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中村うさぎ流・子育て論。幼い子どもに「1+1=2」なんて要らない

作家・中村うさぎさんがフルパワーで読者からの人生相談に答えてくれるメルマガ『中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話』。今回は、「子育てとママ友」に悩む女性からのお悩み相談です。ママ友と積極的に仲良くしたいとは思わないが、それでも耳に入ってくる「ヨソの子ども」の話は気になるそう。「人と比べずに我が子の良いところを伸ばすような教育をしたい」という質問者に、子育て経験の無いうさぎさんが送るアドバイスとは?

中村うさぎの人生相談 「子育て&ママ友」問題

人生相談のお時間です。
今回は、私に寄せられる相談の中では珍しい「子育て&ママ友」問題です。
ご相談者は「のまのま」さん。

ご存知かと思いますが、私には子どもがいません。なので「子育て」も「ママ友」も経験ありません。
したがって、「のまのま」さんに対する私の回答は「他人事だと思いやがって」と感じられるかもしれません。
確かに「他人事」なのです、私にとって。

が、その「他人事」を自分のことのように考えてみるのも興味深いと思って、あえて挑戦することにしました。
とんちんかんな回答でしたら、ごめんなさい。今から謝っておきますね。

相談

【お名前】のまのまさん 女性

うさぎさん、大好きです。

ご相談したいのは、ママ友関係が苦手ということです。みんな良い人達なんですけど、私の問題で。
元々子供が好きではなく、しかも専業主婦も羨みと蔑み両方の目で見ているタイプでした。

ステキなママ友関係を夢見て来ていませんし、あまり望んでもいません。そもそも子供ありきの関係だとある程度割り切っています。元来社交的じゃないので、面倒だとも思いますし。

今自分が子持ちの専業主婦になってみたら、あの人達、一日中何してるわけ?なんて思ってた自分に呆れます。やたらに忙しい。毎日あっという間に夕方。

それは良いのですが、同じ境遇のママ友達。
特にグループとかにも属さず、ただ挨拶を交わすのみなので、なんの問題もないのですが、ちょっとした立ち話でも、あそこの子はもうこんなに勉強が進んでいるのか!とか、比べてしまい、ヤバい!と思って我が子にやらせてみると、そもそも机に向かわせること自体が難しい有様で。

子供らしく走り回ってるだけなのに、ガミガミする自分もイヤ。それが他の子と比べた結果なのも可哀想。
っていうか、そもそもまだ赤ちゃんに毛が生えたような子供に勉強っているか
でも最近はみんな熱心だよね。とか色々考えちゃうので、あまり他のママ達と深い話をしないようにしてますが、それでも気にはなるし、情報をシャットアウトして独自の教育方針でやるほどの自信は皆無なので困ります。

これが自分のことなら、一匹狼でケセラセラ~な感じで行けるのですが、幼児教育は、なにせ親がどんだけやらせるかにかかってますので、困ります。子供の将来もかかってるし。

自分がテキトーなせいで子供がとばっちりを受けるのは可哀想。

色々書きましたが、要は、人と比べずに我が子の良いところを伸ばすような教育をしたいが、どうしたら良いですか?ということです。

もしかして、比べてるのは子供同士じゃなく、あんなに素晴らしいママに比べて、私ったら。みたいに、他のママと自分なのかも知れませんね。それならやりようがあるかも?

嫉妬とかそういう問題もあるのかな?いかが思われますか?

よろしくお願いします。

【中村うさぎの回答】

のまのまさん、私が思うに、あなたはとっても健全なお母さんです。

私は元来、幼児の詰め込み教育には批判的です。子どもの頃にはもっと他に学ぶべきことがあると思うからです。

たとえば「1+1=2」なんて、幼い頃には知らなくてもいい。
それよりも1個のリンゴが無限に増えていく物語とか、世界で自分がたった1個だと思っていたリンゴが別のリンゴに初めて出会うお話とかを、子どもと一緒に考えていくような、そんな幼児教育を私がお母さんだったらしたいと思います。

幼い子どもに必要なのは、突拍子もない創意工夫自由な想像力だと思うからです。
「1+1=2」なんてことを先に覚えてしまったら、思考が枠にはまってしまい、そこから先の想像力が広がらなくなるような気がする。あくまで「気がする」だけですが。

なので、のまのまさんが「子どもらしく走り回って」いる我が子を無理やり机に座らせて勉強させたくない気持ちは、私もひどく共感します。だって、そんなことしたら、勉強の嫌いな子どもになっちゃうよ。
子どもは放っておいても学びたがる生き物です。「なぜ?」「どうして?」と訊いてくるのは、知りたいからです。
そして、知りたいことを知った時にこそ、人は「知識を得る喜び」を味わいます。

