トランプ政権の国務長官に、石油大手エクソン・モービルの会長兼最高経営責任者で、ロシアとも太いパイプを持つと言われているレックス・ティラーソン氏が指名されました。そのティラーソン氏、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で世界情勢に詳しい北野幸伯さんによると、指名承認公聴会で「日本にとって喜ばしい発言」をしたとのこと。一体どのような内容だったのでしょうか。
アメリカ次期国務長官、「尖閣問題」で超重大発言
トランプさんは、次期国務長官に、レックス・ティラーソンさんを指名しています。この方は、石油大手エクソン・モービルの会長兼最高経営責任者(CEO)だった。「プーチンの親友」と呼ばれ、批判されることが多い。こんな人事からも、トランプさんの「ロシアとの関係を改善する!」という決意が見えます。
さて、ティラーソンさんは1月11日、指名承認公聴会で、日本にとってとても嬉しい発言をしています。夕刊フジ1月13日から。
尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる中国の主張や行動について、トランプ次期米政権の国務長官に指名された石油大手エクソンモービルの会長兼最高経営責任者(CEO)のレックス・ティラーソン氏が11日、米上院外交委員会で開かれた指名承認公聴会で「違法行為だ」と言い切った。
尖閣に関する中国の主張は、「違法行為」だそうです。日本にとっては「当たり前」の話ですが、アメリカの次期国務長官がいうと、重みがあります。
では、「尖閣有事」の際、アメリカはどうするのでしょうか?
公聴会では、中国が尖閣諸島に侵攻した場合の行動についても聞かれ、ティラーソン氏は「日本防衛を確約する協定に基づき対応する」と述べた。
(同上)
つまり、ティラーソンさんは、「尖閣有事の際、日本を守る!」と断言した。
アメリカは、「日本を守らないかもしれない」という不安
日本には、「アメリカは、尖閣有事の際、絶対日本を守りません!」と断言する「専門家」がたくさんいます。確かにアメリカの行動を見ていると、「そうかもしれない」と思える事実もあります。
たとえば、03年の「バラ革命」以降、アメリカの傀儡だったジョージア。08年8月、ロシアと戦争しています。ジョージアは、この戦争で大敗し、二つの自治体(南オセチア、アプハジア)を事実上失いました。ロシアが、二つの自治体を「国家承認」したからです。この時、アメリカは、もちろんジョージアの味方でしたが、軍事的に守りはしませんでした。
もう一つの例は、14年3月の「クリミア併合」。14年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシアのヤヌコビッチ大統領が失脚した。そして、親欧米というか、アメリカの傀儡政権が誕生しました。翌月、「クリミア併合」が起こった。この時アメリカは、ロシアの動きを、軍事力で止めようとはしませんでした。
もちろん、ジョージアやウクライナは、日本と違い「アメリカの軍事同盟国」ではありません。しかし、やはり不安は残ります。
しかし、アメリカは、実際に日本を救っている
とはいえ、アメリカ政府高官の発言が、「実際に日本を救っている」というのも、また事実です。例をあげましょう。
2010年9月、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こりました。絶対的に中国が悪いのですが、この国は、日本に過酷な制裁を課して(例、レアアース禁輸)、世界を驚かせました。世界に対して、「尖閣は中国固有の領土であり、『核心的利益』である!」と宣言した。そして、対立はエスカレートしていった。しかし、
- スタインバーグ国務副長官
- クリントン国務長官
- ゲーツ国防長官
- マレン統合参謀本部議長
- オバマ大統領
などが相次いで、「尖閣は日米安保の適用範囲である」旨の声明をだした。それで、中国は、大人しくなりました。アメリカは、はっきり日本を救ったのです。
そして、近年最大の危機は、12年9月に訪れました。そう、野田政権が「尖閣国有化」に踏み切った。中国国防省は、「領土・主権を守る決意と意志は、断固ゆるぎない」と声明を発表。軍事的に尖閣を奪う可能性が出てきました。なぜ中国は、侵攻を思いとどまったのでしょうか?
2012年9月19日、習近平(当時、国家副主席)は、アメリカのパネッタ国防長官と会談した。習近平は、「アメリカは、尖閣問題に首を突っ込むな!」と脅迫。するとパネッタさんは、何と答えたか?
「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内であり、軍事的な衝突に発展すれば、アメリカも関与せざるをえない」
この発言を聞いて、中国は、侵攻を断念したのです。
これらの事実からわかることは何でしょうか? アメリカ政府高官の、「尖閣は日米安保の適用範囲」という発言は、少なくとも現時点で、「圧倒的抑止力になっている」ということ。アメリカも弱体化が進んでいるので将来はわかりません。しかし、現時点ではそういうことなのです。
だから、ティラーソン発言は重い
トランプさんというと、選挙戦中の二つの発言が思いだされます。
- 「日本がもっと金を出さなければ、米軍を撤退させる!」
- 「日本が核兵器をもつのは、悪いことではない!」
しかし、ティラーソンさんは、オバマ政権の方針を踏襲し、「アメリカは、尖閣有事の際、日本を守る!」と断言した。これが大きな抑止力になることは確実。ですから、日本国民は喜んでいい。
しかし、日本政府は、一瞬たりとも油断することなく、アメリカとの関係をさらに強固にするための努力を続ける必要があります。それが、「尖閣、沖縄」を露骨に狙っている中国への、「最良、最安の対抗策」なのです。
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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