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セブンイレブンのEC「オムニセブン」は成功するか?佐々木俊尚氏が解説

地方に住む人が東京で流行っている服を気軽に買えたり、仕事で時間のない人が帰りの電車で夕飯の買い物を済ませたり…ネットが私たちの生活の一部となってから「買い物」という概念はひと昔前とはガラリと変わりました。そして、ネットショッピングの世界はまだまだ進化を続けているようです。メルマガ『佐々木俊尚の未来地図レポート』では、佐々木さんが最近注目されている「オムニチャンネル」と、セブンイレブンの新たな試み「オムニセブン」について詳しく解説しています。

セブンイレブンの新しいEC「オムニセブン」はほんとうに成功するのだろうか?

オムニチャンネルということばが流行しています。「オムニ」とは「すべて」「あらゆるという意味の英語なので、オムニチャンネルとは「すべてのチャンネル」「あらゆるチャンネル」という意味。これまでは小売店でモノを売る、あるいはネットでモノを売るというようにお客さんと企業の接点はチャネルごとに分けられて考えていましたが、これを分け隔てせず、店舗やイベント、ネット、スマホ、ウェアラブルなどありとあらゆる接点でお客さんとつながり、モノを売っていこうという考え方がオムニチャネルです。

オムニチャンネルはお店の側の考え方ですが、お客さんから見れば、お店の側からありとあらゆる体験や場を提供され自分が求めているときに好きな場所で購入し受け取ることができるということでもあります。つまりオムニチャネルというのんは、広くとらえれば、全方位の空間のなかにお店もお客さんも包み込まれていって、その大きな空間の中で自由自在に情報やモノがやりとりされる。そういう世界が実現していくということなのです。

オムニチャンネルでいま最も注目されているのは、セブンイレブンでしょう。運営会社のセブン&アイ・ホールディングスは何年も前からオムニチャンネル構想を温めてきて、昨年11月についに本格的にサービスを開始しました。「オムニセブン」というサイトで、セブンイレブンやイトーヨーカ堂、西武、ロフトなど専門店の商品計180万品目を扱っており、購入した商品を全国のセブンイレブンで受けとったり、返品することができます。ネット通販は返品する際、宅配便の集荷をたのんで送り返さなければならずけっこう面倒なのですが、セブンイレブン店頭で返品できるのならかなり楽ですね。宅配便の伝票も書かずにすみますしね。

オムニセブン

おもしろいのは、お客さんが持っているパソコンやスマホからの注文だけでなく、セブンイレブンのお店に置いてあるタブレットの端末からもオムニセブンを利用できるということです。パソコンやスマホに不慣れなお年寄りでも、セブンイレブンの店頭でネット通販が使えるようにしようということなのですね。

さらに店頭だけでなく、セブンイレブンのスタッフがお年寄りの家を訪問して、タブレットで商品を見せて紹介しながら買い物をしていただくということも始めるようです。つまりは昔ながらの「ご用聞き」ですね。これまでもセブンイレブンでは、「セブンミール」というお弁当の宅配サービスを使ってもらったときに、宅配のついでにお年寄り宅などでご用聞きをしてきたといいます。お弁当のついでに、お総菜などさまざまな副菜をついでに注文する人が多く、この流れをオムニチャンネルにもつなげていこうという発想なのですね。

このタブレットの宅配では、セブンイレブンの店頭での受け取りだけでなく、まさに「ご用聞き」のようにお店のスタッフが自宅まで届けるということもおこなうようです。

ただ現状ではオムニセブンは、西武やロフトなどで扱っているクォリティの高い商品を買う人はまだ少なく、セブンイレブンで売っている馴染みのある商品を買う人が多いようです。ここを突破できるかどうかは、かなり難しいところかもしれません。

そもそもいま、人々はそうかんたんにはモノを買わなくなっています。企業がテレビCMを集中的に放送しても、そういうキャンペーンに乗せられる人はそんなにいません。

まあコンビニの新しいお菓子や新しいお総菜、新しい清涼飲料水ぐらいだったら、テレビやネットで「これは新しい!」と紹介されているのを見て、「お、ちょっと買ってみるか」という人はたくさんいるでしょう。でもそれ以上のクオリティの高い商品や、客単価が一万円近くもするようなレストラン、同じぐらいの金額のファッションなどを、流行だからという理由でぽんぽん買う人はもはや少数派になりつつあるのじゃないでしょうか。

その背景には、そもそもデフレ経済がこの二十年ずっと進行してきて、全体に人々が消費する金額が減り消費意欲も減退してきているということがあります。将来が不安ななかで、モノをぽんぽん買うお金があるのなら、少しでも貯蓄に回しておこうというのが最近のマインドになっています。

