MAG2 NEWS MENU

夫婦同姓違憲訴訟の最高裁判決、新聞各紙はどう伝えたか?

12月16日、夫婦別姓を認めない規定について合憲判決を出した最高裁。さまざまな意見が別れるこの判断を、新聞各紙は大きく報道していますが、その伝え方についてメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんが詳しく分析、そして独自の解説を行っています。

夫婦同姓違憲訴訟の最高裁判決を各紙はどう伝えたか

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「夫婦同姓規定 合憲」
《読売》…「夫婦同姓規定 合憲」
《毎日》…「夫婦同姓は合憲」
《東京》…「夫婦別姓認めぬ規定 合憲」

◆解説面は……。

《朝日》…「同姓規定 15人中5人『違憲』」
《読売》…「最高裁『家族』を重視」
《毎日》…「社会変化 判断に差」「夫婦同姓 女性全3判事『違憲』」
《東京》…「女性への負担 司法顧みず」

今日は大ニュースがてんこ盛りです。沢選手の引退を含め、非常に大きいものが多いのですが、さすがに、最高裁の2つの判決を凌ぐものはありません。各紙、1面トップも解説面も、この2つの判決関連で埋め尽くされています。テーマがテーマだけに、4紙のニュアンスもそれぞれで、クッキリとした対照を見せているようです。

ということで、最高裁…なのですが、2つの判決を同時に扱うとあまりにも膨大になりそうなので、今日扱うのは、合憲とされた「夫婦同姓」の方を基本とします(基本的な報道内容のみ、両判決について扱います)。

◆今日のテーマ……。

夫婦同姓違憲訴訟の最高裁判決を、各紙はどう伝えたか」が今日のテーマです。

基本的な報道内容(《朝日》のリードをベースに)

夫婦は同姓」「女性は離婚して6ヶ月間は再婚禁止」とする民法の規定は憲法違反か否か。最高裁は16日、初の憲法判断を示した。いずれについても国への賠償請求は退けたが、夫婦同姓は「合憲」、再婚禁止規定は、100日を超える部分について「違憲」とした。この判決を受け、法務省は再婚禁止期間を100日とするよう、全国の自治体に通知し、即日実施した。今後、民法改正作業も進められる。

「夫婦同姓」は社会に定着しており、家族の姓を1つに定めることには合理性がある。どちらの姓を選ぶかは当事者に委ねられており、性差別には当たらない。現実には妻が改姓することが多く、近年とくに不利益が増していることも認める一方、旧姓の通称使用で一定程度緩和できると判断。ただ、この判決は「選択的夫婦別姓が合理性がない、と判断したのではない」とも明言。国会での議論を求めた。10人の裁判官の多数意見。5人が「違憲」とし、女性判事3人は全員違憲」とした。

「女性再婚禁止期間」について。法律上の父親を「推定」する民法の規定が、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子、結婚後200日を過ぎて生まれた子は再婚後の夫の子と定めているのに、同法が女性の再婚禁止期間を6ヶ月間としているのは、過剰な制約であり、父親の推定が重なることを避けるためには100日の再婚禁止期間で足りると判示。裁判官15人の全員一致。

一種の統治行為論

【朝日】は1面記事の他、社説や社会面を含む7つの関連記事を置いた。ここでは、「夫婦同姓」について詳論している2面の解説記事「時時刻刻」に注目する。

見出しは「同姓規定 15人中5人『違憲』」。全員一致でないどころか、3分の1はハッキリとした違憲」論を採ったことを強調。続く見出しは「男女平等に根ざさぬ 3女性裁判官」となっていて、裁く側にも「当事者」が存在する特殊な事件であることを示している。

記事全体を一瞥した印象は、中ほどに入れ込まれている女性3人の写真が目を惹く。といってもこの3人は裁判官ではなく、自民党の女性議員。「夫婦別姓をめぐる自民党有力女性議員3人の意見」として、稲田朋美、高市早苗、野田聖子の3氏の意見を写真入りで紹介。夫を「野田」に改姓させた野田聖子氏が選択的別姓を推奨しているのが印象的。

記事の中では、「違憲」とした裁判官に注目し、その理由を詳しく紹介している。岡部喜代子裁判官は、女性の社会的進出の進展を指摘、「改姓で個人の特定が困難になる事態が起き、別姓制度の必要性が増している」とし、桜井龍子、鬼丸かおるの両裁判官も同意。多数意見が、問題性は「旧姓の通称使用で緩和できる」としたことに3裁判官は反論、改姓が原因となって「法律婚をためらう人がいる現在、別姓を全く認めないことに合理性はない」とした。

