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プーチンがっかり。トランプは本当に「反ロシア」に寝返ったのか?

親ロシア、反中国の姿勢を見せるトランプ大統領ですが、ロシアでは早くも「トランプ氏は敵に包囲されて身動きが取れなくなっているのでは?」との見方が出始めているようです。このような状況を、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で世界情勢に詳しい北野幸伯さんはどう捉えているのでしょうか。記事中、トランプ大統領の「5人の敵」を挙げ、反トランプ陣営の力関係をわかりやすく解説しています。

敵に包囲され、身動きできないトランプ

トランプ、戦略の基軸は、「ロシアと和解して中国に対抗する」です。大統領選挙戦中も、大統領就任後も、一貫して「親ロシア反中国」である。

しかし、「敵」が彼の外交を邪魔します。つまり、

「ロシアとの和解は許しません!」
「中国と対立することは、許しません!」

圧力がかかっている。何が起こっているか、見てみましょう。

ロシアの失望

ロシアは世界一トランプ支持率が高い国です。プーチンの支持率は80%強ですが、トランプの支持率は、おそらく100%近いでしょう。なぜ? 選挙戦中から「ロシアとの和解」を宣言していたトランプなら「制裁を解除してくれるだろう」と期待している。

しかし、早速ロシアでは、「トランプ大丈夫だろうか?」というムードが漂い始めています。トランプ政権には、トランプ大統領の他に、「特に親ロシア」の大物が二人いた。ひとりは、「プーチンの親友」と呼ばれる、ティラーソン国務長官。もうひとりは、「プーチンの隣に座った男」フリン大統領補佐官。しかし、フリンさんは2月13日、辞任してしまった。

<米補佐官辞任>制裁解除、露と協議疑惑 フリン氏

毎日新聞 2/14(火)22:05配信

 

【ワシントン大前仁、三木幸治】米ホワイトハウスは13日、フリン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が辞任したと発表した。

 

フリン氏はトランプ政権発足前、駐米ロシア大使と対露制裁解除について電話で協議し、その後、政権内で虚偽の説明をした疑惑が浮上。

もう一人の「希望」ティラーソン国務長官は2月16日、ドイツでロシアのラブロフ外相と会談しました。何を話したのか? アメリカ、ロシア共通の課題である、「IS問題」「シリア内戦問題」で協力していくこと。しかし、「ウクライナ問題」で譲歩する気配は見せませんでした。それでも、ティラーソンさんは今後もロシアの希望」であり続けます。

一方、マティス国防相はロシアにより強硬」です。マティスさんは、中国にもロシアにも厳しいのですね。彼は2月15日、NATO国防相理事会に参加しました。そして、トランプさんの公約通り、NATO加盟国が「GDPの2%を軍事費にあてること」を要求した。

現状はどうなのでしょうか? 27の加盟国のうち、2%に達しているのは、アメリカ、イギリス、エストニア、ギリシャ、ポーランドだけ。このうちエストニア、ギリシャ、ポーランドが2%に達していても、あまり意味はありません。やはり、「ドイツもっと軍事費出せ!」ということでしょう(ドイツの国防費は、GDP比で1.2%程度)。

「もっと金を出せ!」と言われて、他の加盟国は嫌な気分だったでしょうか? それでも、マティスさんは、こんな発言でNATO加盟国を安心させました。

マティス氏はさらに、共通防衛への投資は非常に重要だとし、ロシアによるクリミア併合や、トルコの南に国境を接するシリアやイラクで台頭する過激派組織のいわゆる「イスラム国」(IS)など、2014年以降に生じた脅威を挙げた。
(BBC News 2月16日)

ロシアを脅威に挙げたことで、NATO加盟国、特にロシアに近いバルト三国やポーランドは、安心したのですね。もちろん、ロシア、マティスさん発言に落胆しています。

マティスさんは、こんなことも言いました。

マティス国防長官はNATOへの強い支持を表明し、安全保障上の課題に対応する同盟の力を称賛し、「この同盟は米国と大西洋対岸の諸国にとって根本的な基盤であり、共に強く結びつけている」と語った。
(同上)