その喜びを知った子どもは学ぶことに積極的になる。
べつに知りたいとも思ってない知識を無理に詰め込まれるより、知りたいことを知る喜びを体得した子どものほうが、大人になってからの思考力の伸びが違うと思います。

もしも私に子どもがいたら、もっとも伝えたいことは何だろう?
それは「世界の広さと多様性」です。子どもの頃は、やたら世界が狭いものです。自分の家庭と学校くらいしかの広さしかない。
だから、そこで弾かれてしまったら、途端に絶望する。

だけど、この世にはさまざまな人がいて、いろいろな価値観があることを知れば、「ここではない別の場所」があると信じることができるでしょう。
ここで弾かれても、別の場所に行けばいいのだと思える、そのような柔軟性と視野の広さを教えてあげたら、子どもはもっと生きやすくなる気がするのです。

もちろん、私には子どもがいないので「絵空事だよ」とか「現実味のない理想論だ」と言われるかもしれません。

でも私は幼い頃、絵本や童話や児童向けの本を読み漁ることで、「世界の広さ」を感じ取りました。
とてつもなく無謀だったり変人だったりする主人公が、その素晴らしいヘンテコぶりで大冒険をするようなお話は、子供向けの本によくありますよね。
成長したらそれは「荒唐無稽なおとぎ話」に過ぎないのかもしれないけど、子どもの頃の私には勇気を与えてくれました。それが大事なのだと思います。

私が子どもに教えてあげたいのは「いい大学に行ったら幸せになれる」ということではない。
大学なんか行かなくても幸せになれる人はいる」ということです。
だって、ほんとにそういう人はいっぱいいるもん。

ママ友の付き合いは私には未知の世界だけど、彼女たちが子どもに本当に教えたいことは何なのか、一度訊いてみたらどうでしょう?
あなたに似た教育観を持つ人もいるかもしれませんし、そういう人と仲良くなって、あれこれ情報交換(どこの塾がいいとかじゃなくて、どんな本を読ませたいか、とか)をするのも楽しいんじゃないかな。

価値観の合わない人たちと情報交換をしたって、自分が不安になるだけです。
それこそ硬直した価値観の狭い世界に、あなた自身が取り込まれてしまう。
それは、あなたにとってもお子さんにとっても幸福とは思えません。

もしも周囲にあなたと似た教育観を持ってる人がいなくても、ネットで探せば見つかるかもしれません。情報交換が目的なら、ネットでも充分です。
一緒にお茶したりお喋りしたりしなくていい分、もっと気楽だとも考えられます。

そんなわけで、まったく役に立たなかったかもしれませんが、これが私の考えです。私がママだったら、たぶん、そうする
正しいかどうかはわかりませんが、たぶん正解なんてないのだと思います。

のまのまさんは、今までの人生で、一番幸福を感じたのはどんな時だったでしょうか?
それを、あなたのお子さんに与えてあげればいいのだと思います。
あ、誤解のないように言っときますが、たとえばそれが「子どもを産んだ瞬間」だったとしても、お子さんに「子どもを作りなさい」と教えることではありません。

子どもを産んだ瞬間に、なぜ自分が幸福だと感じたのかを思い出してみるのです。
「この子のために生きたい」と思ったことが幸せだったのなら、お子さんに「その人のために生きたいと思えるような誰かをきっと見つけてね」と教えればいい。

それは「恋人」とか「子ども」とかに限定する必要はないのです。
どんな相手のために生きたいと思うかは、お子さんが自分で探せばいいことですから。

まぁ、親にできるのはその程度です。
あとはお子さんがひとりで道を切り拓いていけるよう見守ることだけじゃないかな。

うーん、やっぱり他人事っぽい回答だったかな。すみませんです。
一生懸命に考えたんですが、これが私の限界みたいです。

source: 中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話

image by: Shutterstock

 

中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話
著者:中村うさぎ
週刊文春連載『ショッピングの女王』『さすらいの女王』に続く新女王シリーズ『女王様のご生還』が読めるのは当メルマガだけ! 女王様の気まぐれで自筆挿絵付?その他、中村うさぎ本人から回答させていただく『中村うさぎの人生相談』、10年の時を経て中村うさぎ本人による新たな解釈を加えて大幅加筆された『週刊四字熟誤』など、中村うさぎがフルパワーでお届けいたします。
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