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財政を黒字化するには消費税13%?日本が置かれた厳しすぎる現状

「アベノミクスで日本経済を成長させ、財政を立て直し、2020年までの黒字化を目指す」―。そんな政府の目論見は夢と消えたようです。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者で財政問題にも精通する嶌さんは、「日本の借金は膨らむ一方で、現状で借金をなくすとしたら消費税は13%ほどになる」という衝撃の事実を記しています。

日本の借金。膨らんだ先に見えるもの…

今日は少し気が重くなる借金の話をしたい。国の予算は家計と同様に収入の範囲内で支出を決めるのが、健全な財政といえる。政府は先日、国の資産の見通しとして2020年度の財政は国と地方を合わせ約8兆3,000億円の赤字になる旨を発表した。政府は2020年に黒字化しなければ日本の財政はとんでもないことになると言っていたはずが、またも赤字になると発表している…。

アベノミクスによって黒字化の予定も…

政府の目論見ではアベノミクスによる経済成長で財政を再建し2020年度には財政を黒字化」させる方針だったはずなのだが、予定通りにいかないどころか借金は膨らむ一方だ。先に紹介したように赤字は8兆3,000億円の見込みと発表し、いったいどこまでいくのかという様相。今日はこの問題をよく考えてみたい。

世界の破綻事象に目を向けると…

まず、世界の経済危機といえば、以前この番組でも紹介したギリシャの例を紹介したい。ギリシャは4人に1人が公務員で労働時間が非常に短く、午前中しか仕事をしていないといわれていたほどだ。主な国の収入源は観光だが、芳しくなく赤字が増えた。

決定的になったのは、2009年に政権交代後の新政府が財政赤字の対GDP比が12.7%であることを発表した。それまでは3.7%と公表していたのだが、国ぐるみの粉飾が疑われ国としての信用が失墜した。この数値であればEU加盟基準を満たすが、実態がかなり厳しいことからEUから改善対策の提出を求められた。

そこでギリシャは政権交代後にEUやIMFに対して緊縮財政策を約束し、12兆円を超える融資を受けることになった。そして、この見返りに増税や行政サービスの歳出カット公務員のリストラなどを実施することで300億ユーロ(およそ3兆6,000億円)の財政赤字を削減することを約束した。公務員や多くの国民はこれに強く反対し、テレビで報じられたようなデモやストライキが繰り返されている。

ギリシャの対策を日本に置き換えてみると

このときギリシャが取った対策を日本に置き換えるとどのようになるのかを探ってみたい。まず、付加価値税(日本での消費税に相当)の軽減税率を観光客が多く所得が高い島から段階的に廃止。レストランや公共交通などに適用されている消費税を現在の13%から23%に引き上げた。これは従来の1.78倍となり、日本に置き換えると、いまの消費税8%から14.24%に引き上げることになる。この場合1,000円の買い物をすると税込で1142円となる。

さらにギリシャでは年金の支給開始年齢を、これまでの62歳から67歳に引き上げた。日本は原則65歳からの支給なので、これを5歳引き上げるとなると70歳からの支給開始となる。これはまさに生活を直撃する問題であり、ギリシャはいまなお厳しい状況が続いている。

豊かだったアルゼンチンも今や

もう一つ海外の事例を挙げたい。アルゼンチンは南米のパリと呼ばれるほど20世紀前半まで豊かで、その当時の1人当たりのGDPは世界4位だった。しかしながら、その後政策の失敗でインフレが悪化し、輸出が急減。輸入もほとんど不可能な状況に陥った。そして、消費者物価指数がマイナスとなった。つまり日本と同じデフレの状態から一気に+25%のハイパー・インフレへと猛進したことによって、アルゼンチン国債とアルゼンチンペソが暴落した。

アルゼンチンにおカネを貸してくれる国はなく、最終的に破綻に追い込まれた。それによってアルゼンチン債などを買っていた企業などは打撃を受けた。日本の借金は国内資金による国債購入が大半であるためこういった事態には直結はしないが、海外から国債を買ってもらっている国では破綻に追い込まれてしまうという怖さもある。

このように海外の事例を見てみるとなかなか厳しい状態で、厳しい状況に一旦陥ってしまうとその後の回復が容易ではない。日本国内においても北海道の夕張市の状況は非常に有名だ。

日本国内の破綻事例

夕張市の事例は国と自治体では財政規模が違うので同様には扱えないが、破綻するとどうなるのかというシミュレーションとしてはわかりやすいので紹介したい。夕張市は2007年に353億円の財政赤字を抱え破綻。現在、財政再建中で今年11年目に入り95億円を返済したが、そのシワ寄せは市民にきている。重い負担と最低限の住民サービスを嫌がり、人口が1万3,000人余から9,000人にまで減少市議会定数は18人から9人とし、さらに今年の1月末に全国最小の8人にまで削減した。

そして、市長の給与も86万2,000円から25万9,000円に減額。東京から派遣された若い鈴木直道さんが市長を務めている。さらに、東京23区より広い地域だが児童・生徒数が半減し小学校は一つ。スクールバスを全域に配備できないため児童・生徒の6割が一般のバスで通学市の病院は規模縮小で診療所となり病床は171床から19床となった。財政破綻はこのように地域住民などが困難な状況に陥る。

このまま日本全体に当てはまるとはいえないが、財政破綻し国債が売れなくなったら金利は急騰し、抜本的なリストラが必然で国民生活にシワ寄せがくることは間違いない。

累積債務は1,000兆円!

先に挙げた2020年度の借金およそ8兆3000億円は一人あたりに換算すると815万5,000円だが、労働人口で割ると一人あたり1,600万円となる。日本は世界からお金を借りていないから大丈夫とは言ってはいられない状況で、これまでは財政の不足分を国債の発行で補っていたが国債の人気が芳しくないのでそれを日銀が買っていた。そういうことができなくなる可能性は十分にある。

とにかく収入の範囲内で支出を抑えるのが第一。安倍首相含め民間が外に向けておカネをばらまいているが、もうそのようなことはできない状況だと正直に言った方がよい。消費税率の引き上げをこれまで2度延期したが、8兆円の赤字をなくすためには13%くらいの消費税率にしなくてはならないが、現状を考えるとこれは現実的ではない。社会保障費の無駄をなくすよう国民全体で考えることも必要だ。

すでに、累積債務額(公債残高)は1,000兆円を超えている。この金額からも日本の借金はのっぴきならないところまで来ている状況であるということを我々国民も一人ひとりが気が付かなくてはならない。

(TBSラジオ「日本全国8時です」2月7日音源の要約です)

image by: Anirut Thailand / Shutterstock.com

 

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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