マティスさんが来て日本は安心した。NATO加盟国も、マティスさん発言で「一安心」しました。「狂犬」と呼ばれる彼ですが、日本やNATOにとっては、「癒し系」と言えそうです。

さて、ペンス副大統領は2月18日、ドイツで開かれた「ミュンヘン安全保障会議」でスピーチしました。こんなことを言っています。

トランプ氏が接近の意欲を示しているロシアに対しては、ウクライナ東部の情勢をめぐって「ロシアの責任を問い、停戦を定めたミンスク合意を守るよう求める必要がある」と明言。会場からも賛同の声があがった。
(CNN.co.jp 2/19)

こうして、アメリカ政府高官(副大統領、国務長官、国防長官)が、ドイツに集結し、それぞれ発言した。ロシアは、「あんまりオバマ時代と変わらないぞ…」という感想を持ったのです。

敵に包囲されているトランプ

しかし、ロシアは、「トランプ自身が反ロシアになった」とは見ていません。そうではなく、「彼は敵に包囲されてやりたいことができないのだ」とみています。「敵」とは誰でしょうか?

●トランプの敵1=民主党(と中国)

トランプに敗れた民主党。そして民主党有力政治家が中国と緊密な関係にあることは、よく知られています(中国は、アメリカが反ロシアになることを望んでいますアメリカが反ロシアになれば、それだけ中国への圧力が減るからです)。

●トランプの敵2=共和党の反ロシア政治家

そして、本来トランプを支持すべき共和党の中にも、敵が多い。なぜなら、共和党には反ロシア議員が多い(たとえばマケインさんなど)。

●トランプの敵3=マスコミ

トランプさんは、マスコミも敵にまわしています。彼は、「ニューヨーク・タイムズ」「ABC」「CNN」などを、「偽ニュースを流している」と批判している。そして、「彼らは私の敵ではなく、アメリカ国民の敵なのだ!」と宣言している。いわれたメディアが、さらに攻撃的になるのも、わかります。

●トランプの敵4=国際金融資本

トランプさんは、「ナショナリスト」。だから、「グローバリスト」の「国際金融資本反トランプが多い。こういう時流を読んだ習近平は、ダボスで「グローバリズム絶対支持宣言」をしました。「国際金融資本」は、「トランプより習近平の方がマシかな?」と思い始めている。

●トランプの敵5=アメリカ諜報機関

トランプは、「イラク戦争」など、「諜報機関の失敗」を批判してきました。諜報機関も、「反トランプ」になっています。一つの証拠は、フリンさんの辞任ですね。フリンさんの辞任は、彼とロシア大使の電話の内容が問題になったからです。誰が「フリンロシア大使電話会談を盗聴したのでしょうか

というわけで、トランプさんの現状は、「まだ国内で権力を掌握できていない状態」である。

得をするのは、またしても中国

反トランプ陣営」には、ある特徴があります。トランプを批判する理由がプーチンに近いから」なのです。結果的に彼らは、「アメリカとロシアの対立を煽っている」とも言えます。するとどうなるかというと、「アメリカと中国の対立が緩くなる」。そう、またまた中国がお得なポジションにつきつつある。

中国の戦略は、「自分は戦わず他国を戦わせること」です。

「二頭のトラの戦いを、山頂から眺める」

これが、中国戦略の「理想形」なのです。現状にあてはめると、

「二頭のトラ(アメリカとロシア)の戦いを、山頂から眺める」

となる。二頭のトラが疲弊すれば、山で眺めていた中国だけが生き残るでしょう。「猛獣使いの安倍総理が二匹のトラを和解させることができれば世界平和に大きく貢献します。

image by: ID1974 / Shutterstock, Inc.

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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