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中国の農村で「村ぐるみ」の集団詐欺が多発。地元で産業化も深刻

世界一の人口を誇る中国には、まだまだ私たちの知らない「事実」が山ほどあるようです。無料メルマガ『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』によると、中国の農村部の集合体である「郷」の一部が、近頃「詐欺の郷」という不名誉な呼ばれ方をし始めているのだとか。地場産業の衰退などで食べていけなくなった郷が、どのようにして詐欺集団へと変貌を遂げたのか。メルマガ著者で評論家の石平さんに、この驚くべき現状を詳しく解説していただきました。

オレオレ詐欺や偽証明書の偽造…もはや「地場産業」化した「郷」がはびこる中国

中国の国内メディアで最近「詐欺の郷」という言葉をよく見かける。農村部の村々の集合である「郷」で、郷民の多くが詐欺集団と化し、郷ぐるみの詐欺犯罪を行う、という意味である。

たとえば、江西省余幹県の江埠郷は、「子供を欲しがる貴婦人詐欺」の本拠地として有名である。

各地で発覚したこの詐欺とは「夫から莫大(ばくだい)な遺産を相続した子を持たない貴婦人が、子作りのパートナーとなる若く健康な男性を大金で募集する」という嘘のメールを不特定多数に送り、釣られた人に「信用保証金」を要求するという手口である。これまで、この詐欺で全国で捕まった三百六十数人のうち、200人程度が江埠郷の石渓村と李家村の村民であることが判明している。

2つの村の村民の大半が詐欺に関わっており、多くの場合、家族単位、あるいは親族単位で詐欺グループを作り、「貴婦人」「弁護士」を演じる役割やネット情報を拡散する役割を分担し全国で暗躍してきたという。

遼寧省豊寧県の西官営郷が詐欺の郷」との悪名をとどろかせたのは、「ヤクザを装う詐欺」の本拠地となっているからである。中国では、遼寧省を含めた東北地方の「黒社会=ヤクザ」が全国的に恐れられており、西官営郷の村民はそれを利用した。彼らは全国各地で「本物の東北ヤクザ」と装い、わざとぞんざいな東北弁を使って人々に恐喝の電話をかけ、お金をゆすりまくっているのである。

福建省安渓県の長坑郷は、「電信詐欺」と呼ばれる中国版オレオレ詐欺の犯罪基地として名をはせている。もともとウーロン茶の産地であるこの郷は経済低迷で製茶産業が凋落(ちょうらく)したなか、郷民たちは一斉に家族ぐるみ、あるいは村ぐるみの「詐欺産業」を起こしていったのである。

長坑郷の村々では、郷民たちが数十の詐欺集団を作った。各集団の中では、メールアドレスや電話番号などの個人情報を不法な手段で入手する「情報組」、全国の個人に電話をかけまくる「電話組」、だましたお金を確実に受け取るための「集金組」を作り、日常業務としての詐欺活動を展開している。

最盛期に、長坑郷から発信されたオレオレ詐欺の電話とメールは1日、100万本以上に上り、全郷住民3万人のうち、1万人程度がオレオレ詐欺の容疑で捕まった前科があるという。まさにその名の通りの「詐欺の郷」である。

湖南省双峰県の場合、それはもはや県内の郷ではなく、県全体が詐欺の郷」と化していた。

人口95万人程度の双峰県は、昔から偽証明書の製造が「地場産業」となっていたことで有名だが、数年前から「合成写真詐欺」が新たな産業として盛んになった。全国の党・政府の幹部や企業経営者の個人資料とその写真を収集してきて半裸や全裸の美女との合成写真を作り本人に対して恐喝とゆすりを行うのである。

国内有名紙の新京報が今年4月26日に掲載した記事によると、双峰県の「合成写真詐欺産業」は既に県民総出の一大産業となり、県内の走馬街鎮では、鎮民7万人のうち、少なくとも2万人が偽証明書作りか合成写真詐欺に従事したことがあるという。

以上は、最近中国で話題となった「詐欺の郷」のほんの一端である。一握りのならず者がひそかに犯罪を行うのではなく、1つの村、1つの郷、あるいは1つの鎮全体において人々が半ば大っぴらに「詐欺という名の産業」を起こしているところに特徴があろう。

 

石平(せきへい)のチャイナウォッチ
誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考。来日20年。満を持して日本に帰化した石平(せきへい)が、日本人が、知っているようで本当は知らない中国の真相に迫る。
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