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世界最大のゲーム見本市に「不参加」表明のメーカーが続出する理由

 あなたは「E3」というイベントをご存知ですか? 米国・ロサンゼルスで行われる世界最大のゲーム見本市であり、業界関係者のみ参加可能というコアな性質と、1995年から続く伝統あるイベントとして、ゲーム好きの間では有名です。そんなE3が2016年も開催されるのですが、メルマガ『炎上ライター!記野直子のゲーム業界を語りたい!』の著者・記野直子さん曰く、近年のE3は少し寂しい規模になっているとのこと。果たして世界最大のゲームイベントに何が起こっているのでしょう?

E3 2016が???行く?行かない? 

毎年Los Angeles Convention Center(LACC)で行われる世界一の見本市Electronic Entertainment Expo(E3)ですが、動きがありました。E3は米国Entertainment Software Association(ESA:日本のCESAにあたる)が事務局となって行う業界関係者向け見本市です。日本のCESA同様ゲームハードウェア、ソフトウェアプロバイダーがメンバーに名を連ねる団体です。

 Electronic Arts(EA)とActivision Blizzard(Activision)がE3に参加しない!

業界に長いこと関わっている私にとってこのニュースは2007年、2008年のめっちゃ小さいE3をリマインドされます。2006年までのE3は来場者数70,000人規模の業界関係者向けの大きな見本市で、会場の面積が足りない!といわれるほど争って各社がブースの争奪戦を行っていました。ところが、暗黒の2007年、2008年は約5,000人規模の小さなE3が開催され、もう見本市はなくなってしまうのでは?と心配されたものです。

しかしながら、2009年からは40,000人規模に再生して昨年2015年52,000人にまで回復しました。業界各社がE3に再び「1年に一度あるべきイベント」と認識したものになったと信じていました。

すでにご存じの方も多いかもしれませんが、1月段階でEAが本年のE3にはブースを出さない旨の見解を出しています。EAはE3期間中の会場の近くでPress Conferenceを行う予定ではありますが、本ホールでのプレゼンスはないことになります。また、その後Activisionもブースを出さない、と発表しました。世界一の見本市に世界に名だたる2つのパブリッシャーが参加しないとはこれいかに。毎年会場(West)入り口を入ったらすぐの大きなブースを構えていたEAが存在しないE3ってどんな感じなんでしょうか?とても心配になりますね。

実は2011年以降大きなブースを構えていた「World of Tanks 」などのパブリッシャーであるWargaming も、さらにDisney Interactiveも不参加を発表しました。

だからと言ってE3は縮小するのか?という問いに対して私としては2016年のE3はそこそこ大きなはずという見解。なぜならハードメーカーは健在でEAやActivision以外のメーカーはいつも通り出展しますし、さらに今年はVRのプッシュが激しくみられるはずなので。昨年は27社出展していたVR関係のブースも今年はさらに大きくなるといわれていますので。では、2017年はどうなるんだろう?と考えると、、、もしかして縮小傾向は続くのかもしれない。その理由を下記で解説します。

お金がかかりすぎ

まずはお金がかかりすぎること。数千万円???いえいえ、E3である程度のブースを持つには数億円~数十億円のお金が3日間で吹っ飛びます。場所(コマ)代、内装設置費、コンパニオン代、ケータリングなどなどを含みますが、これに伴って会場外でプレスイベントをする場合はさらに追加、社員や関係者の移動費、宿泊費などを含めるとものすごい金額が出ていく期間なのです。

ロサンゼルス市が市をあげて誘致するにもわけがあるんです。この期間中ホテル、交通機関をはじめ商談や会食など経済効果は5,000万ドル約55億円)とか、派生するいろいろなことを考えるとそれ以上かもしれませんね。

出展するメーカーさんにとっては1年に一度ものすごくお金がかかる見本市なんです。よく欧米のパブリッシャーさんと話すと「E3一回でそこそこのゲームが1本作れちゃうよね」ってことが話題になりますが、この金額を使ったプロモーション効果測定は各社行っているはずです。不参加のメーカーはその効果測定の結果の判断をしたのでしょう。

