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トルコのロシア軍機撃墜で考える。敵の敵は味方か、それとも敵か?

11月24日のロシア軍機撃墜事件ですが、なぜトルコはロシアに反旗を翻したのでしょうか。そこには単純な敵・味方の考えでは説明できない理由がありました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』では、今回の敵対構造について、新聞の論説や政治家の視点を交えながら解説しています。

【遠きより】~敵か味方か~

外務大臣時代の田中真紀子氏だったと思いますが、周囲の人間には3種類しかいないと語ったことがありました。「」か「家族」か、あるいは「使用人」だと。随分寂しい世界観だなあと当時思ったものですが、でも、例えば「家族」の延長線上に「友達」を入れたとすれば、それなりにバランスの取れた考え方になるというか、案外的を射ているのかもしれないと思うようになりました。

この田中流の考え方を使って、伝統的な「」「味方」の観念を洗ってみるとどういうことになるか、ちょっとやってみましょう。「」以外の二つは、はたして「味方」なのかどうか、ということも。

まずは「家族」から。悲しいことに、実際の「家族」は必ずしも「味方」とは限りません(涙)。だとすれば、この「家族」は、とことん味方として加勢してくれる血縁者および非血縁者(友人のことですね)を指すと考えた方がいいのかもしれません。金銭以外のところでキチンとつながっている人たち。一応、一番頼りになるはずの人たちですね。もちろん、しばしば、本当はカネでつながっているのに、そうでないかのように覆い隠している場合があるので、そこはややこしい。

使用人」はどうか。自らの価値観に基づいて何かをしてくれる存在ではなく、飽くまで相互に利益を与え合う契約を結んでいる人たち、典型的には金銭の支払いを約束する代わりに、何か役に立ってくれる人たちのことですから、基本的には「味方」に入るべき人たちでしょうね。でも、金の切れ目が縁の切れ目。「」に買収されれば裏切るかもしれない。ゴルゴ13が相手に雇われてしまってピンチ、みたいな。

」は「」ですが、長い目で見ると、「」によって鍛えられ、そこから大きな利益を得ることだってある。ライバルってことですね。

こうしてみると、世の中を単純に「」と「味方」に分けて考えるよりも「味方」を「家族」と「使用人」に分けた方が、周りがよく見えてくるように思います。現実世界でも、そうです。

毎日新聞の1面下に掲載されるコラム「余録」、今朝は古代インドの宰相カウティリアの「実利論」の引用から始まっています。マキャベリなどたわいもないと思えるほどの政治的実利主義だと、あのマックス・ウェーバーが評したものだそうで、要は、「敵の敵は味方」という考え方みたいですが、その書を引用しながら、「余録」は、ロシア軍機トルコ撃墜された事件について、「敵の敵も敵」だったなどと、ちょっと変なことを言っています。でも、これは、トルコとトルクメン人武装勢力の間柄が「同士ではなかったということなのではないでしょうか。

ロシアが爆撃を加えていたシリア反体制勢力の一つ、トルクメン人武装勢力は、実は民族的にトルコと近い人たちだったわけですね。つまり、トルクメン人(「敵」)とトルコ(「敵」の「敵」)は、実は家族同士だったということ。「敵の敵同士という一面的関係で埋まらぬ利害対立は、他にもIS包囲網のいたるところに潜んでいる」と「余録」も書いているけど、「家族」という概念を入れればスッキリする。

もう一つあります。

ロシアにとってトルコは「敵の敵」ではなく、本当は「敵の味方」だったとすればどうだろうか。確かに、ロシアの爆撃に晒されていたのは民族的に近いトルコ系の人たちだったが、実はそれ以上の関係にあったのかもしれない。例えば、トルコ政府あるいはその当局者の誰かがISの石油大儲けをしていて、トルクメン人武装勢力はその仲介をしていたとか…。こうなると、トルコとISとトルクメン人武装勢力は、契約関係で結ばれた間柄、相互に「使用人」だったとしたらどうでしょう。トルコは、ISにとってもトルクメン人武装勢力にとっても、契約によって結ばれた「味方」ということになる。

トルコにとって「家族」であり「使用人」でもあるトルクメン人武装勢力がロシアに攻撃されれば、それをなんとか阻止したいと考えるのは理の当然で、ついには露軍機の撃墜に至ったということなのではないですかね。まさか、ISの石油儲けられなくなったら困るのでと正直に言えるわけもなく、飽くまで「領空侵犯」を理由にはしたけれども。こうなると、早い話、ロシアにとって、トルコは敵の味方=敵そのものということになりますね。

以上、田中真紀子さんの観察眼に発した分析道具は、案外切れ味鋭いものだったのではないかと思います。

image by: thomas koch / Shutterstock.com

 

uttiiの電子版ウォッチ

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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