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パリ多発テロ後、オバマがプーチンに歩み寄った「もう一つの思惑」

パリ多発テロを受け、ロシアのシリア空爆に理解を示したアメリカ。この「宿敵への歩み寄り」は何を意味するのでしょうか。メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』はずばり、アメリカの中国打倒体制作りの1つと断言しています。

オバマ、プーチンに歩み寄る~進む米ロ和解

毎度で申し訳ありません。

2015年3月、アメリカの政策を大きく変える大事件が起こりました。「AIIB事件」。親米国家群イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国などなどが、アメリカの制止を無視し、中国主導「AIIB」への参加を決めた。このことは2つのことを示していました。

  1. 親米国家群は、「アメリカより中国の言うことを聞いた方が『お得だ』と判断した。
  2. 「アメリカに逆らっても、軟弱オバマは何もできないだろう」と判断した。

中国は覇権国家にむけて大きく前進した」といえるでしょう。しかし、アメリカは、だまって覇権を禅譲するほどには落ちぶれていない。それで、「必ずリベンジに動くだろう」と予測しました。予想される方法についても、ダイヤモンド・オンラインに詳しく書きました。詳細はこちら。

リベンジ~AIIBで中国に追いつめられた米国の逆襲

など、いろいろあるものの、もっとも効果があるのは、「中国とロシアを分裂させ、ロシアをアメリカ陣営に引き込むこと」。

ダイヤモンドオンライン4月28日に、こう書きました。

最後に、米国が中国に勝つために「ロシアと和解する可能性」について触れておこう。

 

「そんなバカな!」「モスクワ在住筆者の妄想だ!」──。

 

恐らくそんな反応が返ってくるだろう。

 

しかし、歴史は、「米国は勝利するためなら敵とも組む」ことを教えている。

実際、何が起こったのでしょうか?

イラン、シリア問題で協力を深めた米ロ

「このままでは、中国に覇権を奪われる!」と焦るアメリカ。

一方、プーチンにもアメリカと和解する理由がありました。ロシア経済は、「経済制裁」「原油価格暴落」「ルーブル暴落」でボロボロになっているからです。今年は、マイナス4%程度になる見通し。

現在プーチンの支持率は、約90%に達しています。しかし、このままの経済状態がつづけば、いくら忍耐強いロシア人でも、反プーチンに転じかねない

では、どうするか? アメリカと和解し、制裁を解除させ、最大のお得意・欧州との経済関係を復活させなければならない。

米ロの利害はここに一致し、ゆっくりと着実に関係を改善させていきました。両国が最初に協力したのは、「イラン問題」です。

<イラン核交渉>最終合意 ウラン濃縮制限、経済制裁を解除

毎日新聞 7月14日(火)22時1分配信

 【ウィーン和田浩明、田中龍士、坂口裕彦】

 

イラン核問題の包括的解決を目指し、ウィーンで交渉を続けてきた6カ国(米英仏露中独)とイランは14日、「包括的共同行動計画」で最終合意した。

 

イランのウラン濃縮能力を大幅に制限し、厳しい監視下に置くことで核武装への道を閉ざす一方、対イラン制裁を解除する。

 

2002年にイランの秘密核開発計画が発覚してから13年。粘り強い国際的な外交努力によって、核拡散の可能性を減じる歴史的な合意となった。

この合意は、まさに「歴史的」。そして、「国際関係」を大きく変えました。アメリカとイランの関係はよくなり、一方で、アメリカとサウジアラビア、イスラエルの関係は最悪になりました。そして、サウジとイスラエルは、逆にロシアに歩み寄っていきます。

次に、米ロは、「シリア問題」で協力することにしました。9月28日、プーチンは国連で「イスラム国」と戦う「反テロ連合」創設をよびかけます。

そして、「クリミア併合」後はじめてオバマと会談。ウクライナ問題とシリア問題について、90分話し合いました。

9月30日、プーチンは、「シリアのイスラム国空爆開始」を宣言。欧米は、「ロシアは、イスラム国だけでなく、『反アサド派』も空爆している!」と大々的に非難しました。

しかし、事実として、「イスラム国」はロシアの空爆で壊滅的打撃を受けている。そのせいで、アメリカと有志連合が2014年8月から1年間つづけてきた「イスラム国空爆」がいかにイイカゲンだったか、全世界が知ることになりました。

そして、11月13日の、「パリ同時多発テロ」。いままでロシアを非難していたアメリカも、フランスも、もう少し真剣に「イスラム国」と戦う必要がでてきた。

「クリミア併合」「ウクライナ問題」で、「ヒトラーの再来」「世界の孤児」と呼ばれたプーチン。

1年8か月後、欧米は、「クリミア」「ウクライナ」のことをきれいに忘れた。そしてプーチンは、いつの間にか「イスラム国と戦う同志」になっていたのです。

オバマ、プーチンに歩み寄る

最近まで、トルコのアンタルヤでG20が開かれていました。オバマとプーチンは、ここでまたシリア情勢を話し合いました。

「アサド派」と「反アサド派」の和平交渉。和平が実現したら、大統領選挙議会選挙。そして、「シリア国民に、アサドを選ぶか、他の人を選ぶか決めさせよう」ということですね。

きわめて「民主的」で真っ当です。

アメリカは、対中国に集中できる体制をつくる

2014年、15年にかけて、アメリカから世界を見ると、3つの大問題がありました。

1つは、ウクライナ問題です。これは今年2月に停戦合意がなされ、現在も維持されている。欧米ロシアは、「解決済み」と見ています(とはいえ、「ロシア制裁解除」までには、まだ時間がかかるでしょう。ロシアがシリア問題解決で活躍し、「制裁解除」を国際的に認めさせる必要があります)。

2つ目は「イスラム国」問題です。今、欧米ロの協力体制ができつつある。「パリ同時多発テロ」は、本当に衝撃でしたが、「イスラム国」問題も、実は解決にむかっているのです(もちろん、欧州にひそんだ「イスラム国」の問題は、長期間つづくことでしょう)。

そして、アメリカにとって3つ目の大問題だけが残りました。それが、中国との覇権争奪戦です。アメリカは、今「総力をあげて中国を打倒する」体制を整えつつあります。

 

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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