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新聞各紙は「自民圧勝」をどのように報じたのか?

7月10日朝から全国およそ4万8000か所の投票所で投票が行われた、第24回参議院選挙。安倍政権が進める経済政策「アベノミクス」の是非を最大の争点としていた自公ですが、実際には「憲法改正」の是非が裏の最大争点だった選挙と言っても過言ではないと思います。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんは、主要4紙を【大見出し】、【写真】、【閣僚落選】、【主筆らコメント】という4つの論点から比較し、各紙が参院選の結果をどう伝えたか、詳細に分析しています。

各紙は「参院選」の結果をどう報じたか?

今日各紙、特別編成で分量が少なくなっています。《朝日》《読売》《毎日》が各20面、東京は16面。当然ながら、各紙とも選挙特集です。というわけで、今日は<uttii電子版ウォッチ>も特別体制でお届けします。あまり細かいことに眼を走らせず、各紙1面を中心に見て、そこに現れている各紙特徴を見ていくことにしましょう。

大見出し

*まずは1面の大見出しを比較しておきましょう。

《朝日》…「改憲4党 3分の2に迫る」

《読売》…「与党大勝 改選過半数」

《毎日》…「改憲勢力3分の2越す」

《東京》…「改憲勢力 3分の2」

uttiiの眼

《朝日》はまだ、「迫る」という書き方になっています。《毎日》が「越す」、《東京》が「3分の2」と言い切っているのとは随分印象が違います。まだ全議席が確定していないからと言いたいのかもしれませんが、残念ながら、この段階で「迫るは不正確でしょう。今朝には既に全議席が確定。改憲勢力は無所属を加え、165議席となりました(162議席で3分の2超)。

《読売》は頑なに、ひとり「改選過半数」を掲げています。「もう隠さなくて良いんだよ」と耳打ちしてあげたくなりました(笑)が、規格外の巨大な大見出しの下には、普段であれば大見出しに使うような字で「改憲派2/3越す」とも書いています。

写真

*1面トップに掲載した安倍氏の写真を比較します。(ここは写真をイメージしながら、少しゆっくり読んで下さい。)

《朝日》…1面の左側に大きな写真。当選ボードの前で半身に構え、左腕を少し突き出すようにして笑っている安倍氏のバストショット。もう、嬉しくて堪らないという表情。

《読売》…1面のど真ん中に、肖像画のような大きな写真。満面の笑みで質問に答えている様子。対照的に、その下には民進党岡田代表の唇を噛んで悔しそうな表情の写真。

《毎日》…当選ボードの前でニンマリする安倍氏を、少し下からあおり気味に撮った写真。サイズは小さい。

《東京》…1面のど真ん中にバストショットよりかなり寄ったサイズで、頭を切っている鷹のような眼で何かを語ろうとしています。

uttiiの眼

圧倒的に印象が強い写真は、《読売》のもの。安倍氏がこんな顔をしたことがあっただろうかというくらい、晴れやかで清々しい笑顔です。ドキュメンタリーとか政治報道というジャンルの写真ではなく、さながらグラフ誌のよう。含意としては、安倍氏の狙い通りの選挙になったということでしょう。閣僚が落ちようが、1人区で野党に11議席取られようが関係ない。3分の2だ!3分の2!ということでしょう。「わが世の春」。

次に印象深いのは《東京》。頭を切っているので、自然に“目つき”に注意が赴きます。写真の下には「首相「改憲 秋から議論」」というキャプションが付いています。「アベノミクスが争点?そんなことあるわけないじゃないか(笑)、憲法だよ!憲法を変えちまいたいんだよ俺は。ふふ」という“心の声”が聞こえてくるようです。「虎視眈々」。

閣僚落選

岩城法相と島尻北方沖縄相が落選しました。このことを、1面でどのように表現しているか、興味深い差違が生じました。

《朝日》…「法相・沖縄相が落選」

《読売》…「岩城法相・島尻沖縄相落選」

《毎日》…「2閣僚落選」

《東京》…「福島と沖縄 閣僚落選」

uttiiの眼

《朝日》は標準形と言いましょうか、《読売》は少し丁寧に、落選者の顔が思い浮かぶように名前入り。《毎日》は「2」という数字に還元することで、むしろ、内閣の危うさを強調する雰囲気があります。17人のうち2人が議席を失ったということ。

際立っているのは《東京》です。「福島」の文字が入りました。米軍専用施設の74%が集中し、米兵らの野蛮な犯罪に晒され、普天間基地の返還と名護市辺野古への新基地建設問題に揺れる沖縄と、原発事故の影響で今も大勢の県民が避難を余儀なくされ、深刻な困難の中にある福島。地域が直面する困難を表現するに当たって、「棄民」、「差別」という言葉が使われることが多くなってきたこの2つの県の選挙で内閣の一員である参院議員が議席を失ったということ。この意味を捉えようとしたのは、《東京》だけでした。

