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安倍総理の訪ロは成功だったのか?プーチンが日本に突きつけた見返り

就任以来、日露関係を改善させようと取り組んできた安倍総理ですが、「クリミア併合」以降両国の関係は冷え込み、北方領土返還についても何ら進展はありません。しかし、先日ロシアで行われたの首脳会談ではロシア側が求める経済協力の話も進み、両国の関係悪化の歯止めとなったようです。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、日本がロシアと一刻も早く関係を改善させるべき理由について詳しく解説しています。

安倍総理の訪ロは、成功か?

皆さんご存知のことと思いますが、安倍総理は6日、ロシアのソチでプーチン大統領と会談しました。今回は、この会談について考えてみましょう。

日ロ関係のこれまで

まず、日ロ関係のこれまでを、復習しておきましょう。

私が北方領土問題を解決する!」と固い決意をもっておられる安倍さん。2012年12月、総理の座に戻られると、ロシアとの関係を、ものすごい勢いで改善させはじめました。2013年、日ロ関係は、「こんなことはソ連崩壊後なかった」というほど良好になっていきます。

ところが2014年3月、「大事件」が起こって、両国関係は再びの時代に逆戻りしたのです。「大事件」とは、言うまでもなく「クリミア併合」です。日本は、アメリカ主導の制裁に参加し、2013年の良好なムードは吹っ飛んでしまいました。

それでも、「北方領土問題」を解決したい安倍さんは、対話を絶やさないよう意識してこられた。しかし、ロシア側は、そんな日本の姿勢が不満で、どんどん態度を硬化させていったのです。

どういうことでしょうか? 「北方領土を日本に返還すること」は、ロシアにとって「お得な話」でしょうか? もちろん「お得な話」ではありません。むしろ「大損な話」です。なぜ? 戦争で奪った領土を「無料で返す」??? そんな話は、聞いたことがありません。では、なぜロシア側は、日本との交渉を続けるのでしょうか? 「返還の見返りが欲しいのですね。それは何でしょうか?

たとえば、ロシアは、ひどい「資源依存経済」です。原油価格とGDPが正比例」している。00~08年、原油価格がほぼ右肩上がりで上がっていたので、ロシア経済は、年平均7%成長できた。ところが08~09年に大暴落したので、ロシアのGDPも-8%まで落ち込んだ。その後原油価格が再び上昇しはじめたので、ロシア経済もプラス成長に戻った。ところが、2014年夏から再び大暴落し、バレル30ドル台までさがってしまった。それで、ロシア経済はボロボロになっている。ロシア政府は、こういう「資源依存体質」のヤバさを認識していて、経済の「多角化」を「最優先課題」としている。

ここで、日本に協力して欲しい。あるいは、極東東シベリア開発に協力して欲しい。日本人は、極東、東シベリアを開発しても、「そこに定住」とはならないでしょう?(寒い…)

ところが、中国人は、開発もするかもしれませんが、入ってきてそのまま住みついてしまう。ただでさえ人口が少ない極東、東シベリア。「ここに中国人を入れたら、実効支配されてしまう」という恐怖がロシアにある。

その他、「ロシアの石油ガスをもっと買って欲しい。日本だって、くそ遠い中東から入れるより、ロシアから買ったほが近いではないか!? と。いちいち液化天然ガスなどとメンドイことをせず、直接日本とロシアをパイプラインで繋ぎたい

とまあ、ロシアは、簡単にいうと「日本と金儲けをしたい」と思っている。

ところが日本は、「制裁中なので、「経済協力に関する話ができなくなってしまった。オバマさんが見てますからね(中国の脅威に怯える日本は、アメリカとの関係を軽んじることができない)。結果、日本の閣僚がロシアの閣僚と会うと、する話は「北方領土問題」だけになってしまった。つまり、「ロシアが損する話だけ」になってしまった。会うたび会うたび、「損する話だけ」される。ロシア側は、「いいかげんにしろ!」とウンザリしていた。

そういえば、去年8月、メドベージェフがまた北方領土を訪問しました。日本政府は、当然抗議した。すると、ロゴージン副首相は、「ハラキリして落ち着け!」とツイート。激怒した日本国民も多かったことでしょう。その背景には、「俺たちは、『制裁』『原油大暴落』『ルーブル大暴落』のトリプル難で苦しい。しかし、日本の閣僚は、会って一言目に『島返せ!』という。マジでうざったい!」というロシア側の不満があったのです。だからといって「ハラキリしろ!」と無礼な言葉を使うべきではないですが、「背景」は私たちも知っておくべきですね。

結果、ロシア側は北方領土の実効支配をますます進めていきました。たとえば、日経新聞から。

ロシア、北方領土に海軍基地検討 地対艦ミサイル配備
2016/3/26 0:59

 

【モスクワ支局】ロシアのショイグ国防相は25日、北方領土を含む千島列島(クリール諸島)に同国の海軍基地を年内に設置することを検討していると明らかにした。最新鋭の地対艦ミサイルを配備する方針だという。ロシアのタス通信が国防省内の会議での発言の内容として伝えた。

こうして、日ロ関係は、「悪化し続けていた」のです。ここまでをまとめると、

こういう流れだったのです。

安倍訪ロの成果は?

