し、巨大になった自民党は「野に下る恐怖」からひとまず解放された。しかし、敵が外にいなくなると、エネルギーは内に向かう。「誰がどのポストに就くか」「誰が優遇されるか」…。議員たちの生存本能が高市首相のリーダーシップと衝突し始めるとすれば、これからだ。

前外務大臣、岩屋毅氏は2月12日、公式サイトとSNSに次のような投稿をした。

「一部報道において、あたかも私が新党を結成するかのような記事が掲載されていますが、それは全く事実ではありません。(中略)自民党が絶対多数を占めたからこそ、党内での自由闊達な議論が必要不可欠であり、そのためには様々な政策課題について有志議員との意見交換や勉強を行う場はあって然るべきだということです。(以下省略)」

一部報道とは、共同通信が配信し、地方紙などに掲載された岩屋氏についての以下の記事をさすと思われる。

(岩屋氏は)大分県別府市での9日の記者会見で「(高市政権が)間違った方向に行きそうなときにはブレーキを踏むことを心がけないといけない」と強調。グループ結成について「志を同じくする人と相談していきたい」と語った。

「新党」とは、記事のどこにも書かれていない。あくまでグループである。だが、「志を同じくする人」とのグループ結成となれば、党内抗争につながる不穏な動きともとられかねない。「意見交換や勉強を行う場」であって、政局とは無関係であることを強調したかったのだろうが、ことさら「新党」を否定したことが、かえって本心を探られる原因となっている。

岩屋氏は石破前首相の側近であり、高市首相とは距離を置いている。外相時代の2024年に中国人観光客向けビザ発給の要件緩和を表明したことについて、当時の高市経済安全保障担当相はインターネット番組で「意味がよく分からない」と疑問を呈した。

高市氏は日章旗を傷つける行為を処罰する「国旗損壊罪」の新設を目指している。かつて議員立法の党内審査にかけたさい、岩屋氏が反対し、国会提出できなかった経緯がある。「そんな法律案を出したら自民党が右傾化したと思われる」というのが岩屋氏の意見だった。

こうしたこともあって、岩屋氏はネット右翼らに「国賊」「媚中」のレッテルを貼られ、今回の衆院選でもSNSで激しいバッシングを受けた。

参院から衆院に鞍替えして当選を果たした自民党の青山繁晴氏は自身の動画チャンネルでこう語る。

「政党がここまで大きくなったら内部抗争が起きる。今、もう始まっている。分裂まで行っちゃうと、今野党が壊滅しているでしょ、そこに乗っかりやすい」

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政権の極端な右傾化を阻止するため動き始めた「党内野党」

岩屋氏の発言をただちに党内抗争の勃発と見るのは早計だとしても、その兆候と受け取るのは、あながち不自然とはいえない。本格的な動きがあるとすれば、高市総裁の任期満了(27年9月)にともなう自民党総裁選を見据えたものになるだろう。

むろん、衆院選で戦後最多の316議席を獲得したという事実は、「最強の安定政権」を自民党にもたらしたかに見える。

自民内での首相の統率力は格段に強まる。(中略)党内では今後、首相への批判は起きにくく、首相が独断的に政策決定を行うこともできる環境が整うことになる。
(2月8日朝日新聞デジタル)

この議席数を守るため、これから3~4年、衆院解散はないだろう。しかし、そこに落とし穴があることを、歴史が証明している。

2005年8月の「郵政解散」で小泉純一郎首相が地滑り的大勝利をおさめた後、09年7月に麻生太郎首相が衆院を解散するまでの4年間、自民党がどのような道をたどったか、振り返ってみるといい。

小泉首相は「郵政民営化」に反対する自民党議員を「抵抗勢力」として切り捨て、刺客を送り込む劇場型選挙で296議席を獲得した。今回の高市首相と同じく、人気投票的な支持のうねりが起きた。経済財政諮問会議を司令塔とし、省庁や族議員の既得権益を許さない小泉構造改革は不良債権処理や規制緩和などで一定の成果を上げたが、同時にそれは小泉氏個人に依存する構造をつくり出し、自民党の弱体化を招いた。