主筆らのコメント

*まず、各紙、どんな立場の人が、どんなタイトルでコメントを書いているか、並べてみましょう。

《朝日》…「憲法論議 有権者を忘れるな」(ゼネラルエディター 中村史郎)

《読売》…「腰据えて政策を」(政治部長 前木理一郎)

《毎日》…「馬車よ ゆっくり走れ」(主筆 小松浩)

《東京》…「憲法が守るもの」(論説主幹 深田実)

*では、各紙のコメント内容を紹介していきます。

《朝日》

首相は選挙中に憲法について語らなかったのは、「大義のために沈黙」を選んだからだろうという。これまで特定秘密保護法や安全保障法のように、選挙が終わってから強引に押し進めるのは、「有権者に対してフェアな姿勢ではない」と批判。これから行われる憲法論議も、「結論ありき」や「お試し改憲」であってはならないと牽制。さらに有権者にも英国の国民投票に学ぶ必要があると。

uttiiの眼

権力の絶頂にある安倍氏に批判的な内容であり、目配りもそれなりに為されているというものの、熱いものが伝わってこない文章。安倍氏による争点隠しのことを「大義のための沈黙」に準(なぞら)えたのは、首相の内心を忖度してのことだろうが、それにしても随分と好意的な言葉を選んでしまったことに、後悔の念が湧き上がってきてはいないだろうか。慌てて「有権者にアンフェア」などと付け加えたところで、もう遅い。

《読売》

政治部長氏は、「国民の間に高揚感はない。静かな勝利だ。」として、「熱気のなさは低い投票率が物語っている。国民や与野党には、「選挙疲れ」もあったのではないか」という。確かに3年半で4回の国政選挙。結果、難題は先送りされたと批判。首相には「長期的視野で腰を据えて政策に取り組んでもらいたい」と注文をつけている。経済ではアベノミクスの腰折れを防ぎ、安全保障では中国の動きと北朝鮮の挑発行動に備えよということ。

uttiiの眼

先送りされた「難題」の最たるものは、《読売》からみれば消費税増税のことだろう。そもそも、度重なる国政選挙にかまけて政策課題がなおざりになり、「何年も待機児童問題1つ解決できない」という批判は的を射ている。ただし、首相が執心する憲法改憲に関しては一言も書いていないのがこのコメント最大の特徴。まだ隠す気でいるのか。

《毎日》

日本という名の馬車が坂道を走っていて、馬が政治家、御者が国民、積み荷は自由や平等など憲法の理念なのだという比喩から入り、「自主憲法か絶対護憲か」の対立を繰り返すべきではなく、国民が求めるものは両者の中間にあると断言。自民党は復古主義的な憲法草案を撤回し、野党も護憲一本槍の頑なさを捨てて率直に憲法の是非を語れという。与党と野党第一党が一致しない限り発議しないと約束してはどうかとも。安倍氏に対しては、「3分の2」で暴走するのは「論外」で、格差や不平等を減らし、安心できる未来への道筋を作る課題への答えは「改憲なのか否か」と問う。

uttiiの眼

馬車の譬えは何も生まないように思う。東山魁夷が欧州紀行文のなかで使った比喩なのだそうだが、少なくとも、馬と御者と積み荷を何に譬えるべきか、もう一度、そこから考え直した方がよさそうだ。その後も、疑問符の付く断定が相次ぎ訳の分からないコラムになりはてている。3分の2を取ったことで一瀉千里に改憲に進むのは勘弁してほしいという願いだけは伝わった。岸井さんが書いた方が良かったのではないか…。

《東京》

改憲の動きについての2つの指摘。1つは簡単に、慌てて変えてはならないということ。ドイツ憲法が何度も改定されたといわれるが、「人権など基本原理にかかわる部分は変えることはできない」こと、発議後に総選挙を経なければならない国もあるということ。2つ目は九条について。押しつけ云々に関わらず、戦争放棄と平和主義は日本人の血肉化していること。

また、改憲派は憲法の理想を現実に合わせろと言うが、現実を理想に近づける努力をまず為すべきだということなど。

uttiiの眼

深田氏のコメントは、以前、あまり気持ちに食い込んでくることが無かったので、若干不安な心持ちで拝読したが、短いながら、今日の文章はジャーナリストとしての意を尽くしていると思った。分かりやすく、かつ重要な情報も含まれている。

 

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

特別編成の各紙に対応して、<uttiiの電子版ウォッチ>の方もこんな形を取ってみました。思えば、この方式が可能であれば、いつでもやりたいところではあるのですが、なかなか条件が整わないのが現状です。

image by: 自民党HP

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/7/11号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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