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遂に株式上場、糸井重里「ほぼ日」をプロが分析してわかった弱点

月刊アクセスが数千万にも及ぶ超人気サイト『ほぼ日刊イトイ新聞』などを運営する「株式会社ほぼ日」がいよいよ3月16日、満を持して上場。糸井重里氏の「個人商店」ともいうべき同社ですが、上場によりその独特の雰囲気が失われるような事態には陥らないのでしょうか。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』の著者でMBAホルダーの安部徹也さんが徹底分析しています。

株式上場を果たす株式会社ほぼ日とは?

株式会社ほぼ日が3月16日に株式をジャスダック市場に上場します。

ほぼ日とはコピーライターの糸井重里氏が代表を務める会社で、『ほぼ日手帳』をメインに、オリジナルの文房具や日用雑貨を企画販売する事業を展開しています。そのビジネスモデルの中心にあるのが、『ほぼ日刊イトイ新聞』と名付けられたWebサイト。1998年6月にオープンしたこのサイトでは、オリジナル商品の紹介の他、糸井氏のエッセイや著名人との対談、インタビュー記事など、このサイトでしか読めない独自の記事が多数掲載されています。特に糸井氏がサイト開設以来毎日更新し続けている『今日のダーリン』というコラムが人気を博しており、サイトの目玉コーナーになっています。

開設18年経った今では、『ほぼ日刊イトイ新聞』の1日のアクセス数は100万を超え、このサイトを訪問する読者に対して、『ほぼ日手帳』を始めとしたオリジナル製品を販売するという仕組みがほぼ日の主なビジネスモデルなのです。

株式公開のために公表された事業概要を見てみると、ほぼ日の2016年8月期の売上高は38億円、経常利益は5億円となっています。売り上げのうち、ほぼ日手帳は26億円を占め、全体の7割近くにまで達しています。また、販路別で見ると直販が24億円で6割を超えており、『ほぼ日刊イトイ新聞』の重要性が際立つ格好になっています。

【ほぼ日のビジネスの特徴】

出典:新株式発行並びに株式売出届出目論見書

実はこのほぼ日、経営戦略の大家であるハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授にちなんで、独自性のある優れた戦略を実行する企業に対して贈られる『ポーター賞を2012年度に受賞するなど、超優良企業として折り紙付き」でもあります。

今回は株式上場にあたって、SWOT強み・弱み・機会・脅威分析を通して、ほぼ日の上場後のあるべき姿を掘り下げていくことにしましょう。

S:ほぼ日の強みはどこにあるのか?

ほぼ日の強みは、旧社名の株式会社東京糸井重里事務所が示すように、糸井重里氏個人の人的魅力にあるといっても過言ではないでしょう。私自身、8年前に『ほぼ日手帳』の爆発的なヒットの秘密を探るべく、糸井氏本人に取材した経験がありますが、直接お会いして、気さくで腰が低く、とてもユーモアに溢れた方という印象を強く持ちました。表現すれば「ほんわかという抽象的な言葉が当てはまると思いますが、Webサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』には、まさにその「ほんわか」とした雰囲気が漂い、くすりと笑えるような記事が多く、訪れる者を癒します。そして、ついつい繰り返し訪問することで、糸井氏が醸し出す『ほぼ日刊イトイ新聞』の魅力に引き込まれ、ほぼ日のオリジナル商品を購入するという流れになっているのです。つまり、ほぼ日の「最強の武器」は『ほぼ日刊イトイ新聞』といえますが、その魅力は糸井氏本人によるものが大きいということなのです。

W:ほぼ日に弱みはないのか?