では、今回の会談の成果はどうだったのでしょうか?

国営「ロシア24」の夕方のニュースを見ると、「トップ」で扱われていました。安倍総理が「オバマの警告を無視してロシアに来た」ことが特に強調されていた。しかし、「非公式訪問」だったのは、「アメリカの圧力だ」とも。ニュースでは、安倍さんとプーチンさんが、とても頻繁に会っていることに触れられていました。

そして、安倍さん、プーチンさんと会うときは、いつも「嬉しそうな笑顔」なので、ロシアのテレビ局も満足でしょう。「アメリカによる『ロシア孤立化政策』が、うまくいっていない証拠だ!」と。そんな感じで、安倍‐プーチン会談はかなり肯定的に扱われていました

今回の会談、「北方領土」の他に、「経済協力」の話をしたのが「前進」だったと思います。

毎日新聞5月6日。

安倍晋三首相は6日午後(日本時間同日夜)、ロシアのソチを訪れ、大統領公邸でプーチン大統領との非公式会談に臨んだ。

 

日露関係はウクライナ危機を巡る日本の対露制裁で冷え込んでおり、安倍首相は事態打開のため、エネルギー開発やロシア極東地域の産業振興など経済を中心とした8項目の協力計画を提示した模様だ。

安倍首相が提示する協力計画は、原油やガスなどのエネルギー開発▽極東地域での港湾整備や農地開発などを通じた産業振興▽上下水道などのインフラ整備▽先端病院の建設―など民間協力を主体とした8項目。

 

ロシア側が求める経済の発展や国民生活の向上につながる協力に応じることで、難航する領土問題交渉で突破口を開きたい考えだ。
(同上)

ようやく日本側は、「島はやく返しやがれ!コラ!」とだけ言っていても、「うるさい!ハラキリしろ!」というネガティブな反応しか返ってこないことに気がついたようです。ですから、今回の首脳会談は、「成功だった」と言えるでしょう。

次に大切なことは、できることから協力を進めていくことですね。もちろん、日本側が損をせずWIN-WINになるよう、細心の注意が必要です。

日ロ関係の本質は、「対中国」

とはいえ、日本側の「対ロ認識」は「まだまだ」と言わざるを得ません。「北方領土を返してもらうために経済協力する」というのが、少し進化した日本政府の態度です。しかし、「対ロシア外交」の本質は、「対中国」にあります。

毎回同じ話で申し訳ありませんが。2012年11月、中国はモスクワで、尖閣・沖縄を奪うべく「反日統一共同戦線」戦略を、宣言しました。絶対証拠はこちら。

反日統一共同戦線を呼びかける中国

この戦略の骨子は3つ。

  1. 中国、ロシア、韓国で「反日統一共同戦線」をつくろう!
  2. 3国共同で、日本の「領土要求」を退けよう! 北方領土は、ロシア領。 竹島は、韓国領。そして、日本には、尖閣ばかりか、「沖縄」の領有権もない!
  3. 「アメリカ」も「反日統一共同戦線」にいれよう!!!

中国は、着実に日本包囲網を築き、大きな成果をあげています。中国がこういう戦略なのですから、日本はこれを「無力化」しなければならない。

つまり、

  1. ますますアメリカとの関係を強固にするべし
  2. 韓国との関係を改善すべし
  3. ロシアとの関係を改善すべし

これが「反日統一共同戦線戦略を打破する基本です。つまり、日本がロシアとの関係を改善することは、「中国に勝つため」なのです。別の言葉で、「中国に戦争する気を起こさせないため」、あるいは、「尖閣と沖縄を守るため」とも言えます。

ちなみに「リアリスト」のカリスマ・ミアシャイマーさんや世界三大戦略家のルトワックさんも、「ロシアがカギだと断言しています。

ルトワックさんは、日本が独立を維持できるか、それとも中国の属国になるかどうかについて、以下のように述べています。

もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。

ちなみに、ルトワックさんの『自滅する中国』は、日本の指針を知りたい方必読です。是非この機会にご一読ください。

というわけで、日ロ関係、ギリギリのところで、なんとか悪化が止まったようです。しかし、まだまだ油断できません。日本政府は、ロシアの「戦略的意義」を十分に理解され、ますます関係を改善していただきたいと思います。

image by: 首相官邸

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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