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子育て支援300億も、インドに援助は1兆円。納得できぬODAの真相

安倍総理は歴代首相の中でも屈指の「外交好き」として知られていますが、政府開発援助(ODA)にも力を入れ、各国の首脳クラスと会うたびに「援助外交」を行っています。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者・嶌さんは、「ODAにもメリットはあるが、国内の問題とのバランス感覚が必要であり、なぜこれだけの援助をする必要があるのかといった国民への説明責任を果たしていない」と苦言を呈しています。

政府開発援助(ODA)の中身と質を考える

今日はODAの話題を取り上げたい。最近、安倍首相はODAに積極的。歴代の首相の中でも一番多く海外を訪問し、海外からの来賓も多い。実は、その度に新興国に援助をプレゼントしている。「地球儀を俯瞰する外交」といわれるが、「援助外交」ともいわれている。

ODAと国内の問題のバランスをどう考えるか?

しかしながら、その一方で日本をよくみるとかつてのように豊かではないので、もっと日本の貧困や福祉対策におカネを出したらどうかという声も多い。そこで我々は、ODAと国内の問題のバランスをどう考えたらよいのかということを、今日は考えたい。

フィリピンのドゥテルテ大統領が来日されたが、フィリピンには昨年末に164億円の円借款を約束している。また、先日ブラジルの大統領が来日された。首脳クラスと会う度に援助外交が繰り広げられている感じがするが、我々国民はこれまでこんなに頻繁な往来がなかったのでそのことは目につかなかった。しかしながら、安倍首相になってから非常に目につくようになったというのが今の特色のように思える。

日本は1991年から2000年まではODA援助額が世界でトップだった。現在はというと、昨年度の日本の途上国向け援助額は1兆8,000億円。アメリカ、イギリス、ドイツに次いで4位である。日本は財政が悪化しランキングも下がってきたといえる。

援助をテコにインフラ輸出

ODAの内訳は2種類で、返済なしの無償資金協力」と返済しなくてはならない有償資金協力」がある。ODAの大部分は有償資金協力」で、15年度予算規模は円借款が総額9,885億円。これは一般会計のみならず特別会計からも支出されている。特別会計の場合は国会のチェックがなく、経費の中味が見えにくいともいわれている。

日本はODA支出額が世界で4位になったとはいえ、さまざまな地域への援助を行なっている。例えば、ミャンマーに1,250億円の支援、ベトナムには228億円を支援、キューバがすでに抱えている1,800億円の対日債務のうち1,200億円を免除することで合意。さらに、インドには、先日過去最大の1兆4,000億円の円借款を実施。

今年8月に開催されたアフリカ開発会議(TICAD=Tokyo International Conference on African Developmen)では、 今後3年間で3兆円規模の援助を約束している。ここで紹介したのは全てこの1年以内に行なった援助だが、これだけみても相当な金額だ。日本はおカネがあるように思われるが、実は財政難でそんなにおカネはない。昔は、貧困国への援助が最大の目的だったが、今の安倍首相は援助をテコにインフラ輸出を目論んでいるというのが最近の最大の特色である。

ODAの目的とは!?

そもそもODAの目的は何かというと、大綱に「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて 我が国の安全と繁栄の確保に資することである」と記されている。他方、昨年出された「TPP関連政策大綱案」には、インフラ輸出の戦略として「円借款など手続きの迅速化」が掲げられ、アベノミクスの成長戦略に掲げるインフラ輸出のためにODAを積極的に活用する旨が前面に打ち出されている。

昔はこういったことは「紐付き予算」といわれ、60、70年代は他国から「援助したら相手国にすべて任せるべきだ」と非難されていたこともあった。開発援助を出資している国々は28ヵ国あり開発援助委員会のメンバーとなっている。国連ではODAへの支出額をGNI(国民総所得)比で0.7%を目標としているが、多くの国は0.3~0.7%。日本のGNI比は0.19%と援助比率としては低い。そのため「日本は輸出のために援助しているのか」と紐付き予算の時代にいわれていたのと同様に再びいわれており、そういう意味でもODAは変質してきているともいえる。

インドには新幹線導入費用を…

インドに対しての1兆4,000億円の円借款は新幹線導入のため中国と競争していた中国に競り勝ち実施されたもの。今後、不具合が出たり、導入コストが高くなるとインドは日本と縁を切り、中国にチャンスを与えるという可能性も出てくる。現在、ハイテク機器の導入などについても各国との競争が続いている。そういう意味からいうと、最先端の投資というのは失敗できないといえる。

貸出した国の債務が焦げ付くということもあり、その場合は返済してもらえない。外務省によるとODAの債権放棄額(借金返済ができなくなった金額)は2013年時点で2,100億円余となっている。現在、安倍政権がドンドン援助しているODAがこれから先、返済放棄されるかもしれない。先ほどのインドの1兆円もどうなるかわからないともいえる。

国民感情とのバランスとは?

ODAは先進国の義務ともいえるが、先に述べたように最近はODAの使い方が変質してきたという感じがする。ODAの大半は官邸が決めており、これまでほとんど内容が発表されることはなかった。近年、安倍首相が各国に行く際のお土産としてあげることを発表されるので、それが新聞等に出ることによって、ずいぶんODAに出資しているのだなと国民も思うようになった。

国民感情としては、日本は福祉予算が少ない上に、子育て予算、社会保障、若者支援も不足している割には海外にドンドンおカネを出していると。バランス感覚からいうと、ODAに対する支出が多いのではという声もある。しかしながら、世界全体からみた場合には、かつては1位の出資額が4位となり、GNI比ではかつての0.3%から0.19%しか支出していない。

説明責任を果たし、あり方を考える

金額だけ聞くと多いように思うが、先の事例の通りである。よって、国会でODAへ支出する理由とバランスを国民にもっと知らせる必要があるのではないだろうか。国会で説明しないと、ほぼ官邸のサジ加減で決まってしまうというのは金額が大きいだけに腑に落ちない点もある。

それは、一般会計からの支出の場合は全て国会の中で審議されるが、特別会計からの支出の場合は説明する必要がない。日本が世界に対してせっかく良いことをしている場合であっても、国民は何となく不満を持つ。そのあたりをきちんと説明し、考える必要があると思う。

子育て支援のある対策が300億円程度しか支援されていない中で、インドへの支出が1兆円超えていると思うと比率が問題かなとも思う。保育所を作る初期費用は数千万円から1億円であるともいわれることから、そのおカネがあればいったいいくつ作れるのかという声が出てしまうのは非常に理解できる。そういう意味では、いまのODAのあり方をこのタイミングで考えてみてもいいのかなと思う。

(TBSラジオ「日本全国8時です」10月25日音源の要約です)

image by: 首相官邸

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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