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【人体の不思議】都会に生まれると花粉症になりやすいードイツ研究

季節は春真っ盛りですが、花粉症の方にとっては苦しい季節です。この苦しさは花粉症の人間にしか分からないものですよね。ところで、この厄介な花粉症、実は発生する地域に偏りがあるということはご存知でしょうか?メルマガ『8人ばなし』ではこの花粉症の発生分布の偏りについて、免疫学の先進国ドイツで行われたとある研究を例に目から鱗の説を紹介しています。

「花粉症について」

目の痒さと鼻のムズムズで春を知る、という人も少なくなかろう。その経済損失や経済効果はひとまず置くとしても、やはり花粉症は厄介には違いあるまい。

言うまでもないことだが、花粉症はアレルギー反応である。アレルギーは免疫反応の一つだから、広義には免疫疾患ということになる。少しばかり面倒くさい物言いをすれば、外部環境由来の抗原(=アレルゲン)への曝露に起因する過剰な免疫反応ということである。

さて花粉症に代表される、このアレルギーだがその発症分布には明らかな傾向がある

それは、先進国に多く、後進国に少ない、さらに、先進国内でも都市部に多く、田舎には少ない、というものである。細かな分析を待つまでもなく、衛生的な環境にあればあるほどアレルギーになり易いということが直感的に分かる。どういう訳か。

少し話がそれるがアレルギー研究の先進国はドイツである。そもそもアレルギー(Allergie)という単語自体がドイツ語なのだから当然と言えば当然であろう。そういう事情であるから、ドイツ発の研究あるいは論文が質・量ともに秀でており学術的にも意義深い物であるように思う(一応、個人的見解としておくが)。

そのドイツの研究に面白いのがある。遺伝子的に全く同じ人間、つまり一卵性双生児が都市部と田舎という異なる環境に育った場合、免疫特性に違いが出る、というものである。

結論から言えば、都会っ子はアレルギー体質になり、田舎っ子は非アレルギー体質になったのである。ここで言うドイツの田舎のイメージはそれこそアニメか何かのそれのように森と草と水と家畜と共に、といった感じである。それは、人にとっても、人以外にとっても住み易い環境である。勿論、微生物にとってもである。

悪いところだけを敢えて強調すれば、真菌、寄生虫、細菌、ウィルス等(生物の定義はひとまず置くものとして)全ての感染源の温床なのである。そういった感染源に曝されることが生まれたばかりの子供にとって如何に危険なことかは想像するに容易い。

比喩はあまり好むところではないが、人間にとっての免疫とは国にとっての軍隊のようなものである。如何なる国においても防衛費には当然上限があるから、陸海空軍の全てを拡充する訳にはいかない。そこで、それぞれの地理的あるいは政治的状況などを鑑みて危急度の高いところから強くしていく。例えば、島国なら陸軍はあまり意味がないので、海防、防空に予算を割くといった具合である。

人間の免疫もこれによく似ている。ヒトの免疫グロブリンは五つの部隊に分かれている。

このうちIgEというのが対アレルゲン部隊に当たる。先にも言ったように、乳児にとって危急度が高いのは対感染である。田舎に住んでいると、乾燥した家畜の糞などから出た細菌の死骸がそこら中にまっているから、当然、対細菌部隊としての免疫が優先的に整備される。反面、対アレルゲン部隊の重要度は下がり、全免疫に占めるIgEの割合が少なくなる。結果、アレルゲンに対して鈍感になる、即ち、非アレルギー体質になるのである。

しかし、都市部など衛生的な環境に育つとこの優先順位は見直され、対アレルゲン部隊にも防衛予算が充分に回され全免疫に占めるIgEの割合が多くなる。この結果がアレルギー体質なのである。

花粉症の人は、春が来るとその症状を抑えるために抗ヒスタミン剤などを服用する。これはまるで、大して役に立たない割には意味なく強くなり過ぎた軍隊から不必要な武器を取り上げているようなものである。

本来、人間の命を守るための免疫系ではあるが、当面の危険は少ないと判断されるや、後々までも同じ人間を長らく苦しめ続ける原因となる。この実に融通の利かない、ヒトの「フレキシビリティー」に大いなる皮肉を感じるのは自分だけだろうか。

image by: shutter stock

 

8人ばなし

著者/山崎勝義

ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。
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