中国の現状を正確に分析し、現在大きな反響を集めている世界3大戦略家ルトワック氏の著書「中国4.0 〜暴発する中華帝国 」。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の北野幸伯さんは同書を絶賛し、その翻訳者である戦略学者・奥山真司さんのメルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』の一部を抜粋して紹介しています。奥山さんは、中国の現状をアメリカが「中国は経済発展していけば、いずれ民主化する」という誤った想定をしてしまった結果だと説明。そして今後、日本がとるべき戦略を進言しています。
「中国4.0」~「防衛保守」 なぜ人民解放軍をあまく見てはいけないのか?
全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは! 北野です。
世界3大戦略家ルトワックさんが日本人だけにむけて語った
爆発的に売れているようです。
私は、心から喜んでいます。なぜでしょうか?
今まで日本国内では、
「日本は悪い国だった!」
「いや、日本は良い国だった!」
という「善悪論争」が延々とつづいていた。
そうこうしている間に、日中関係が悪くなってきた。
悪くなってくると中国は、「日本を破滅させる戦略」をきっちり考えだし、それを実行しはじめた。
むこうは着々と「反日統一共同戦線」をつくっているのに、日本は、いつまで経っても「70年前」の「善悪論争」をつづけている。
私は、別の議論が盛り上がることを、心から願いました。
例えば、
・なぜ日本は、第2次大戦で負けたのだろうか?
・どうすれば勝つことができたのだろうか?
・中国は、「反日統一共同戦線戦略」で動いているが、どうすればこの戦略を無力化することができるだろうか?
・どうすれば、中国との戦争を回避することができるのだろうか?
・日本の対中戦略はどうあるべきか?
などなど。
要するに「70年前の話」も大事ですが、「今と未来の話も大事なのでは?」ということです。
そして今、戦略家ルトワックさんの本が大ベストセラーになっている。
つまり、それだけ多くの日本人が、
・中国の現状と未来
・日本の対中戦略
などに興味をもっている。
「時代が変わってきた」と思うのです。
そして、「中国4.0」を読んだ人は、世界的戦略家の考え方を吸収するでしょう。
つまり、この本は、「平和ボケ」日本人を、
「世界的視野をもつリアリスト戦略家」
に変貌させるパワーを秘めているのです。
中国4.0、成功の陰に日本人
ところで、「中国4.0」が成功した要因は、ある「日本人」にあります。
来日したルトワックさんに、奥山真司先生が6回インタビューされた。
それを基にこの本はつくられたのです。
奥山真司先生は、私が「前世は諸葛孔明だったに違いない」と思っている偉人。
世界的地政学者、戦略家です。
ご自身、戦略、地政学、プロパガンダなどを深く深く研究された奥山先生の「質問力」で、この本は、びっくり仰天のすばらしさになっているのですね。
(実際、「過去のルトワック本は難しかったですが、今回の本は、メチャクチャわかりやすいですね!」といった喜びの声が届いています。これも、奥山先生のおかげといえるでしょう)
ところで皆さん、世界的地政学者、戦略家で、日常的にルトワックさんやミアシャイマーさんと交流している奥山先生。
完全無料のメルマガを配信されているというから驚きです。
とてもたくさんのRPE読者さんがすでに読んでいると思いますが、まだの方は、これを機会に是非ご一読ください。
「再臨の諸葛孔明、『中国4.0』を語る」
本当に面白いですから、こちらも是非ご一読ください。
再臨の諸葛孔明、『中国4.0』を語る
おくやまです。
おかげさまでルトワックの『中国4.0』が発売以来大反響です。
ロシア政治経済ジャーナルの北野さんをはじめ、
実に多くの方におすすめ(もしくは批判)の言葉をいただいております。本当にありがたいことです。
さて、訳者としてこの本の内容について、あらためて話をしておかなければならないと思ったのですが、
今回触れておきたいのは、私も最後の解説の章で書ききれなかった、
ルトワックの戦略家の思想においてカギとなる概念のことです。
ルトワックは『中国4.0』の中で、戦略家としての心得とでもいうべきアイディアをいくつか出しております。
そのうちの一つは、
「中国の人民解放軍はハッタリだけの張子の虎では?」
というテーマについて、
私がルトワック本人に直接ぶつけて聞いた時に、彼は戦略家の心構えとして教えてくれたことです。
それは、
「相手の戦力を額面通りに受け取って、粛々とそれに対抗できるような方策を進言する」
これをルトワックは
「防衛保守(defence conservative)という立場だ」
と述べていたのですが、たしかにこうしておけば、相手を見下して準備不足になるリスクは避けられますし、
かと言って逆に本当に相手が「張子の虎」で、結果的に戦闘などで圧勝しても、少なくとも誰も困る人はいないわけです。
そういう意味から、相手の戦力を額面通りに受け取って、
それに対して保守的に準備を整えておく、というのは戦略家としては正しいあり方だなぁと思った次第です。
そして、ルトワックのもう一つの大事なアイディアがあります。
それが、
「発明」
というもの。これだけ聞くと、一体何のことやらさっぱりわからないですが、これは戦略を考える個人や集団(もちろん、国家も含まれます)が陥りやすい、ひとつの大きな(そして致命的な)間違いのことです。
どういうことかというと、
われわれは自分が対峙している相手の予測不可能な将来の姿について、自分たちに都合のよい希望的観測をベースとした勝手な思い込みを抱いてしまいやすい、ということです。
実例としては、ルトワック自身が『中国4.0』の中で述べているように、
「尖閣事案でもアメリカは対処してくれる(だろう)」
つまり、日本は「アメリカは尖閣まで守ってくれる」という、自分にとっての都合の良いアメリカを想定(発明)している、ということになります。
もう一つわかりやすい例は、
アメリカが「中国は経済発展していけば、いずれ民主化する」という誤った想定をして、自分たちに都合のよい中国を「発明」していたことでしょうか。
そういう期待があったからこそ、
アメリカは90年後半に中国の世界貿易機関(WTO)
への加盟を、かなり強力にプッシュしたわけです。 今夜の放送でもこれに関することに触れますが、
中国が偽造品や違法コピーなどを取り締まることなく、その製造数が世界レベルでも圧倒的になっているということを問題視した記事が出てきました。
これなども、その原因が西洋側の「発明」にある、ということなのです。
どういうことかと言うと、西洋の国々は、中国が経済発展するにつれ、自国の製品の登録商標を守るために偽造品や違法コピーをある程度諦めるようになるだろうとタカをくくっていたわけです。
しかし、どうやらそのような予測が間違いであったということに最近気付き始めている。
つまり、西洋は「将来的に著作権を守るようになる中国」を「発明」したということです。
もちろんこのような分析に対して、この記事では
「そんなことはない、まだ先にはどうなるかわからない」
という点も(とりあえず)指摘しております。
しかし、戦略立案の際には、このような希望的観測は極めて危険なものです。
まず最悪の事態を想定して、それに備える。
われわれは、ルトワックの言うような極めて保守的な想定を前提にして、努めて現実的な対応策を練る必要があるのです。
image by: Hung Chung Chih / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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