MAG2 NEWS MENU

老舗の呉服店は、なぜ会議らしい会議をしないのに好調なのか?

たくさんの資料を準備し、限られている時間を割いてまで開かれる会議。数時間に及ぶ会議を週に何度もこなしたなどという経験をお持ちの方も多いかと思いますが、しかし…、これらの会議、本当に必要なのでしょうか。無料メルマガ『ビジネス発想源』では、若い兄弟による経営で外国人のファンを増やし、好調に業績を上げ続ける老舗呉服問屋の日常を取り上げながら、「彼らが会議をしない理由」を紹介しています。

商売人の会議

ある老舗の呉服問屋の元日。先代店主だった田代左之助の死により、丁稚奉公中だった長男の田代慶一が若くして店主と代表取締役の座を継ぎ、東京の大学から戻った次男の田代昇二が専務として入社した。

斜陽の零細呉服商に過ぎなかった同社は、この若き兄弟の経営によって、一気に芽吹いて好調を続けた。

インバウンド需要からますます和服が注目されるようになり、同社が発信するコンテンツは多くの外国人の和服ファンを生んだ。

そして直販も手がけることになった同社には観光地や商業施設などからも出店要請が相次ぎ、全国各地に点々と店舗をオープンさせた。

外国人や若者たちにウケるデザインを擁した新しいタイプの和服も次々と生み出し、これまでと異なる需要を喚起していったため、長年付き合いのあった取引先ともバッティングすることもなく、むしろ業界全体を元気付けたことで喜ばれた

青春時代を全て丁稚奉公に捧げた慶一の信念と、それを支えたいという昇二の貢献の両輪が、同社を大きく発展させていったのである。

そんな同社には、正月から、テレビの撮影が入っていた。社長の田代慶一には連日撮影クルーが付き、経済ドキュメンタリー番組の密着取材が来る日も来る日も行われていたのだが、常に出店要請の相次ぐ中、その仕事は元日にも及んだのである。

若くして和服しか着ない田代慶一の姿は撮影側からしてもとても映えるもので、和服姿でてきぱきと動く田代慶一の後を、常に撮影クルーは追いかけた。

そして、同社の倉庫の中で田代慶一の姿を見つけた弟の田代昇二が慶一にいくつかの案件をパッと話しそして慶一はすぐにさっと答え短時間でまた離れて持ち場に戻った

常に和服姿の田代慶一社長と、常にスーツ姿が似合っている田代昇二専務のツーショットも画になるから撮影ディレクターはよく撮りたいところだが、あまりの短時間だったので焦った

そこで、デスクに戻って再び手元の書類に向かった田代慶一に、ディレクターは声をかけた。

「田代社長は、弟さんの専務とも、また他の幹部たちとも、あまりじっくり話されないですが会議などはやらないんですか?

確かに、元日を返上するほど多忙なのに、昨年から数ヶ月間密着取材している中でも、営業会議などが開かれたことはほとんどなく、社長と専務が一箇所でじっくりと話し合う、という場面はめったに見られなかった。

その制作会社では、いつも会議、会議で、いろんなスタッフが一堂に集められ、常に幹部や上司たちから怒鳴られて、それを恐れてたくさんの資料を用意して、そこにたくさんの時間を割かれていたのだ。そんな彼らが撮影する田代慶一社長の日常は、あまりにも会議の場面が少なすぎる

今はメールとかありますし。移動中でもスマホで確認できますしね」

書類に目を落とす田代慶一社長の口から出たのは予想できるごく当たり前の答えだったが、撮影スタッフたちもメールは使っているから、どうしても納得ができない。

「でも、定例会議などないと、社内の意思疎通をするのは難しくないですか

と、ディレクターは問いかける。すると、田代慶一は手にした書類を机に置くと、ディレクターに視線を向けて、やさしく問いかけた。

「あなたのご両親は健在ですか? 兄弟や姉妹はいらっしゃいますか?」

「あ、はい。田舎の実家に両親はいます。兄弟は、兄が一人、妹が一人います」

ディレクターは少し戸惑いながらも答え、それに対して田代慶一はやさしく微笑む。

「そうですか。あなたのご家族は、家族会議をやりますか?

「家族会議…、ですか? いややらないです

うちも同じです

「え、あ、いや、昇二専務はご兄弟だから確かに家族会議は要らないかもしれませんが、ご家族ではない他の重役の方々とか、社員の皆さんとは、会議が要るでしょう?」

我が社は我が家みたいなものだから、弟も社員も、同じ家族みたいなものですよ」

「しかし、社内の意思疎通は……」

「意思疎通を図るために会議が必要だ、というのであれば、もう家族のように意思疎通はできているので、うちではそういう会議は要らないです」

「でも、みんなが集まって直接話すことで分かり合えることもあるのでは…」

「そうですね。つい先ほど、弟の専務と倉庫で直接話しましたよね。直接話して分かり合えることが会議なら、あの立ち話が専務との会議です。必要なことを必要な人だけで交わした、これは、あなたのいう会議ですよね」

ディレクターは、二の句が告げなかった。制作会社の中は会議が多すぎて、また自分もチーフとなった時にはスタッフを集めて会議ばかりやることに特に何も疑問を持っていなかった。

確かに、会議を開いたところで、何も発言しない連中もたくさん参加しているし、そもそもその会議が何のための会議なのか分からずに座っているだけの者もいる。

会議は、開かれることが重要なのではない。重要でなければ開く必要もないのだ

そんな当たり前のことを、ディレクターは目の前の取材対象である和服の社長から教えられた。

一流の商売人を目指す彼らにとって、また忙しい一年が始まる。

【今日の発想源実践】実践期限:1日間

 image by: Shutterstock
 
 
ビジネス発想源』(無料メルマガ)
<まぐまぐ大賞2015・総合大賞受賞> 連載3,000回を突破した、次世代を切り拓くビジネスパーソン向けの情報メディア。
<<登録はこちら>>
print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け