「高市早苗総理の積極財政によって日本の借金問題は解決するのでしょうか?」という悩みが人気コンサルタントの永江一石さんのもとに届きました。永江さんは自身のメルマガ『永江一石の「何でも質問&何でも回答」メルマガ』の中で、「誰が得をし、誰が代償を払うのか」という視点から、日本の借金問題と積極財政の実像を読み解いています。
高市氏の積極財政で日本の借金問題は解決するのか
Question
日本の国債残高は約1,100兆円に上りますが、その多くは借り換えによって実質的な返済が先送りされています。
今後、高市早苗氏の主導する積極財政から引き起こされるインフレによる「税収増」や「貨幣価値の下落」を通じて、借金の実質的な負担を圧縮することは、日本の債務問題の現実的な解決策になり得るのでしょうか。また、高市氏はそれを目論んでいるのでしょうか。
永江さんからの回答
結論から言いますと、「インフレで借金の実質負担を減らす」なんて現代の日本において現実的な解決策どころか、ただの国家破綻への特攻です。高市さん本人がそれをどこまで論理的に目論んでいるかと言えば、残念ながら誰かの受け売りをそのまま喋っているだけに過ぎません。
「インフレになれば1,100兆円の価値が下がるから借金が楽になる」なんて言う人がいますが、これは半分ギャグです。もし1,000倍のハイパーインフレを起こして実質1兆円にしたとしましょう。その時、皆さんの預貯金の価値も1,000分の1になり、生活費は1,000倍になります。実質賃金は暴落し、高所得者はとっくに海外へ逃げ出していることでしょう。
これを実際に行ったのが戦後の日本です。預金を封鎖して単位を切り替えて、無理やり借金をチャラにした。でもそれは戦争で破綻したから出来た荒療治であって、今の先進国でやったらただの自死です。高市さんがこれを目論んでいるとしたら、それは救国ではなく破壊です。
また高市さんが掲げる積極財政の中身を見ると、13兆円が物価高対策などのばら撒きです。残りの1.7兆円が防衛力、1兆円以下が成長投資。20兆円のうち、将来の富を生むための投資に回るのは、ほんのわずか。ガソリン代の補助や手当でお茶を濁して、残ったわずかなお金を量子コンピューターだのレアアースだのに突っ込むというのですが、これらは実用化の目処すら立っていない分野です。
例えばAIに数年で3兆円出すと言っていますが、アメリカや中国や毎年5兆円以上を注ぎ込んでいます。今さら周回遅れで数兆円出したところでChatGPTやGeminiに勝てるわけがありません。経済の基本が全く分かっていない証拠です。
この記事の著者・永江一石さんのメルマガ
経済学的に見て、積極財政が成功するには3つの条件があります。
- 使い道:ばらまきではなく、将来の生産性を高めるインフラ投資であること。
- タイミング:失業者が溢れ、モノが余っている「デフレ・不況期」であること。
- 供給能力:お金を回した時に、それに応える労働力があること。
今の日本はどこもかしこも人手不足。働く人がいないのに、国債を発行してお金をばら撒いても物価が上がるだけです。ダムを作ろうにも造船をしようにも、現場で働く若者がいないのですから。
高度成長期の新幹線や、リーマンショック後の中国の投資がうまくいったのは、まだ作る余地と働く人がいたからです。今の日本で同じ事をやるのは、燃料がない車にアクセルを思い切り踏み込むようなものです。
またわたしが一番危惧しているのは、高市さんの主張が高橋洋一氏の丸写しに見えること。円安についても「容認すればいい」などと簡単に言いますが、それで輸入物価が上がって苦しむのは国民です。さらに、彼女が本当にやりたいのは経済ではなく憲法改正や家制度の復活といったイデオロギーのように見えます。
だって本当に経済を回したいなら、既得権益を壊す規制緩和を真っ先に行うべきですよね。でも彼女の支持母体には宗教団体や保守層がいるから、そこには踏み込めない。これではトランプような独断専行の政治になりかねません。
積極財政という言葉は耳に心地よいですが、中身が伴わなければただの借金の上乗せです。「インフレで借金が減るからラッキー」なんて甘い言葉に騙されてはいけません。そのツケを払わされるのは、今の現役世代と子供たちです。
今の日本に必要なのは、バラ撒きではなく「どうやって働く人を確保し、生産性を上げるか」という泥臭い議論のはず。言葉の勢いだけで中身のない政策には、もっと冷静になる必要があると思います。
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