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第二次大戦前夜と同じ。トランプ大統領の就任演説が醸す「不穏」

先日、第45代アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏。選挙戦の最中から数々の過激な発言で世界を驚かせてきましたが、「大統領就任演説」では何を語ったのでしょうか? トランプ大統領の思い描く「新しいアメリカ」とは一体どのようなものなのか、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが、演説の内容を振り返り、詳しく分析しています。

トランプの大統領就任演説から、何がわかる?

「いいか、悪いか」はともかく、2017年の主人公は、ドナルド・トランプです。今回は、トランプの大統領就任演説」を読んでみましょう。何がわかるのでしょうか?

トランプは、「エリート支配」を終わらせたい

演説は、「現状認識」から始まりました。

For too long, a small group in our nation’s capital has reaped the rewards of government while the people have borne the cost.

 

今まであまりに長いこと、この国の首都の少数の人たちが政府の恩恵にあずかり、国民がその負担を担ってきました。

 

Washington flourished – but the people did not share in its wealth.

 

ワシントンは栄えたが、国民はその富を共有しなかった。

 

Politicians prospered – but the jobs left, and the factories closed.

 

政治家たちは豊かになったが、仕事はなくなり、工場は閉鎖した。

 

The establishment protected itself, but not the citizens of our country.

 

国の主流派は自分たちを守ったが、この国の市民は守らなかった。

 

Their victories have not been your victories; their triumphs have not been your triumphs; and while they celebrated in our nation’s capital, there was little to celebrate for struggling families all across our land.

 

彼らの勝利はあなたたちの勝利ではなかった。彼らの成功はあなたたちの成功ではなかった。彼らはこの国の首都で祝っていたものの、国中各地で苦しむ家族たちにとって祝うに値することはほとんどありませんでした。

ここまででトランプは、「アメリカは一部のエリートに支配され搾取されている」と言っています。彼が勝利したということは、同じ認識をもつ人が多いのでしょう。

では、トランプは、その現状をどう変えるのでしょうか?

That all changes – starting right here, and right now, because this moment is your moment: it belongs to you.

 

それは一切変わります。まさに今、ここで。なぜならこの瞬間は皆さんの瞬間だからです。これはあなたたちのものです。

 

It belongs to everyone gathered here today and everyone watching all across America.

 

今日ここに集まった全員のもの、アメリカ全土で見守っているすべての人のものです。

 

This is your day. This is your celebration.

 

今日はあなたの日です。これはあなたのお祝いです。

 

And this, the United States of America, is your country.

 

そしてこの、アメリカ合衆国は、あなたの国なのです。

 

What truly matters is not which party controls our government, but whether our government is controlled by the people.

 

本当に大事なのは、どちらの党が私たちの政府を仕切っているかではなく、私たちの政府を国民が仕切っているかどうかです。

 

January 20th, 2017, will be remembered as the day the people became the rulers of this nation again.

 

2017年1月20日は、国民が再びこの国の指導者となった日として記憶されるでしょう。

つまりトランプは、「エリート支配を終わらせ、国民が再びアメリカを支配できるようにする」と言った。要するに、「真の民主主義にする」と。

ポイント1

トランプは、「エリート支配を終わらせ、「国民による支配を実現すると宣言した。

アメリカは、外国支援を減らす

ワシントンの政治エリートを批判したトランプ。今度は、「アメリカが貧しくなった理由」を解説します。

For many decades, we’ve enriched foreign industry at the expense of American industry.

 

何十年も前から私たちは、アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきました。

 

Subsidised the armies of other countries while allowing for the very sad depletion of our military.

 

この国の軍隊が悲しくも消耗していくのを許しながら、外国の軍隊を援助してきました。

 

We’ve defended other nations’ borders while refusing to defend our own.

 

自分たちの国境防衛を拒否しつつも、外国の国境を守ってきました。

 

And spent trillions and trillions of dollars overseas while America’s infrastructure has fallen into disrepair and decay.

