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電通で注目の過労自殺、遺族は会社に勝てるのか? 弁護士が解説

電通の新入社員の過労自殺が話題となっていますが、この件は氷山の一角に過ぎず、「過労」が死因の一端となっているケースは無数にあるとみられています。そのような場合、遺族たちは泣き寝入りするしかないのでしょうか。無料メルマガ『知らなきゃ損する面白法律講座』では、残された家族のための「法的対応策」について詳述しています。

電通過労死事件 遺族に残された法的対応策は?

大手広告代理店の電通で入社間もない女性社員が業務量の負担を苦に、自殺を図るという事件がありました。自殺を図る直前の残業時間はなんと100時間を超えるものとされています。これを受けて、電通には労働監督基準局が臨検を行うなどし、重い行政処分がくだされるのではないかと見られています。

なぜ、そのような異常な残業時間が続いたのかは、行政のチェックが待たれるところですが、残された遺族にはどのような法的対応策があるでしょうか?

まず、報道などでよく目にする「過労死」は、法律上の言葉ではなく、「こうした基準に当てはまれば過労死と呼ばれる」あるいは「過労死にあてはまるから、ただちにこうした法的手続きが取れる」ということはなく、既存の法令に照らして法的対応を検討することになります。

遺族側からの対応としては、刑事処分を求めたいと考えることもあるかと思いますが、正直に言ってあまり実効性がないのが残念な部分です。例えば、捜査機関に対して「業務上過失致死傷罪(法211条)」や「労働基準法違反(具体的には労働基準法32条違反)」であると告発するということが考えられます。

もっとも、告発したからといって、捜査機関が捜査を開始するかはわからない部分があり、仮に処罰されたとしてもせいぜい罰金刑。しかも金額は数十万円レベルと、命の重さとは全く釣り合わない内容となっています。したがって、「それでも一矢報いたい。法的に罰してほしい」という遺族側の心情があれば検討するという手段といえます。

一方、民事についてはどうでしょうか? この点、企業側に労働者への安全配慮義務違反(労働契約法5条など)があるとして、債務不履行を理由とする損害賠償請求を行う(民法415条)か、企業が劣悪な労働環境を放置し、それが不法行為を構成するとして不法行為に基づく損害賠償請求を行うこと(民法709条)が考えられます。

本来的には、上記の2つの請求は被害者である労働者本人が行うものですが、請求権は相続によって遺族が引き継ぐことになるため、遺族から企業側への請求が可能になります。

上記の2つの手法は、手法の違いこそあれ、実際に請求できる費用項目は同じです。過労死のようなケースでは、逸失利益として、労働者が将来得られるはずであった収入、被害者が死亡したことでの精神的苦痛を償う慰謝料、葬儀費用などが項目として挙げられます。

通常、こうした損害賠償請求においては、加害者側の行為から被害が生じたことを立証していく上で、さまざまな証拠収集活動が必要になります。しかし、過労死のケースであれば、労災の申請をし、それが認定されることで一定程度の証拠収集が可能であるとの特徴があります。

例えば、会社が主張する残業時間と被害者が主張する残業時間に差があった場合なども、労災認定の段階で実質的な残業時間を確定させたりします。また、長時間労働と自殺との関係性についての証拠も得られることになります。

罰金で数十万円の支払いを迫るよりも、多額の賠償金を支払う方が企業にとっては痛手となります。加えて、残された家族の今後の生活にも資するということから、過労死事件においては損害賠償請求が法的対応の主軸となっているのが実情です。

 

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