「違憲」判断を下した5人のうち、男性の山村善樹裁判官だけが、国の損害賠償責任も認めるべきだとした。法制審が選択的夫婦別姓制を盛り込んだ民法改正案を示したのは96年のこと。2003年以降は、国連の女性差別撤廃委員会も繰り返し法改正を勧告してきたことをみれば、「規定が憲法違反だったことは明らか」として、国会の怠慢も指摘している。

uttiiの眼

寺田長官は、「(夫婦別姓制という)選択肢が用意されていないことが不当だという主張について、裁判所が積極的に評価するのは難しい」として、「国民的議論、民主主義的なプロセスで幅広く検討していくことが相応しい解決だと思える」としているようだ。

これは、形を変えた統治行為論ではないか。

男女差別は、「法の下の平等」に対する破壊的な行為。現在の制度が男女差別を固定、拡大するモメントを含み、実際に被害が訴えられているにも係わらず、国会が動かないのであれば、裁判所は違憲判断を下すに当たって躊躇してはならないはず。憲法判断そのものを回避してきた最高裁の「伝統」、政治的な影響を恐れて引き籠もる言い訳としての「統治行為論」、その変形としての「立法府への責任押しつけ」論という、一連の判断回避の系譜が、ここでもまた示されたということか。残念ながら、《朝日》の記者も、「時時刻刻」の解説で、「『司法の限界』解決は国会で」と、裁判所の責任放棄を許してしまっている。国会の責任は当然としても、勝手に司法の限界線を引くのは如何なものかと思う。

読売社内の激論状態を反映?

【読売】は1面に続き、判決要旨を含む8つの関連記事。1面と3面の解説記事「スキャナー」の主要部分は、2003年入社の小泉朋子記者(社会部。30代とみられる)が書いている。

合計9つの記事の中で、注目した見出しは3面解説記事「スキャナー」で、「最高裁家族を重視」というもの。判決のなかで「家族を構成する個人が同じ姓を名乗り、家族の一員だと実感することには意義がある」と述べたことに対応させたもの。

記事の論旨で特徴的なのは、長官らの多数意見の中に、「国民の間で価値観の分かれる家族の問題を司法が判断するのはなじまないとの思いもにじんだ」としているあたりか。記者は、「あくまで個別の訴訟に向き合うだけの裁判所が、制度がもたらす社会的な影響や国の将来像まで考慮に入れるのは難しいためだ」と説明する。同時に、大法廷が「同姓制度に手放しでお墨付きを与えたわけではない」ことにも注目を促し、普及したといわれる「旧姓の通称使用」についても、「住民票など多くの公的書類は依然として戸籍名しか使えず、不都合を感じる場面は多い。ほとんどの場合、こうした不都合は女性が被っている」と書いている。記者自身の経験を反映させた文章のように読める。

uttiiの眼

小泉記者は、1面の解説のところでも興味深いことを書いている。「5人の裁判官が『違憲』判断に回ったことからも、大法廷で激論が交わされたことがうかがえる」という記述、「来年から利用が始まる共通番号(マイナンバー)で本人確認がしやすくなれば、公的書類での通称使用を広げることも可能で、同姓規定の改正は当面遠のいた」という指摘、いずれも、ユニークな内容だ。こういう記事は読んでいて楽しい。

ただし、関連記事全体を眺めた場合、《読売》はこの問題で混乱しているように見える。モザイク的乃至キメラ的なものを感じる。保守主義的な憲法学者である百道章氏や八木秀次氏を登場させて、伝統的な家族主義的価値観を吐露させる一方で、「夫婦同姓違憲訴訟」原告の論旨も詳しく紹介し、寄り添う姿勢も見せている。多様な見解を紹介するのはよいことだが、この場合、裁判所が出した論理そのものについては、見えにくくなっているのではないか。例えば、社会面の記事は見出しを「『同姓』の利点評価」として、裁判所の合憲判断の論理を紹介しているが、末尾に麗沢大学の八木秀次氏のコメントを紹介。「夫婦同姓という制度こそが、家族の絆や一体感を支えているという実態を十分に踏まえている」と評価させている。裁判所は伝統的保守主義の牙城でないことはもちろんだし、今回は、同姓制度のデメリットや別姓のメリットなども理解した上で、現状を大きく変更する力を持つ違憲判断を回避したのが実態であって、八木氏の見解とはもともと近くないのではないか。最高裁の多数意見を八木氏とシンクロさせるのはお門違いだろう。

