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次は令和の大飢饉か?国民を餓死に追いやる農水官僚の保身と作文「食料自給率向上を諦め国内農業生産増大」のデタラメぶり

「農業の憲法」とも呼ばれる食料・農業・農村基本法が、国民のあずかり知らぬところでデタラメに改正されようとしているのをご存じだろうか。この改正案を「二重に辻褄が合わない論理的混乱に陥っている」と厳しく批判するのはジャーナリストの高野孟氏だ。食料自給率の向上を諦める一方で、同時に国内農業生産の増大はめざすとぶち上げ、さらに海外からの食料輸入を増やすと謳う、あまりに支離滅裂な今回の改正案。このような農水官僚の自己保身がまかり通るようでは、有事の日本国民は本当に餓死してしまいかねない。(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「食料自給率」目標を捨てる?食料・農業・農村基本法改正案/参議院でまともな原理的議論をしてほしい

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

国民が知らぬ間に「農業の憲法」食料・農業・農村基本法が改正へ

食料・農業・農村基本法」を25年ぶりに改正する法案が4月19日に衆議院で自公両党と維新の賛成で通過、26日から参議院での審議が始まった。

農政の憲法」と呼ばれる同法の改正は、我々の暮らしの基盤である農と食をいかに確保していくかを方向づける大事な議論のテーマであるはずだが、その割に国民はほとんど無関心で、マスコミも中身に踏み込んだ報道を全くしていない。

「国民の理解が深まる議論を」と叫んでいるのは農協の機関紙=日本農業新聞(4月20日付解説)くらいのもので、このままでは多くの人々が知らない間に同法の骨抜き化が罷り通っていくことになろう。

格下げになった「食料自給率」目標

改正案の最大の問題点は、すでに本誌No.1247で詳細に論じたように、現行法で中心的な目標とされていた「食料自給率の向上」をこっそりと取り下げようとしていることである。

【関連】有事に日本国民は餓死する。農水省がコッソリ降ろした「食料自給率向上」の看板

いや、取り下げたいなら取り下げればいいのだが、その目標を掲げて25年間取り組んで、現行法制定当時40%だった自給率が現在38%の微減という無惨な結果に終わったのは何故かの総括をキチンとしないのは、卑怯というものだろう。

その目標を掲げたこと自体が間違いだったのか、そうではなくてそれを達成するための施策が適切でなかったのか、それとも何やら制定当時には想定されなかった事象が生じて阻害されたのか。そこをはっきりさせなければ、この国は二度と「自給率」について語ることができなくなってしまう。

しかし農水に限らず官僚にとっては、誤りを認めてしまえば責任を取らなければならず、それは官僚人生の破滅を意味するから、No.1247で解析したようにありとあらゆる屁理屈を捏ねてうやむやの内に方向転換をしてしまおうと悪戦苦闘する。

それでもさすがに「食料自給率の向上」という言葉そのものを消し去ることは出来ず、結局、改正案では「食料安全保障の確保」を前面に打ち出し、その中に「食料自給率の向上」も含まれるーーつまり食料安全保障の目標がいろいろある中の1つに食料自給率も入っているという形に収めようとしたのである。

具体的には、現行法では「食料・農業・農村基本計画」で定めるべき事項の1つとして「食料自給率の目標」と明記していたのに対し、改正案の第17条では「食料自給率その他の食料安全保障に関する事項の目標」と書き換えて、食料自給率を食料安全保障という言葉の中に吸収してボヤかしてしまおうとしている。

繰り返すが、食料自給率最優先を止めたいなら止めればいい。ただコソコソやらずに、正々堂々と国民=主権者に説明し納得させた上で止めるべきなのである。

「食料安全保障」という概念の危うさ

ではその「食料安全保障」とは如何なる概念か。

改正案は、第1条〔目的〕で「この法律は、食料、農業及び農村に関する施策について、食料安全保障の確保等の基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め……」と、今度はそれが基本理念であると明記している。

実際、岸田文雄首相は衆院での答弁の中で「ウクライナ情勢によるサプライチェーン(供給網混乱)などの情勢変化に対応するため、食料安全保障の確保を基本理念に新たに位置付け、農政の再構築を行う」と語っている。

この法律自体がこの先何十年かの農政の基本を定める理念法であって、目先のウクライナ情勢によって「基本理念」が左右されることなどあるはずがない。

この語り方を聞くだけで、岸田が一知半解で出まかせを口にしていることが判るが、本人にしてみれば、「有事」における食料確保を含む「安全保障」という言葉を掲げることで少しく緊張感を漂わせたつもりだったのかもしれない。

ところで、改正案の第2条〔食料安全保障の確保〕は第1項で、その食料安保について「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態をいう」と定義している。

そして第2項で、その「安定的な供給」について「世界の食料の需給及び貿易が不安定な要素を有していることに鑑み、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと併せて安定的な輸入及び備蓄の確保を図る」と、現行法とほとんど同じ表現を引き継いでいる。

が、食料自給率向上の目標を曖昧化してしまった後で「国内の農業生産の増大が基本」と言っても言葉が宙に浮いて嘘っぽく、むしろ輸入増大を含めた「安定的な供給」を考えていると邪推されても仕方あるまい。

ところが、「平時」はともかく「有事」には食料輸入に一部または全部が途絶する最悪事態を想定して危機シナリオを描いておかなければならないはずであって、その点、自給率向上を諦めながら国内生産の増大を言い、それでいながら輸入を増やすことを含めて安定的な食料確保をしようとする改正案は、二重に辻褄が合わない論理的混乱に陥っている。

輸入総額の11%が農林水産物

ところで、日本の2021年の農水産物輸入は8兆6516円で、輸入総額の11%を占める。額の大きい順に15位までの品目別の輸入総額と主な輸入国別シェアを並べると、次のようになる。実はこれが食料安全保障を考える場合のベースで、単純な話、日本はまず米国や中国とは絶対に戦争を構えてはいけないということである。

参議院の審議はこれからなので、食料の自給と輸入、安全保障、それらを実現する農と食の戦略方向についてまともな原理的な議論が行われるよう期待したい。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年4月29日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 首相官邸

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