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プロが分析。ISIS戦闘員は「9つのタイプ」に分けられる

残虐なテロや人質の公開処刑などで世界を震撼させている「イスラム国(ISIS)」。こうした行為が世界中から非難されているにもかかわらず、なぜ世界中から「イスラム国」への参加者、同調者が増え続けているのでしょうか? その理由について分析したマーケティング会社の報告書の内容を、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さんが、メルマガ『NEWSを疑え!』の中で紹介しています。この報告書から、これまで謎のベールに包まれてきたイスラム国への「参加動機の実態」が浮かび上がってきました。

こんな連中が「イスラム国」戦闘員だ

世界的に拡大する兆しを見せている「イスラム国への同調者の流れを止めるためには、さまざまな志望動機を把握し、それぞれに対策を立てることが急務となっている。その「イスラム国」戦闘員の参加動機について、インタビュー映像をもとに類型化したレバノンのマーケティング会社の報告書が、米国防総省幹部に高く評価され、注目を集めている。

ベイルートのマーケティング会社クアンタム・グループは、「イスラム国」の現役戦闘員離脱者および各国政府に拘束されている元戦闘員49インタビュー映像を、サウジアラビア、イラク、チュニジア、フランス、英国、米国のテレビ番組から集めた。この49人の言葉を、心理学者のマリサ・ザヴァロニ・モントリオール大学名誉教授が開発した方法で分析し、参加動機を以下の9つに類型化している。

1)上昇志向:金銭、雇用面だけでなく周囲の人々から認知され、社会的地位を獲得する。

2)帰属志向:社会的孤立・疎外を感じており、国境を越えた帰属の対象としてイスラム共同体に魅かれている。

3)復讐志向:自分の所属する集団が欧米諸国や自国政府に抑圧されていると考え、抑圧者とその支持者に害を与えようとする。

4)贖罪志向:神に背いて生きてきたことを償うため「イスラム国」に参加した。

5)責任志向:「イスラム国」から報酬を得て家族を養うことが目的。

6)スリル志向:冒険を求めて「イスラム国」に参加した。

7)イデオロギー志向:包括的な世界観と一体化し、他者の集団に押しつけることを志向している。

8)正義志向:紛争地域で起きていることを不正義とみなし、それを正すことを使命と考えている。

9)自殺志向:トラウマや喪失感のため自殺を志向しており、殉教者としての名誉ある死を求めている。

以上の動機の割合は、「イスラム国」戦闘員の出身国によって大きく異なった。欧米出身者は、自分がどの集団に帰属しているのか混乱していた者が多い。 

 

また、「イスラム国支持者は非イスラム教徒も含め、社会的孤立を感じている西洋人が好奇心からインターネット上で接触してくることを待ち構えている。

他のイスラム教国からシリアとイラクの「イスラム国」に参加した者は、シリアのスンニ派をアサド政権から守ることを目的とする正義志向または復讐志向があり、次いで上昇志向スリル志向が強い。

シリア人とイラク人で「イスラム国」戦闘員となった者は、上昇志向、次いで復讐志向と責任志向が強く、収入を理由に挙げた者が多い。

この報告書『ジハード(聖戦)主義者をかれら自身の言葉で理解する』は3月に刊行されたが、米下院軍事委員会の新興脅威・能力小委員会が10月22日、「敵対的宣伝への対抗」について開催した公聴会で取り上げられ、一般に知られるようになった。

米下院軍事委員会の小委員会では、トレント・フランクス議員(共和党)の「イスラム国」志望者・参加者のさまざまな動機に応じた対策が必要ではないか、という質問に対し、国防総省のマイケル・ランプキン特殊作戦・低強度紛争担当次官補(元海軍特殊部隊SEALs大隊長)が、「レバノンのマーケティング会社による分析」として、上記の9つの動機を挙げ、それを参考に対策を始めていると明らかにした。

当然ながら、シリア人とイラク人の上昇志向と責任志向への対策としては、「イスラム国」の支配地域を減らして財源を断つこと、正義志向または復讐志向への対策としては、両国のスンニ派アラブ人勢力を支援することが必要となり、逆宣伝だけでは対策が成り立たないことは言うまでもない。

(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

 

(参考文献) 

Understanding Jihadists in Their Own Words. Beirut: Quantum Communications, 2015年3月. 

image by: Shutterstock

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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