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新設された日本版CIA「国際テロ情報収集ユニット」にある弱点とは?

12月8日に安倍政権が発足させた国際テロ情報収集ユニット。以前から「日本にも縦割り構造の弊害を受けない中央情報収集機関が必要」と言われてきましたが、『異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで』の著者で各国のスパイ事情などにも詳しい加藤健二郎さんは逆に、縦割りの壁撤廃の弊害を指摘しています。

公安雑談会:日本の中央情報機関

首相官邸の直轄組織として、国際テロ情報収集ユニットが12月8日に発足した。発足日より以前の雑談会だが、公安情報関係者を含めた雑談会にて。官僚機構には縦割り構造があるため、情報収集機関としてはいろいろな部署からの情報を集約できる中央機関を欲しいという声は、昔から言われていた。いわゆる「縦割り構造の弊害」である。役所の縦割りは悪く言われることが多いのだが、実は縦割りにもメリットがあるから、縦割りが存在するのだ、というところが今回雑談会の焦点。

公安調査庁には逮捕権がない。だから逮捕に怯えて逃げ隠れしている犯罪者からの際どい情報も取りやすい。警察の公安は、イザというときに軽い犯罪の別件でさえも口実にして逮捕する危険がある。同じように公安情報を扱ってる機関でも、このような特色の違いがある。ある怪しい人物が、公安調査庁になら自分の犯罪に関わる情報を提供してもいいかなと判断して出した情報が、中央機関による情報の集約化によって、逮捕権を持つ警察にも共有されるとしたら…。ここが、情報中央機関(情報共有化=縦割りの壁撤廃)の弱点だ。

特に、首相官邸や内閣のような政治家が絡む組織では、政権の姿勢変化や政権交代によって、都合のよかった情報提供者が一転、逮捕すべき敵になるリスクがある。また、政治家というのは、必ずしも機密情報の取り扱いに慎重な人とは限らない。平和な日本でホケホケと生きてる日本国正規国民にはそのリスクの大きさはわからず「でも、せいぜい逮捕拘留されるていどでしょ」かもしれないが、外国人情報提供者にとってはもっと危険が大きい。というのは、日本の情報機関も外国の情報機関とは情報交換で繋がっているからである。

例えば、日本にいる某ロシア人が日本への有力な情報提供者だったとする。その某ロシア人がもっとも恐れることの1つは、自分が情報提供者であることが、モスクワにバレることであろう。もちろん、情報を金で売っていた場合には、稼ぎのために情報提供は続けるかもしれない。しかし日本にとって問題となるのは、その某ロシア人情報提供者の情報内容が「モスクワにとって痛くない情報(リスクのない情報)」に格下げされてゆくことである。つまり、情報機関を中央で集約化することによって、外国人からの情報の質が落ちるということ。情報提供者は自分で自分の身を守るたには、そのような感性に鋭くなければならない。

情報戦について語る人が多い中、中央機関設置のメリットばかりを謳い、上記の「情報の質の劣化」に気づいてない人は、情報戦の現場を知らない机上の空論の人たちである。しかし幸いなことに日本の公安関係者たちは、メディアなどで言論で稼ぐ人たちとは違って、この問題については、下っ端のペーペーでも実感しわかっている。情報戦の実体を体感したことない人は、スリルとサスペンスな魅力のシーンは、情報をゲットするところと思われているかもしれない。まあ、それが間違っているわけではないが、実は、情報の出し方、というのが、スパイにとっては、一発で命にかかわる。だから情報機関は、情報をもたらしてくれる人の身の安全の確率を高めてあげなければ際どい情報を提供者から出してもらえない。

数年前には台湾の政治家が、中国軍の機密情報に基づくネタを公言したことにより、台湾に情報提供をしていた中国空軍の幹部複数が処刑された事件もあった(この事件について詳細はここに書きませんが…)。情報を安易な扱い方すると、このように協力者を失い、その後の継続情報は取れなくなるだけでなく、他の情報提供者が「台湾に情報提供すると危ないから際どい情報はやめよう」となる。

日本でも官僚側のさじ加減や政治の変化によって、情報が一気に劣化したことはあり、その具体例については、今後もこのメルマガでおいおい出してゆく予定。古くなって、情報が腐って役に立たなくなってからでないと出せないカトケンの弱腰さ…。

日本の官庁には、他省庁の幹部に出向するシステムがあり、これが役所の縦割り弊害をなくすアイデアの1つになっている。しかし、公安関係の部署を数か所歴任した公安君は「出向で外部から来ている幹部ばかりになっていても、ちゃんと縦割りの壁はあり、他省庁に漏れてはいけい情報は、それなりの扱いをされてます。その方法のマニュアルはありません。日本人なら言わずとわかる『阿吽の呼吸』というヤツでしょうか」。この阿吽の呼吸のセンスを持たない人は、左遷させて重要部署に就かせなければいい。

日本の防諜の要である「日本的文化」を最も破壊したくてしょうがない筆頭は米国かもしれない。もし、日本に優秀な中央情報機関が設置され機能し始めた場合、それは米国が情報を吸い上げるメインストローにしたいところだ。だから、米国からはいろいろな元大物な要人が来て、日本に中央情報機関の設置を提案する。そしてその機関は、日本文化の慣熟者でなくても情報を吸い上げられるシステム=欧米的なシステムの組織にしてほしい。もしかしたら、日本の防諜の要ば「阿吽の呼吸、空気を読む」などの、まどろっこしい自国文化の特殊性かもしれない。

日本の情報機関は、第2次大戦以前から、いろいろとまどろっこしい。その、まどろっこしさはもちろん多くの弊害を生んでいるのだが、その、まどろっこしさゆえ、日本のスパイ機関は、1人の失敗によってスパイ網がほぼ全滅させられるという失態はほとんど演じていない。逆にヨーロッパの情報戦の記録を見ると、ちょっとしたワンミスでスバイ網全てが逮捕されたり、そのスパイ網を逆利用されたり、という例が多い。最近だと、米国のスノーデンファイルの例がある。

さて、日本の情報機関は、どっちのシステムで今後やってゆくのがいいのか。

image by: 首相官邸

 

異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで

著者/加藤健二郎
建設技術者→軍事戦争→バグパイプ奏者、と転身してきてる加藤健二郎の多種多様人脈から飛び出すトーク内容は、発想の転換や新案の役に立てるか。
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