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利用者への配慮は二の次か?巷にあふれる「正しい不親切」の弊害

「間違ってはいないけど、親切ではない。こんな「正しい不親切」が最近増えてきている」メルマガ『モリモト・パンジャのおいしい遊び』の著者でイラストレーターのパンジャさんはそう思うことが増えていると語っています。一方、世の中にはわかっていても教えない方がいい「正しい不親切」もあるそうで…。今回は、パンジャさんが実際に遭遇したいくつかの場面を紹介しています。

正しい不親切

さておととい、自由が丘駅の券売機前でのこと。 月が変わると改札を通るたびに「定期を更新しろ」と「ピンコン」なってうるさい自動改札を鎮めるべく券売機でIC定期カードの更新作業をしていたところ、隣の券売機でお婆ちゃんが千円札1枚を握りしめて

「あらぁだめだわぁ どうしてぇ?」

と、一人で困っておられた、と思っていただきたい。 そこで「どうしました?」と僕。
なんでも「元町中華街まで行きたいのだがその切符の購入金額が表示されない」という。

「もういいわ、着いたところで清算してもらうから」

「いやいや、ちょっと待って」

頭上の料金表示を見てみるとその額440円。 自分の定期更新作業を終えてお婆ちゃんが操作している機械をのぞいてみると、なるほど乗車賃は240円までで選択肢の中に440円という窓がない。 はてな。 ちょっと待ってね、と頭上の表示を再度見てみると……

「横浜駅より先は『他社線へのきっぷ』からご利用ください」

とある。 なるほど、そういうことか。

以前、東急東横線は「渋谷-桜木町」という全線単一営業の運行路線だった。
それが数年前、横浜駅より先の東横路線が廃止され

渋谷-横浜(東横線by東急電鉄)+横浜-元町中華街(みなとみらい線by横浜高速鉄道)

という2社が相互乗り入れする路線に変更されたのである。 というわけで「他社線へのきっぷ」ボタンを押さなければ表示されないというわけ。

「あ~わかったよ~。 ここをこう押してね……」

と出てきた表示を見てビックリ。 選択肢が多いのだ。

「横浜経由 JR線」「武蔵小杉経由 JR線」「菊名経由 JR線」「中目黒経由 東京メトロ」
「横浜経由 京急線」「横浜経由 相鉄線」「渋谷経由 東京メトロ線」
「大岡山経由 東京メトロ線」「大井町経由 JR線」「中延経由 都営地下鉄線」

……そして「横浜経由 みなとみらい線」。

ずっとICカード(パスモ)で乗車していたので知らなかった。 これ、東急線に乗り慣れていない高齢者はわかるだろうか? ましてや「渋谷経由 東京メトロ線」と「横浜経由 みなとみらい線」は乗車していればそのまま当該の駅に到着する運行である。 わかりにくいなぁ。 なんか全体の路線図を表示して当該の駅のスイッチを押せば買えるようにしたりとか、できないもんだろうか。

まぁこの時は苦もなくボタンを操作してさし上げて「ありがとねー」と改札を通っていったわけだが、その時僕の脳裏に浮かんだ言葉がこれである。

「正しい不親切」。

正しいけれど、不親切。 あんがい多いんだな、これが。

失われたユーザー目線

考えてみれば一瞬「便利になったな」と思った「東横線渋谷駅」の構造もそれの最たるもので、ホームの幅が狭い上に乗り換え・乗降のために向かう階段・エスカレーターも人数に対応できないほど狭いのでいつも人がホームに滞留してちょっと殺伐とした雰囲気になりがちなのだ。

おそらくはホームの幅はあれ以上広くできない事情(たとえばその向こうに地下共同溝があるとか)があってあの幅は「正しく」算出されたものなのだろう。

でも不親切だよね。 「急いでいるかもしれないけど狭くて通れないから辛抱してね」という目線がアリアリでユーザー(乗降客)のことがないがしろにされている気がするのだ。

加えて「お急ぎのところ誠に申し訳ありません」と判で押したように謝罪するのもこちらの気持ちが逆なでされているようで、公共交通機関とのあり方として如何なものか、と乗るたびに思う。

