マンション居住者の多くが加入している「個人賠償責任保険」。専有部分での漏水事故などに使われるこの保険ですが、実は組合員が起こしたマンション外の事故にも適用されるという事実、ご存知でしょうか。無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』の著者・廣田信子さんが、保険の専門家に直接聞いたという詳しい情報を紹介しています。
マンションの個人賠償責任保険が正しく広報されないのは…
こんにちは! 廣田信子です。
先日の記事「マンションの個人賠償責任保険はどこまで使えるの…」に関しては、たくさんのコメントや情報を頂きました。
一般のマンション居住者の方からは、マンション外の事故にも使えるなんて、「知らなかった」「一度も聞いたことがない」「今度総会で聞いてみたい」という反応ばかりです。やはり、ほとんどが知らないのです。
保険の専門家の方からは、くわしい情報を頂きました。約款には、下記のように書かれています(東京海上日動社の新マンション総合保険の約款より)。
第2条(この特約の補償内容)
(1)当会社は、日本国内において下表のいずれかの事故に起因して、他人の生命または身体を害することにより、第3条(被保険者)に規定する被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、普通保険約款およびこの特約にしたがい、保険金を支払います。
- 居住用戸室の所有、使用または管理に起因する偶然な事故
- 第3条(被保険者)に規定する被保険者のうち、同条(1)の表の①から④までの被保険者の日常生活(*1)に起因する偶然な事故
(2)この特約において居住用戸室とは、建物に所在する居住用の戸室をいい、住宅の一部または全部を事務所に使用している場合を含みます。また、敷地内の動産および不動産を含みます。
(3)当会社は、(1)の表のいずれかの事故に起因して、他人の財物を損壊することにより第3条(被保険者)に規定する被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、普通保険約款およびこの特約にしたがい、保険金を支払います。
(*1)居住用戸室以外の不動産の所有、使用または管理を除きます。
(以下略)
個人賠償責任補償特約2条(1)において、1号のマンションの居住用戸室の所有、使用、管理に起因する賠責に加えて、2号で日常生活の賠責も対象になっています。すなわち、居住マンション以外に居住者が所有する建物の所有・使用・管理にかかわるものを除けば、対象になるということです…と。
同時に、居住者の子供が道路を自転車で走行中に人にぶつかって怪我をさせたというような事故に管理組合が保険請求をするのが馴染まないのでは…という私の疑問には、その通り…管理組合の業務ではないのかも…と(だったらどうするの~?と思ってしまいますが…)。
ちなみに、対象は区分所有者ではなく居住者です。ですから、区分所有者が払っている管理費から保険料を支出していても、賃借人の子供の事故には適用になっても、区分所有者の子供の事故には適用されないのです。
何だか、マンションの個人賠償責任保険は、何重にも不思議な保険です。
- 管理組合が管理すべき共用部分じゃなく、個人が責任を持つべき専有部分が対象になる
- マンション内に限らず、マンション外で起こった事故も対象となる
- あくまで居住者が対象で、外部組合員やその家族のマンション外での事故は対象外
そして、何より不思議なのは、そのことが居住者に周知されていないということです。
お金を払っている以上、対象となる事故にはもれなく請求するというのが、保険を掛けているものの当然の権利ですが、保険を請求する者、お金を負担する者、利益を受ける者が微妙にずれているので、あまり積極的に説明されてこなかったのでしょうか。
ここで、当然、もっと保険をシンプルにできないかと考えたくなります。保障は、マンション内の事故だけでいいから、保険料を下げて…と。これに対して、保険の専門家は、「特約第2条(2)は、不要な補償なので、この補償を外してその分、保険料を安くして欲しい」と申し出られても、マンション総合保険自体が収益が出ない商品ですので、保険会社は保険料値引きには応じないのではないかと思います…と。
個人賠償責任保険については、管理組合で掛けなくてもいい、個人の自己責任で掛けてもらうべきという意見もありますが、管理組合運営に関わっていると、漏水事故のときに対応の大変さを思い、やはり個人の裁量に任せるのは危険だと、大多数の人がいいます。
私の知人は、マンションの形状からして、火災保険は必要ないという信念を持って加入せず、その代わりに、万が一の事故に備えて修繕積立金を積んでいたのですが、経年とともに、個人賠償責任保険だけはどうしても必要だが、これは、火災保険の特約でなければ入れないというので、最低限の火災保険にも加入したよ…と。
そのくらい円滑な管理組合運営には欠かせない保険なのですが…保障をマンション内に限定して、その分保険料を減額することができないのであれば、せっかくの保険をきちんと広報してフルで活用しないのは、もったいないとも言えます。