 

そしてアメリカのインフラが荒廃し衰退する一方で、海外では何兆も何兆もの金を使ってきました。

 

We’ve made other countries rich while the wealth, strength, and confidence of our country has dissipated over the horizon.

 

我々は、この国の富と力と自信が地平線の向こうで衰退していく間に、よその国々を金持ちにしてきたのです。

 

One by one, the factories shuttered and left our shores, with not even a thought about the millions and millions of American workers that were left behind.

 

工場はひとつひとつ、次々と閉鎖し、この国を出て行きました。取り残された何百万人ものアメリカの労働者のことなど、何ひとつ考えないまま。

 

The wealth of our middle class has been ripped from their homes and then redistributed all across the world.

 

この国の中産階級の富は無理やり奪い取られ、世界中に再配分されていきました。

ここでは、要するに、「アメリカが貧しくなったのは、経済面と軍事面で外国を支援しすぎたからだ」と言っている。

ポイント2

トランプは、「アメリカが貧しくなったのは経済面と軍事面で外国を支援しすぎたから」と考えている。

トランプのビジョンは、「アメリカ第1主義」

では、今後トランプ・アメリカはどうするのでしょうか?

From this day forward, a new vision will govern our land.

 

今日から今後は、新しいビジョンがこの国を統治します。

 

From this day forward, it’s going to be only America First, America First.

 

今日から今後は、ただひたすら「アメリカ第1、アメリカ第1」です。

解決策は、「アメリカ第1!」だそうです。トランプは、「アメリカ第1主義」です。

ポイント3

トランプは、「アメリカ第1主義」。

Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to benefit American workers and American families.

 

貿易、税金、移民、外交に関するすべての決断は、アメリカの有権者とアメリカの家族の利益となるよう行われます。

 

We must protect our borders from the ravages of other countries making our products, stealing our companies, and destroying our jobs. Protection will lead to great prosperity and strength.

 

私たちは、私たちの製品を作り、私たちの企業から盗み、私たちの職を破壊する外国の侵害から、この国の国境を守らなくてはならない。保護によって、繁栄と力は拡大します。

ここで、また重要な発言をしています。「保護によって、繁栄と力は拡大します」と。

ポイント4

トランプは、「保護主義者」。

私たちの企業から盗み、私たちの職を破壊する外国の侵害から、この国の国境を守らなくてはならない。

これはその通りですが、たとえば「保護貿易を過剰にやると世界恐慌になるリスクが出てきます(就任演説では直接言及しませんでしたが、彼はこれまで、「中国製品に35~45%の関税をかける」などと主張しています)。

トランプが常々いっているように、関税を大幅に上げた。すると、たとえば中国からアメリカへの輸出が激減するでしょう。中国経済は破壊されます。中国の消費は落ち込み、結果として日本の対中輸出が減る。日本経済も打撃を受けます。連鎖して、世界は恐慌になります。

構造を書くと

アメリカ、関税を大幅に引き上げる → 対米輸出減少 → 世界の国々の所得減少 → 世界の国々の消費減少 → 世界の生産減少 → また世界の国々の所得減少 → また世界の国々の消費減少 → また世界の国々の生産減少 → 以下同じプロセスの繰り返し

オバマは、世界恐慌時の失敗を繰り返しませんでした。しかし、トランプは、「ブロック経済に向かった1930年代と同じ主張をしている。「歴史は繰り返す」ということでしょうか? 皆さんご存知のように、その後「世界大戦」が勃発しました。

まとめてみましょう。

  1. トランプは、権力を、既存の支配者から国民に戻すと宣言した。
  2. トランプは、「アメリカは外国を支援しすぎているので貧しくなった」と考えている。
  3. トランプは、「アメリカ第1主義」によって「アメリカは再び偉大になれる」と考えている。

原文、翻訳は、BBCからの転載です。全文を英語、日本語で読みたい方は、こちらをご一読ください。

【米政権交代】 「アメリカ第一」 トランプ新大統領の就任演説 全文と和訳

image by: Andrew F. Kazmierski / Shutterstock, Inc.

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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