 小売向け&メディア向け見本市

毎年夏にドイツで行われるGamescom(GC) や 東京ゲームショウ(TGS)など、業界関係者のみならずエンドユーザー向けの要素も含んでいるショーと違って、E3は業界の小売りやメディアなど業界関係者のみに向けて行われています。各メーカーがその年の年末商戦に向けてどういうゲームを開発しているかお披露目をするという目的がメインでした。パッケージ販売が主たるビジネス方式だったころから行われているE3ですから、プレイヤブルをROMで持ち込んで(ぎりぎりまで磨いて笑)初プレイさせる場所だったわけです。

ところが世はインターネット時代。プレイヤブルもROMで持ち込まなくてよい時代です。会場まで見に来ていただかなくてもYoutubeでメーカー自らがプレイ動画を上げることも簡単にできる時代になりました。実は10年位前から小売りにはE3前にプレイヤブルを渡していることも多く、実際はショーイベントでどう派手に見せるかだけが主眼になっていると言われていました。

また、パッケージビジネスからダウンロードビジネスへ移行しつつある北米のゲーム業界では「小売に向けてよりもエンドユーザーに向けて」のほうが重要で、業界関係者しか入場できないE3よりもコンシューマーに向けたプライベートショーのほうが有益であるということがいえましょう。ま、実はココが一番のポイントで、世の流れはエンドユーザーへ直接届ける時代ということでしょうね。実は北米のメーカーはかなり前からE3のほかに、各社が独自のプライベートショーやキャラバンを行ってエンドユーザー向けにお披露目の機会を作ってきています。

前述しましたが、ヨーロッパのGC、日本のTGSとならび、北米ではPAXが大きな対抗馬と言える状況です。小売、メディアと同時にエンドユーザーに直接アピールできるショーであるからです。

実際にPAX(Penny Arcade Expo)は年々大きなコンシューマショーになってきています。皆さんも最近よく耳にされると思います。2004年からシアトル(厳密にはワシントン州ベルビュー市)で始まった初回のPAXは3,000人程度を集客する中規模のショーでしたが、2011年には70,000人を集めるまでに育ちました。PAX Prime(シアトル)とPAX East(ボストン)の2回を同年開催し、2015年にはその2つに加えてテキサス州サンアントニオ市で行われるPAX Southも加え、1年に3回も行われる大きなショーになり、多くのハードメーカーからソフトメーカーまでブースを構えるようになりましたね。PAXに関しては今後掘り下げて書いていこうと思っています。

まとめ

E3は新しいハードウェアやVRのような新しい技術を世に問うようなときはとてもいいショーだと思うのですが、パッケージ販売からダウンロード販売へと業態の変化がみられる中で、変化を求められているショーなのかもしれません。お金がかかるわりには届けないといけないエンドユーザーにはアピールできないのはイタい

今後ブースの値段を大幅に下げるとか、TGSのように見本市を2日やった後ユーザーデーを設置するとか、存続のためには何らかの方策をしないといけないかもしれませんね。メーカー各社がその金額に見合う魅力的な出展パッケージを得られない限り、PAXやプライベートショーへと移行するのは自然なこと。

ただ、日本の業界関係者にとってE3が縮小するのはあまりいいことではないですね。ユーザーでごった返すわけでもない業界関係者だけの大きなショーフロアに年に1回訪問すれば、欧米で開発されている主力タイトルがほとんど見られるいい機会なのですから。何とか踏ん張ってほしいです。

もしかしたら“あの”E3は今年が見納めかもしれません。いずれにしても世界で年末に向けて発売されるタイトル群がみられるいい機会ですので6月のカリフォルニアの風を感じにLAまで行ってみませんか?

image by: logoboom / Shutterstock.com

 

炎上ライター!記野直子のゲーム業界を語りたい!

著者/記野直子
ITM、Inside、ファミ通でコラム連載をしていた記野直子が炎上記事事件でライター廃業。でも、書いてほしいという方々に背中を押されてメルマガを書くことにしたみたい。アナリストとしてゲーム業界最新情報や裏話を元に私見解説を語ります。毎月5日、25日と月2回でお送りします。
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