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永田町にまた解散風。「衆参同時選挙」に誘惑される4つのシナリオ

まことしやかに囁かれている「衆参ダブル選近し」の噂。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で、米国在住の作家・冷泉彰彦さんは、安倍政権がなぜ“解散への誘惑”に駆られるのかの理由を挙げるとともに、その解散がいかに日本にとってマズいかについて、持論を展開しています。

現実味を帯びる日本の同時選と改憲論

アメリカの政局が異常なのは仕方がないとして、日本の政局の「空気」もかなり怪しくなってきました。他でもありません。解散風、つまり7月の衆参同時選挙というムードが出たり入ったりしているからです。

どうして、政権周辺は「解散」を検討しているのでしょうか? 4つの要素があると思います。

(1)民主と維新の合流に関しては党名問題が象徴するように、合流することへの民意からの支持は見えない。従って、野党の集票力は低下傾向が見られ、敵失による勝利が期待できる。

 

(2)国際公約である消費税の10%は、サミットで根回しした後にこれを先送りする。そうすると、重要な政策変更に関して「民意を問う」という大義名分と共に、嫌税感の反対感情による集票効果も期待できる。

 

(3)仮に、衆参で自公の与党で3分の2を確保できれば、憲法改正が可能になる。

 

(4)仮に憲法を改正できれば、少なくとも党内、そして財界や保守層からのリスペクトは失わずに2018年9月に名誉ある任期満了退陣ができる。

これは大変なことです。(1)と(2)を考えると、解散への誘惑が断ちがたいということも分かります。また、この世界は一度「解散風」が吹き出してしまうと、止められないということも分かります。

ですが、私は止めておいた方がいいし、止めるべきと思います。

まず(2)が問題です。何と言っても「一度試した手」だというのが気に入りません。それは政権周辺が悪いということではなく、「もう一度やったら、もう一度成功しそう」な状況を作っている野党とメディアにあります。

私はこの欄でも再三申し上げているように、アベノミクスという政策は、円建てでの株高による内需増大効果に多少期待できるものの、日本経済全体に取ってはニュートラルであり、せいぜいが「改革への時間稼ぎ」程度という評価をして来ました。

ですから、現在の「マイナス成長の常態化」というのは、アベノミクスのマイナス効果ではありません。ですが、改革が遅滞しているためだということは、歴然としています。そんな中、政権は「景気回復に失敗したから、増税先送り」を提案する。野党はトンチンカンな「失政批判はするが、改革加速案のアイディアはないか、そもそも改革には反対」という絶望的な構図が繰り返されることになるからです。

そして、この「すみません。景気回復が遅いので、増税は先送りします。重要な政策変更ですから民意を問います」という「方法論」が2回も成功してしまうと、政権と民意の間に「改革を頑張らなくてもいい」という談合が成立してしまうように思います。これは、私は国家百年の大計において大変な問題だと思うのです。

そして(3)に至っては論外です。2020年の五輪の成功には大変な努力が必要なのに、デモとかお互いにやって大騒ぎしていては、「おもてなし」どころではないし、そんなことになるぐらいなら「近代化推進派のデモが、エルドアン批判で騒いでいた」イスタンブールで五輪をやった方が世界のためになったかもしれません。

それ以前の問題として、政治的対立エネルギーを改憲論争に使うのはダメです。構造改革のために痛みがあるのなら、その部分を直視して、ハッキリと捨てるべきものは捨て、切るべきものは切るための論争をやるべきです。

そんな「のんきなこと」をやっている間に、李克強首相の構造改革が「万が一」成功してしまうようなら、それこそ日本という国は消えてなくなってしまうでしょう。また中国の改革が失敗したら失敗したで、日本の経済社会には大きな痛みが来る危険があります。

安倍政権は第一次政権の失敗に鑑みて、改憲に手をつけるべきではないと思います。吉田茂がそうであったように、猪木正道氏がそうであったように、自衛隊は「芦田修正を自身の心の奥でしっかりと踏みしめて、黙って専守防衛の任務を果たす」存在だということ、それで士気を保てないような将兵は国家の「安全の保障」に反する存在だということを徹底して欲しいと思います。

image by: Wikipedia

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋
著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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