また、「スキャナー」の見出しが「最高裁『家族』を重視」となっているのは大きな問題。こうした単純で過度に要約的な見出しは危険きわまりない。原告は、大切な家族の中で、自らの本来の名前を使用することを制限され、権利を侵され、大切にされていない家族としての女性配偶者の救済を求めているわけで、その原告の主張を否定することが「家族」の「重視」だと言われたら、立つ瀬がない。何より、最高裁の主張はそんなに単純ではない。

小泉記者のような有能な記者と、見出しを担当するシニア記者や編集幹部との間に、「激論が交わされ」ていることを望みたい。

このままでは違憲判決が出されるぞ

【毎日】も1面記事の他、2、3面の解説記事を含む4本の記事を用意した。

uttiiの眼

注目すべきは1面記事に付けられた山本将克記者による「解説」。山本氏は司法記者のようだ。見出しは「家族制度 国に議論迫る」。

記者は、今回の判決は、「法律で夫婦別姓を認めることを否定したわけではなく、国会が判断すべきだとして議論を求めている。国会はライフスタイルの多様化を踏まえ、家族制度の抜本見直しに舵を切るべきだ」と大きく踏み込んでいる。ほぼ社説的な位置づけの文章。

さらに強烈なのは、「国会が今回の合憲を『お墨付き』と受け止めるなら、同様の経過を辿りかねない」との指摘。その「同様の経過」とは、婚外子の相続差別規定をめぐって合憲判断を下していた最高裁が18年後に全員一致で違憲に転換したことを指している。つまり、今度の判決は「合憲のお墨付き」でないだけでなく、事実上、国会に対して「選択的夫婦別姓制」の導入に一定のモラトリアムを与えただけのものと受け取っているわけだ。即刻違憲の現状を改めなさいとは言わないが、できるだけ速くやりなさい、サッサとしなさい、という意図を、《毎日》記者は読み取ったようだ。

私はそこまで最高裁を信じる気にはなれない。「一票の格差裁判」あるいは「投票の平等を求める裁判」と同様、最高裁はハッキリしたメッセージを下すべきだし、そうするためには、明瞭な違憲判決を下すことが必要だったのだと思う。モラトリアムを与えている暇はない。今回の判決で、寺田コートはやはり逃げを打ったのだと思う。

別姓どころではない…

【東京】は1面記事に続いて関連記事は6本。社説と解説記事「核心」が含まれている。

見出しを列挙してみる。「夫婦別姓認めぬ規定 合憲」、「女性への負担 司法顧みず」、「夫婦別姓認めず『合憲』」、「法改正の動き 何度も」、「自民など根強い慎重論」、「時代に合わせ柔軟に」、「家族の形 さまざま」、「『私の姓』 思い届かず」「期待の分 失望」。

uttiiの眼

見出しをズラズラっと読んでみれば分かるように、《東京》は現行規定を、「別姓を拒否しているもの」と捉えている。その被害者はこの裁判を提起した原告たちだけではなく、意に反した改姓や事実婚、形式的な離婚を余儀なくされた人たち、さらに、意志を曲げたことを意識することもなくなった大勢の女性たちも含まれるだろう。そして、最大の被害者となるのは、これから結婚を迎える若い人たちだ。

《東京》の記事で目を惹いたのは、社会面に掲載された牛窪恵さんのコメント。牛窪さんはマーケッティングの専門家で、「草食系男子」や「年の差婚」の言葉を広めた人。コメント冒頭には「これから結婚しようという若者、特に女性は、今回の判決に驚いたと思う」と記されている。続けて「個を重視するゆとり教育を受け、消費者として何でも選べる時代。なのに結婚は相変わらず『昭和以前のスタイル以外選べないことに違和感を抱くはずです」

牛窪さんによれば、40代後半のバブル世代が多様化のフロンティアであり、別姓を選びたい人は少なくないという。また、30歳前後の「草食系世代」や20代の「ゆとり世代」は、結婚後の姓が自由に選べるなら互いの姓から一文字ずつ取って合わせようといった感覚で共通しているという。

「結婚にも柔軟さを」と訴える牛窪さん。別姓くらいで吃驚している場合ではないのだ。

image by: Wikimedia Commons

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/12/17号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
≪無料サンプルはこちら≫

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け