小泉首相は06年9月の党総裁任期満了を機に退陣。安倍晋三氏が首相に就くと、「消えた年金問題」が発覚し、07年の参院選で大敗。衆院で圧倒的多数を持ちながら、参院で法案が通らない「ねじれ国会」に突入したことが、安倍、福田康夫、麻生太郎と3代の首相にわたる政治的混乱の引き金になった。

衆院の「3分の2」という数が、かえって「解散」の判断を遅らせ、政権の「死に体」を招いて2009年、民主党への政権交代につながったのだ。

2月9日、高市首相は衆院選後の記者会見で、こう語った。

「少しでも早く憲法改正の賛否を問う国民投票が行われる環境をつくっていけるように、粘り強く取り組んでいく覚悟です」

高市首相は今回の歴史的圧勝を改憲へのゴーサインと受け止めたのか、これまで党内穏健派への配慮で慎重だった言葉遣いを、一気に実行モードへ切り替えた。多くの有権者は「物価高対策」や「生活支援」を期待して投票したかもしれないが、高市首相はそれを憲法改正や国防強化という“本懐”を実現するための「白紙委任」のごとく活用しようとしている。

岩屋氏が衆院選開票の翌日に「ブレーキ宣言」をした背景には、岩屋氏や石破茂氏、村上誠一郎氏ら保守リベラル(ハト派)の実力者が政府や党本部の外に弾き出され、衆院選でも充分な支援が受けられなかったことがある。その結果、彼らは失うものが何もない自由な批判勢力(党内野党)として、政権の極端な右傾化を阻止するために動き始めたと見ることもできるだろう。

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安倍政権とは比較にならないほど脆弱な高市氏の参謀陣

第2次安倍政権時代も、2012年衆院選で294議席を獲得、14年に290議席、17年には284議席と圧倒的な強さを発揮した。盤石な政権を築き、目立った党内抗争は起きなかった。高市政権はその再現を狙っているが、真の味方となる“参謀陣”に関する限り、安倍政権とは比較にならないほど脆弱だ。

安倍氏が長期政権を築けた理由は、菅義偉官房長官、今井尚哉秘書官といった剛腕の参謀をそろえ、内閣人事局を通じて官僚の人事権を握り、逆らう者を排除する「官邸支配」を構築したからだ。安倍氏は、保守派の理想を追いながらも、実際には派閥のバランスを重視する「リアリスト」でもあった。

高市首相が最も信頼する木原稔官房長官は保守派として高市氏と思想が近く、かつ旧茂木派で培った調整能力を持っているといわれるが、今のところその実力のほどはわからない。「責任ある積極財政」を実務で支えるべき片山さつき財務大臣は、財政健全化を旨とする財務省トップとしてのの立場との“矛盾”がある。高市首相の望む政策を、財務官僚がギリギリ飲める実務レベルに“翻訳”するという極めて高度な調整をしなければならず、下手をすれば「実行力不足」の烙印を押されかねない。

いずれにせよ、高市首相の人事掌握が党内全体を畏怖させるほどには至っていないことは明らかである。だからこそ、大勝の祝賀ムードに包まれた選挙翌日にもかかわらず、岩屋氏から「ブレーキを踏む」と冷や水を浴びせるような発言が飛び出したのだ。

高市首相が高水準の支持率を保っていれば、来秋、間違いなく自民党総裁に再選される。だが、今回の衆院選まで「物価高対策」の陰に押し込めていた安全保障改革、インテリジェンス強化、スパイ防止法制定など「国論を二分する政策」を進めていくとなれば、それは容易なことではない。

また、「積極財政」が想定外のインフレや金利上昇を招き、生活困窮が広がる恐れもある。世論の風向きが変わり、支持率が危険水域に突入すれば、おそらく来年の総裁選を前に「高市おろし」が起きるだろう。

高市首相は自らの信念と勉強量に裏打ちされた強い意志を持つリーダーである。しかしそれは、「自分こそが正解を知っている」という過信につながりやすく、「独断の罠」にはまるリスクも大きい。非主流派の動きを「政権の寿命」を延ばすための外部モニターとして戦略的に活用できるかどうかが、案外、長期政権へのカギになるかもしれない。

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image by: 首相官邸

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