これは邪推かもしれないけれど、あれはコンピュータのデザインソフトの中だけで考えられた構造なんじゃないですかね? そういや5層構造になっている東急渋谷駅の構造図も怖ろしくわかりにくい。 あれもソフト上で作られた「机上の空論」、つまり「正しい不親切」なんじゃないかと思っているのは僕だけだろうか。

さらに通路。 LEDの灯りに照らされた大きなローマ字の表示しかないグレーの無機質と言ってもいい地下通路を改札や他の路線のホームに向かって歩くたびに、設計時これが完成したときの人の動線を想像し、あるいは自分がその地下ダンジョン(もはやこう言ってさしつかえあるまい)のどこにいるかが認識できるような表示をするための、思いやりのイマジネーションはなかったんだろうか、と訝しむのである。

つまり。

以前にも「第6回 アタリ/ハズレの取扱説明書」で書いたように、このところの僕は工学系技術者の方々に対して、いささか信頼感を失うケースが多くなっているのであった。

記憶開通の快感

しかし、一方で正しい「正しい不親切」も存在するとも思うのである。 あるいは「善良なる不親切」と言えばよろしいか。

あのーおそらくは同様の感想を持たれる御同輩が多いと思われる購読者諸氏であれば必ずや賛同していただけると思うあの

「え~と、あの~、ほら、あの映画に出てた、あの女優、ほら、なんつったっけ!」

な感じ。

喉まで来ていながら出てこない、隔靴掻痒な、鼻づまりの時に香りを嗅ぐような、歯切れの悪い、痒いけど剥がせない治りかけのカサブタみたいな(もういいです)、そう、あのアレ。 アレね、周りで聞いてる時にはわかっていても教えちゃイケナイんだそうですね。

アレを頭の中でこねくり回して頭文字を50音の「ア……」から始めてなんとなく「ミ」だな、と思ったらそれにまた50音を「ミア……」、「ミイ……」と続けて探っていく(僕、そうするんですけど皆さんも同じですか? この場合はミア・ファローだったりとか)あの課程が脳を活性化させるそうですよ。 教えちゃうと「脳トレ」にならないらしい。

またそれを周りにいる人間から「オレ(アタシ)はわかってるけどね、ふふん♪」という目で見られていることがわかっているだけに悔しくて、教わりたい! でも教わりたくない。 意地でも思い出そうとするのがよろしいという。

で、ついに判明したときには、なんだか詰まった鼻が通ったときのような、風邪の治りかけにそれまでふさがっていた「耳管」が「ブッ!」という音と共に開通したときのような気持ちよさがあるわけで、してみると、自分で探り当てて「ユリイカ!」あるいは「ビンゴ!」と叫びたいほどの快感(大げさ)は「脳からのご褒美」かもしれないですね。

しかるにこの場合のこれ(知ってても教えない)は「善良な不親切」と認定してよろしいのではないかと思うのであります。

新命題2題

ところで ここで新たな命題を提起したい。
はたしてこれは「正しい不親切」か「善良な不親切」か。
命題は二つ。

「鼻毛」と「口臭」です。

「鼻毛、出てるよ」あるいは「口、匂うよ」。

その一言を言わずにおくことはどちらか
いや~微妙。 微妙すぎてどっちともいえない。
2人の間柄が夫婦なら……言う。 我が家は言います。
でも友達以上、恋人未満だと……微妙。

ごくごく昔、渋谷の交差点を通行中、すれ違ったお兄さんから

「チャック、開いてるよ」

と言われた経験のあるワタクシ。

アレが「鼻毛」だったら。 あるいは電車の中で「口臭」について指摘されたのだったら。 恥ずかしくて困ると同時に凹むこと間違いナシの命題で、コレについては保留として関係各位のご意見を伺いたいところであります。

そういえば大学生時代、仲間の女の子に始終「鼻毛」が出ている子がいて誰が「猫の首に鈴をつけるか」で揉めたことがあったっけ。

あれァどうしたんだっけか。 けっきょく「放置プレイ」だったっけか。 いずれにせよずいぶん後になって同窓会で会ったときにはもう出していなくて安堵したものでした。 そりゃそうだ。 その時はもう2児の母とかだったもんね。 今となってはいい思い出です(嘘)

 

『モリモト・パンジャのおいしい遊び』より一部抜粋

著者/モリモト・パンジャ
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