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自分の仕事を家族に胸を張って話せますか? ある食品工場長の場合

「美味しくて安全なものを食べてもらいたい」「みんなが笑顔で暮らせるような家を作りたい」など、誰もが入社当時は希望に胸を膨らませていたはずです。しかし、長い年月がその思いを薄れさせ、気がつけば会社の言いなりで「納得のいかないもの」「家族には買わせたくないもの」ばかりを手がけるようになってしまう…。どれくらいの方が、そんな状況を全否定できるでしょうか。今回のメルマガ『食品工場の工場長の仕事』では、食品工場に長年勤めた経験をもつ著者の河岸宏和さんが、「正しい仕事」について考察しています。

家族に説明出来る仕事をする

仕事が終わって、家族と夕食を食べながら何気なく会話をします。

「今日の仕事はどんなことしたの」
「今日の仕事はどうだったの」
「今日の仕事はうまくいった」

あなたの家族の素朴な質問にきちんと答えられますか

企業には、企業論理っていうのがあります。私も若い頃は仕事をしていても「へー、こんな事しているんだ」なんて思うことが、いろいろありました。大学を出てすぐ、ハムの加工メーカーに勤めたのですが、ハムの原価を見ると原材料の豚肉が一番高くて、加工が進むにつれてだんだん原価が安くなっていきます。

各工程で塩漬といって、植物性蛋白、卵白などを、原料の豚肉に打ち込んで豚肉をふくらませていくんですが、それが企業努力と自信をもって話している先輩の意見を聞いていました。初めて聞いたときは、「そんなもんかな」なんて思っていましたが、企業はおいしいもの造ることを目指すのでは無く、いかに製造コストその原材料の配合を落として安くすることに、企業の智恵を使っていました。

「なんか違うな」なんて思いながら、そのコストダウンを一番先頭に立って私は仕事を進めていたように思います。コストダウンの成果が仕事の評価に繋がっていたので、「何か今の仕事は違いませんか」と飲みながら先輩に聞いた事がありますが、「配合をいじってコストダウンをやらないと会社が潰れる」と自信を持って先輩達は話していました。

私が大学を出て就職先にハム屋さんを選んだのは、おいしいハムが食べられるだろうと考えて入社しました。大学時代は、香辛料と塩だけでおいしいハム、ソーセージを作っていましたので、植物性蛋白を入れて原価を下げなきゃ会社が成り立たないと聞くとなんか違うなと思いながらその当時は働いていました。皆さんの工場に働きに来ている人の中にも、「この作業はなんか違うな」「この工場の製品は、家族に食べさせたくないな」と感じながら、働いている方は必ずいると思います。

「正しい事ばかりをしていたのでは 決して良い結果は得られない」
「白川の清きに魚は住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」

そんな言葉があります。私も若いころは「そんなものかな」なんて思っていましたが、子どもが出来て、家族が出来て、少しは家族の事を考えるようになったときに、最近の食品に関する事件を見ていると、子どもの頃読んでいた、おとぎ話の中のヒーローになったように、「良いこと」「正しいと信じることを行うということを進めてみたいと思い出しました。

食品工場の工場長がきちんと食品を正しく造れれば、いま世間を騒がせているようなことは無くなると思い、それが自分の出来ることだと考え、このホームページを始めたのです。まだまだ小さな蟻の力は、象を倒すまでにはいきません。みなさんは家族に毎日の仕事を自信もって話せますか

最近の大きな偽装だけでも次のようなものが上げられます。

「お父さんの会社の飼っている鶏が死にそうなんで、すぐ肉処理に回したよ」
「牛肉の賞味期限が古くなったので段ボールを詰め換えたよ」
「国産の牛肉が足りなかったのでアメリカ産の肉を使ったんだよ」
「生産量が多くて時間が無かったので掃除の時間を減らしたんだ」
「普通のベーコンが高いので卵白の入ったベーコンを使ったんだ」
「スーパーの特売で製造量が多かったから昨日から次の日で包装したよ」
「今度のマンションはずいぶん鉄骨が少なくて仕事が楽だよ」

そんなことしていて大丈夫なのという家族の言葉に対して、あなたは、「こういう事しないと給料は出ないんだよ」「おまえはまだ子供だから解らないかもしれないが会社ってこんなものだよ」なんて夕食時に話せませんよね。

みなさんは家族に今日の仕事を話せますか。

何故、こんな事になってしまうのでしょうか。「片目の猿」になっていませんか。「片目をつぶって仕事をしていませんか」の中でお話ししています。

いつの間にか企業の中でだけで物事を考えてしまいます。生産量が一定に来て生産量の配合コストを、1円下げるとそのコストダウンの金額に生産量をかけていくらのコストダウンが出来たと、計算してしまいます。

2005年の年末に発覚した、姉歯設計士の地震強度偽装マンション事件についても、マンションを建てるまでが、設計士、建築業界の片眼の猿の村になっていたと思えるのです。もし、自分の家族がそのマンションに住むと考えれば決して鉄骨を抜いたりしなかったと思います。マンションを建てている大工さん、鉄骨を運んでいるトラックの運転手の方、鉄骨を持ち上げて組み立てている、クレーンの運転手、鳶の方、全ての方が、「このマンションは家族を住まわすわけにはいかないな」と必ず感じていたと思います。

仕事をしていく上で、家族に話せる仕事をしませんか。

image by: Visarut Sankham / Shutterstock, Inc.

 

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【著者】 河岸宏和(食品安全教育研究所 代表) 【発行周期】 ほぼ 週末刊

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