ほぼ日の弱みとしては、これは強みの裏返しになりますが、糸井氏の影響力が強すぎるために、もし糸井氏が何らかの理由でいなくなるようなことがあれば事業に多大な影響を与えるということでしょう。糸井氏は現在68才とまだまだ若く、今後も代表としてほぼ日を牽引していかれることと思いますが、永遠に続けていくことはできません。そこで、今回の上場は、糸井氏個人の影響力を徐々に弱め企業としての信用力を高めていく狙いもあるのではないでしょうか。

また、事業ポートフォリオと販売チャネルの観点から事業を分析した時に、商品では『ほぼ日手帳』、販路では『ほぼ日刊イトイ新聞』にあまりにも偏り過ぎていることは事業上のリスクであり、弱みと捉えることができるでしょう。

手帳はスマートフォンの急速な普及などデジタル全盛の世の中でも、安定的な売り上げをキープしています。日本国内で1年間に購入される手帳は1億冊にも上り、ほぼ日手帳も発売初年度となる2002年版は1万2,000部でしたが、2016年版では61万部にまで成長を果たしています。手帳は一旦使い始めると、毎年同じものを使うという人も多く、安定的な成長が見込める半面、販売される時期が短く、売り上げが偏るという問題に直面します。この時期的な売り上げの偏りも弱みであり現状の課題として挙げられるでしょう。

O:今後どのような事業展開が望まれるか?

まず、今後は上場企業として、株主から安定的な成長が求められますし、加えて事業上のリスクを低減するという意味からも、弱みである事業ポートフォリオの偏りをなくして『ほぼ日手帳以外の事業の柱を早急に立てる必要があるでしょう。

『ほぼ日刊イトイ新聞』という月間アクセスが数千万に及ぶ良質のメディアを運営しているのですから、インターネット広告を導入して、一つの柱とすることも考えられます。ただ、広告が入るとメディアの性質が変わって、これまで熱狂的に支持してくれていたファン顧客が離れていくことにもつながりかねません。短絡的に広告を導入すれば売り上げが上がるというものでもなく、これまで18年間広告を柱にしてこなかったことを考えれば、『ほぼ日刊イトイ新聞』という「コミュニティ」の雰囲気を変えないためにも、今後も広告を挿入しないというポリシーは貫かれるかもしれません。

そこで、今後は、上場による信用力のアップで販路を拡大したり、糸井氏以外のヒットコンテンツを作り上げて『ほぼ日刊イトイ新聞』の魅力をアップしたり、広告モデルではなく、無料の読み物が気に入ればよりボリュームを増した有料のコンテンツを販売したりするなど、地道な活動に取り組む必要もあるでしょう。

T:順調に成長を続けてきたほぼ日に死角はないのか?

上場まで順調に成長を続けてきたほぼ日ですが、死角はないのでしょうか?

まず心配されるのは、上場によってほぼ日の良さが失われないかです。これまでほぼ日は、良くも悪くも糸井重里氏の「個人商店」として糸井氏のカラーが色濃く反映されていました。上場後、多くの株主が入ってくれば、糸井氏の考えに共感する者ばかりとは限りません。キャピタルゲインを得るために短期の成長を強く求める声が大きくなり、ほぼ日が売り上げや利益の数字だけを追い求めるような企業に変貌すれば、これまでほぼ日を支えてきたファン客が離れていき、却って業績の悪化を招くことも考えられます。

また、ほぼ日は財務諸表を分析すると、無借金であり、現金残高も12億円と企業規模に比べてキャッシュリッチな優良企業といえます。今のところは糸井重里氏と娘の池田あんだ氏で過半数を超える株式を保有していますが、株式を公開する今後は敵対的な買収で会社を乗っ取られないような対策も怠らないようにしておかなければならないでしょう。

企業にとって株式上場はもちろんゴールではありません。より社会の公器としての性格を強めて信用が向上すると共に、果たすべき責任も比較にならないくらい高まってきます。株式上場によって、ヒト・モノ・カネという経営資源を調達しやすくなったほぼ日が、今後どのような進化を遂げていくのかに注目が集まります。

image by: ほぼ日刊イトイ新聞

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【著者】 安部徹也 【発行周期】 ほぼ 週刊

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