くわえて、「みんなが同じものを買う」というマス消費と呼ばれる傾向が消滅しつつあるということがあります。以前は画一的な情報が画一的に流され、「他の人も買っているみたいだから自分も買っておかなきゃ」「会社の同僚のあの人よりも、すこしでもいい物を」と思う人がたくさんいて、大量生産の製品が大量に消費されていました。「いい物を持っていれば、自分も偉くなれる」というような幻想もありました。ルイ・ヴィトンのような高級ブランドのバッグを買ったり、BMWやメルセデスベンツなどの高級輸入車を購入するのも、こういう動機の人が多く、「背伸び消費」とも呼ばれていました。

背伸び消費が終わってしまうと、その先で人々はどのようにして消費するようになるのでしょうか?記号消費そのものが消滅するという考え方もあります。

記号消費というのは、商品そのものではなく、商品が持っている社会的な価値である「記号」を消費するということです。商品がもともと持っている機能的価値とは別に、消費社会ではその社会的な価値の方が重要視されていて、その記号的な付加価値を消費するようになっているということです。たとえばクルマの機能は「人を運ぶための移動の道具」ですが、メルセデスベンツなどの高級輸入車には「高い外車に乗っているセレブ」というような社会的意味が加えられています。ベンツを買う人の多くは、クルマとしてのベンツを買い求めているのではなく、社会的ステータスとしてのベンツを購入するわけで、これが記号消費です。

モノの記号的な価値にはだんだん意味がなくなっていくのなら、クルマは単なる「人を運ぶための移動の道具」でいいじゃないか、という風になっていくのは当然でしょう。だから最近の若者はクルマの車種なんかにこだわらず「動けばいい」「軽自動車でじゅうぶん」と言っている人が多い。安価な中古車を適当に乗り回している人が増えているのです。安価で着心地の良いユニクロなどのファストファッションが流行しているのも、機能消費のひとつの表れです。

でも、すべての消費が機能消費になっていくわけではありません。なぜならわたしたちは社会性を持つ動物であって、消費というのは「わたしたちが社会とどう付き合うのか」という意味も持っている行為だからです。つまりわたしたちは社会とかかわりあうひとつの方法として、モノを消費しているのだということもできます。

テレビや新聞でみんなが同じ情報を得るというスタイルが衰退して、インターネットで情報が得られるようになって、ますます「みんなが同じ」という感覚が薄れてきています。

たとえば音楽で言えば、1980年代ごろは「邦楽より洋楽のほうがカッコいい」「クラシックやジャズを聴いてる人は教養のある人」みたいなイメージが多くの人に共有されていました。だから本当は好きでもないのに、カッコつけて洋楽やクラシックを無理矢理聴いてる背伸び消費的な若者もたくさんいたのですが、でもいまの時代に、こんなふうに思う人はいないですよね。少なくとも、30歳代ぐらいより下の世代には、こういう価値観はもはや共有されていないと思います。

いまは「洋楽を好きな人」「Jポップを好きな人」「クラシックを好きな人」「ジャズを好きな人」はそれぞれ細分化していて、ある意味で「オタク」的になっていて、それぞれの世界で自分の好きな音楽を楽しんでいます。だからクラシック音楽を聴く人は教養のある人ではなく、どちらかといえば「クラシックオタク」みたいな扱いをされるわけです。

こういう世界における消費というのは、「背伸び」ではあり得ません。そこにあるのはモノやブランド、高尚な趣味への憧れなどではないのです。消費というのが社会とのつながりのひとつの手段であるというのは先に書きましたが、じゃあそこに生まれる消費の感覚というのはどのようなものでしょうか。それは憧れや背伸びと言った下から上を見上げるという目線ではなく、どちらかといえば「同じ感覚を共有していることの気持ちよさ」「同じ趣味の人と話しているときの気持ちよさ」というような、対等な目線なのではないでしょうか。

そこでは消費するという行為の向こう側に、他の人たちの存在を認知し、その人たちとつながり、承認してもらうという意味がこもっています。そして承認は、お互いが共鳴できるという土台があってこそ成り立っていくのです。この「共鳴できる」「共感できる」という土台があって、消費のなかからもコミュニケーションが生まれ、共同体の感覚がやってくると言えるでしょう。

私は2011年に刊行した「キュレーションの時代」(ちくま新書)という本で、この消費とつながりの関係についてこう書いたことがあります。

「消費する対象としての商品や情報やサービス。そうした消費を取り巻くコンテキスト。なぜ私たちはいまこの場所とこの時間に存在しているのか。それをこの商品はどう演出してくれるのか。その消費を介して私たちはどんな世界とつながりどんな人たちとつながるのか。その向こう側にあるのは新しい世界か、それとも懐かしく暖かい場所なのか、それとも透明な風の吹きすさぶ荒野なのか」

《続きはご登録の上、お楽しみください》 

image by: Sakarin Sawasdinaka / Shutterstock.com

 

佐々木俊尚の未来地図レポート』より一部抜粋

著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年生まれ。早稲田大政経学部中退。1988年毎日新聞社入社、1999年アスキーに移籍。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。博覧強記さかつ群を抜く情報取集能力がいかんなく発揮されたメルマガはメインの特集はもちろん、読むべき記事を紹介するキュレーションも超ユースフル。
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