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【書評】天才はある種の病気。そう確信させる異能起業家の半生記

今回の「3分間書評」で取り上げるのは、天才起業家イーロン・マスク初の公認伝記。『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』の著者・土井英司さんが「これまで出されたイーロン・マスクのどの本よりも読み応えがある」と評する1冊です。


イーロン・マスク 未来を創る男』 アシュリー・バンス・著 講談社

 

こんにちは、土井英司です。

もうかれこれ8年前になりますが、BBMで「天才の精神病理」という本をご紹介しました。

※参考:「天才の精神病理

精神医学を専門とする2人の著者が、ニュートン、ダーウィン、フロイト、ヴィトゲンシュタイン、ボーア、ウィーナーといった6人の天才科学者を徹底分析した本です。この本を読むと、やはり天才はある種の病気、と思わされるのですが、一流の経営者の伝記を読むと、さらに確信が強まります。

ミリオンセラーとなったアイザックソンの「スティーブ・ジョブズ」にも、「現実歪曲フィールド」という表現があったと思います。

※参考:「スティーブ・ジョブズ

本日ご紹介する1冊は、このスティーブ・ジョブズに負けずとも劣らない天才、イーロン・マスクの初の公認伝記

これまでにたくさんイーロン・マスクの本を読んできたので、やや食傷気味だったのですが、入念な取材に基づく伝記は、これまでに出されたどの本よりも読み応えがありました。

それもそのはず。著者のアシュリー・バンスは、テクノロジー分野の第一線で活躍するライターで、「ニューヨーク・タイムズ」紙で、シリコンバレーやテクノロジーに関する取材を続けてきた人物。現在は、「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌で科学技術に関する特集記事を担当しているということで、要は科学技術に造詣が深く、さまざまな取材ネットワークを持っている、ということです。

それだけに本書は、関係者への丁寧な取材に基づいて書かれており、イーロン・マスクの本当のすごさや異常さ、これまでに取った言動の多くをとらえています。

さっそく、そのエッセンスを見て行きましょう。

やがてマスクは「夜眠れないほどの大きな心配事がある」と打ち明けた。グーグル創業者のひとりでCEOのラリー・ペイジが、人工知能ロボット軍団を率いて人類を滅亡に追いやるのではないかという不安だった

誰にも真似ができないほど壮大な夢を追う天才だ。蓄財に現を抜かすCEOとは一線を画する

「そもそも週にどのくらい時間を作ったら女性は喜ぶだろうか。10時間くらい? それだと最低限かな。わからないな」

最初の妻ジャスティンの言葉を借りればこうだ。「やると決めたら実行する人で、簡単には諦めない。それがイーロン・マスクの世界であって、その世界に暮らすのが私たちなの」

少年が宇宙、そして善と悪の戦いに空想を巡らすのは、よくある話だ。だが、その空想の世界を真に受けている少年がいたとしたら、いささか気になる。イーロン・マスクはそんな少年だった。10代半ばまで、マスクは空想と現実を区別できないほどに頭の中で混在させていたようだ。この宇宙における人類の運命を、まるで自分の責任のように受け止めていたのだ

少年時代のマスクの性格の中でも印象的なのが、異常とも言える読書欲だ。小さいころからいつも片手に本を持っていた

「あの子は、まず自分の目指すものがあって、そのためには何を勉強すべきかというふうに考えるんです。だからアフリカーンス語のような必修科目があっても、なぜ学ぶのか、いまひとつ理解できなかったんです」(母のメイ)

「インターネット」「宇宙」「再生可能エネルギー」の3つの分野こそ、今後、大きな変化を遂げる分野であり、自分が影響力を発揮できる市場だと見ていたのだ

マスク、ペイジ、そしてグーグルの弁護士が買収の詳細を詰めているときにまたしても奇跡が起こった。マスクが無理やり営業に変えた500人の「営業部隊」が大量の契約を獲得し始めたのだ

苦悩はマスクの人生そのものである。学校ではいじめに苦しんだ。厳しい父親からは相当辛い思いをさせられた。やがて社会に出てなりふり構わずに働き、自分を限界まで追い込み続けた。もはやワークライフバランスという言葉自体が無意味なのだ。実際、マスクにとってはワークかライフか、などという分け方はありえない。すべてひっくるめて「ライフ」なのである

世界が今、最も注目している起業家、イーロン・マスクが、どんな思想を持ち、どう行動しているのか、その詳細を知ることができる、じつに貴重な1冊。彼の異常さを生んだ家庭環境や、付き合った妻たちの証言など、プライベート面がのぞけるのも本書ならではの特長だと思います。

ぜひ読んでみてください。

image by: Shutterstock

 

『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』
著者はAmazon.co.jp立ち上げに参画した元バイヤー。現在でも、多数のメディアで連載を抱える土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介する無料メルマガ。毎日発行。
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