経済を立て直したい米と、体制維持のために愛国心を利用したいロシアが中東の戦火を拡大させる―。こう解説するのは『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さん。もはや中東大戦争が避けられない時点にまで来ていると分析しています。
世界の経済状況
米国のFRBが12月に利上げをするのは、11月雇用統計が予想より良いのでほぼ確実である。しかし、株価が日米欧ともに高いのは、金融緩和でインフレを心配して株に資金をシフトしているからである。本当に経済が良いわけではない。米国は比較的景気が良いので、金融相場から抜けて実績相場にしようとしている。この転換点を作るのが、12月の利上げである。
しかし、FRBも景気が非常に良いからではなく、高金利のハイイールド債(昔のジャンク債)に投資が集まり、この債券の暴落を気にしているのである。米銀行は、債権部門の利益率が落ちて、リスクのあるハイイールド債にシフトしているので、この債券が暴落すると、また2008年のような状況になると心配している。
世界景気が落ちたのは、2008年のリーマンショクによる株価の暴落で資金がなくなったことで、中央銀行は金融緩和で資金を市場に出して、資金を供給してきた。この資金の行き場が株であり、債券なのである。
もう1つが中国の成長加速で、世界から資源を買い、資源国が豊かになり、資源国や新興国が消費を伸ばしたので、世界はやっと回復したのであるが、中国の成長が止まり、世界経済は急落すると心配された。しかし、中国の消費は落ちずに維持しているので、日本も2万円の株価を狙える経済状態にある。
世界経済は、しかし供給過剰・需要不足の状態が継続している。この状態が続くと、本格的な景気の回復は起こらない。また、デフレ経済に陥りやすい。中国の赤字輸出で鉄鋼業は世界の殆どの企業が赤字になっている。
石油も米国のシェールオイルの生産で供給量が増えたのに、中国の減速で需要が不足して、価格が40ドル程度と数年前の100ドル以上と比べると1/2程度以下になっている。
1929年のウォール街暴落から1939年の第2次世界大戦まで継続的に景気が悪かった状態に似ている。継続的に需要不足が起こっていた。長期停滞が起こり、貧富の差が拡大した。これと同じことが現在起こっているのである。
この需要不足を解消するためには、1つには技術革新で今までの製品を時代遅れにして、全く新しい製品群に置き換えることである。もう1つが、戦争を起こして大量の破壊により、今と同じ商品を売ることである。
この2つが、今の世界経済の供給過剰・需要不足を解決する方法であるが、1つ目の技術革新でもエネルギー革命を起こして、石油から電気に主役を変える試みが世界的に行われようとしている。地球温暖化による二酸化炭素の排出量の規制である。内燃機関からモーターへのシフトであり、エネルギーの主役を石油から電気にシフトさせ、その電気を自然エネルギーから取り出す方向にしようとしている。次の世界経済の転換を世界で引き起こそうとしているのだ。これが現在、パリで開かれているCOP21の役割である。
ロシアの中東戦略は
もう1つが、中東での戦争であり、その戦争をプーチンが利用し始めた。現在のロシア経済は最悪である。欧米からの経済制裁により、ロシアからの輸出が制限され、かつロシアの欧州への逆制裁により生鮮食料品の値上げがきびしい。ルーブルの価値は落ち、石油や天然ガス価格は下落している。
このような時、国民は経済的な不満で政権を倒す行動に出るが、それをプーチン大統領は、ロシアの栄光を取り戻すとして、国民の愛国心を利用して乗り切るようである。このために、ロシアの偉大さを国民にアピールするために、東ウクライナが必要であったし、シリアが必要なのである。
これと同じ道をとったのが、ドイツのヒットラーであるが、国民は歓喜することを知っているようである。政権を保持するためには必要なこととして、プーチンは認識しているのであろう。国内政治のために海外に出ていく。しかし、この結果は悲惨であろうと思う。
この戦争で何を目的とするかの戦略がない。国民受けだけを狙っていることで、利害対立がある国際政治の真っ只中に出ていくには、あまりにも検討不足のような気がした。
案の定、トルコがシリア反政府勢力をサポートしているが、それへの空爆を敵対視していたが、この原因でロシア爆撃機を撃墜した。プーチンとしては、ロシアの栄光に傷が付いたことで、国民の反発を抑える必要があり、トルコの謝罪がないことで、トルコへの軍事的な報復を行う可能性がある。経済的な報復では、国民感情が納得しない。
プーチンは戦術家としては優秀であるが、戦略家としては失格であるとタルボット氏が言っていたが、まさにその通りになっている。
米国の戦略
トルコはNATOに加盟しているし、事前協議を米国と行っているはずで、この撃墜は米国も了承している。欧州はロシアとの関係を復活したいが、米国はロシアとの関係を復活したくない。ロシアとの関係を悪化させて、米国はイスラエルとの関係を正常化させている。
米国の中東戦略は今まで失敗続きであり、今後の戦略も期待できないが、戦争経済を大きくして、経済を復活させるつもりである。ロシアもそうである。国内景気を上げるには戦争特需が一番手っ取り早く経済を立ち直させることができる。
米国は戦争を拡大させる気のようである。米国自体はなるべく戦争の当事者にならずに、戦争に必要は兵器の供給を行う方向のようである。戦争の当事者を多くしたほうが、言い換えると大規模な破壊を多くした方が、供給量を増やせるので、ロシア対トルコなど中東各国を巻き込んだほうが戦争経済は大きくできる。
もう1つが、米国の軍事費は、この数年共和党茶会派とオバマ大統領が減額してきたが、中東イスラム国への戦争拡大でやっと軍事費の増額ができるようになりそうである。その上にロシアが出てきたことで、これも巻き込むとより大きくできる。
米国経済を活性化させるには戦争経済しかない。やっと米国中枢の要人たちも合意したようである。オバマも渋々了承した。
今まで米国経済を牽引してきたのが、新興国経済の拡大で建設機械や自動車などであったが、この新興国経済が急減したことで、戦争経済に活路を見出すしかないのである。
中東大戦争へ
その結末は、悲惨なものになる予感がする。戦争は始まると予測不能になる。利害対立や感情的な憤激などで、今までは起こりえないと思うことが起こる。
何が起こるかは、その場にならないとわからない。核兵器の使用がいつか起こるのではないかと心配している。
イスラム国は、サダム・フセインが残した軍事組織とイスラム教のピュアーなワハープ主義が結合して、できた組織であり組織自体は非常に近代化されている。スパイや同調者も世界に拡散している。
核兵器や核ゴミを手にいれる可能性があるので、心配である。
もし、核兵器が使用されると、核の応酬が起きて、中東地域全体が人間が住めない地域になる可能性が出てくる。
さあ、どうなりますか?
image by: Orlok / Shutterstock.com
『国際戦略コラム有料版』より一部抜粋
著者/津田慶治
国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。日本文化を掘り下げて解析して、今後企業が海外に出て行くときの助けになることができればと思う。
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