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過去最悪の46億円赤字「大塚家具」に眠っている新たな希望

一昨年の「お家騒動」でにわかに注目を集め新経営体制で再出発を果たした大塚家具ですが、先日同社が発表した決算報告によると過去最悪の46億円の赤字に転落するなど、崖っぷちの窮地に立たされています。大塚家具に何が起きているのでしょうか。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』の著者でMBAホルダーの安部徹也さんがこの原因を詳細に分析、さらに「新生・大塚家具」が復活のために打つべき手について考察しています。

崖っぷちに追い込まれた大塚家具

親子による経営権の争い後、娘の大塚久美子社長の下で順風満帆のスタートを切ったと思われた「新生大塚家具」ですが、2016年12月期の決算は誤算だらけだったといっても過言ではないでしょう。

売上高は前期比20%ダウンの463億円、最終利益は過去最悪の46億円の赤字に転落してしまったのです。急激な業績悪化に、手元のキャッシュは1年間で71億円も減少しわずか39億円まで落ち込むなど、まさに「崖っぷち」まで追い込まれた形となりました。

この原因としては、新生大塚家具の誕生後、経営権を巡るゴタゴタのお詫びの意味での「大感謝フェア」を開催し、最大で通常価格から50%割引するなど、大規模なセールを実施することにより、需要の先食いが起こったことが挙げられるでしょう。また、この大幅な割引セールによって、「大塚家具は高級路線から決別し、ニトリやIKEAと同じような低価格路線に舵を切ったというイメージが一般消費者の間に浸透したことも、従来からメインターゲットであった高価格帯の顧客が離れる一方で、低価格帯の顧客はニトリやIKEAから流れてくることはなく、完全に誤ったイメージが世間に定着して顧客離れを招いてしまったことも大幅な業績悪化の要因といえます。

この誤算により、新生大塚家具が誕生した際に策定した2015年度から2017年度までの中期経営ビジョンは達成が困難になったとして、新たな経営ビジョンを策定し直さざるを得なくなったのです。

大塚家具が策定した新経営ビジョンとは?

大塚家具は3月10日、早期にV字回復を果たすために新たな経営ビジョンを発表しました。

その中心的な施策には「専門店・小型店による多店舗展開」「プロフェッショナルによる提案サービスを前面に」「商品とサービスのオムニチャネル化」「購入だけではない、新しい選択肢のご提供」という4つの柱が掲げられています

まず、「専門店・小型店による多店舗展開」として、大塚家具はベッドなど睡眠に特化した店舗やソファー専門店といった機能特化型や世界のトップブランドに特化したブランド特化型の小型店を50店舗を目途に全国展開することを計画しています。

家具業界は、規模が大きければ大きいほど収益率が高くなり競争を有利に展開できる規模型事業」といえます。ここでボストンコンサルティンググループが考案した「アドバンテージマトリクス」と呼ばれるフレームワークを活用すれば、大塚家具は「規模型事業」として同業のニトリと戦っても勝ち目は低く、何かに特化する「特化型事業に戦略を転換することにより、ニトリを上回る収益率を実現することも可能になります。

このようにアドバンテージマトリクスを踏まえれば、大塚家具の特化型店舗の多店舗展開はセオリー通りの戦略といえるでしょう。

また、あまり知られていないことかもしれませんが、大塚家具には800名を超えるスリープアドバイザーが在籍しています。この「眠りのプロ」達が、店舗で接客するだけでなく、ブログやSNSなどを通して、睡眠に悩む多くの人の悩みを解消するような情報を発信し続ければ、インターネットを介して「大塚家具=睡眠の悩みを解消してくれるところ」という認知度が高まることでしょう。そして、800名を超えるスリープアドバイザーが決して販売を強いるのではなく、顧客の悩みの解消することを優先させて信頼を獲得すれば、結果として顧客はそのままネットショップで購入することもあるかもしれませんし、また実店舗を訪れて実際に商品を確認して購入することもあるでしょう。これがまさに大塚家具が新たな経営ビジョンで掲げるシームレスに商品・情報・サービスを提供できるオムニチャネル化につながっていくのです。

そして最後に昨今の消費者のライフスタイルの変化にうまく対応することができれば、確実に売り上げ機会の増大につながっていくはずです。たとえば、特に若い世代では「買う」から「シェアする」というライフスタイルの大きな変化が顕著になっています。この変化に対応するためにはレンタルという方法がより消費を刺激するでしょう。また、昨今の「捨てる」から「長く使う」という価値観の変化には、リフォームやリユースという家具業界における新たな消費スタイルの提案が効果を発揮するはずです。

このように大塚家具が掲げる新たな施策はまさに理に適ったものであり、もし実際に実行できればV字回復も決して不可能なことではないといっても過言ではないでしょう。

大塚家具の復活に立ちはだかる2つの障害とは?

確かに戦略的にはセオリー通りであり、実現することができれば、確実にV字回復を実現することも可能と思われますが、現実的には大塚家具の前には乗り越えなければならない2つの大きな障害が立ちはだかっています。

一つは、消費者の間で定着してしまった「トラブルのイメージです。『「親子喧嘩の末に娘が父親を追い出してしまった」というイメージは、それが真実か否かはともかく、残念ながら多くの消費者の間で定着してしまっています。特に家具は長年使うものであり、縁起を気にする顧客にとっては、トラブルのイメージのある家具店から積極的に購入しようという気にはならないものです。いかに新生大塚家具が「幸せをレイアウトしよう」というスローガンを掲げても、消費者の目には逆に白々しく感じてしまうこともあるでしょう。一旦定着してしまったイメージを覆すことは相当難しく、袂を分かつ結果となった父親と和解をアピールしなければ、今後も悪いイメージに悩まされ続けることも考えられます。

この悪いイメージを払拭するためには、たとえば使用期限切れの鶏肉使用疑惑や異物混入でブランドイメージが一時は地に堕ちたマクドナルドの復活劇が参考になるかもしれません。

マクドナルドは立て続く不祥事で過去最悪の347億円の最終赤字を計上するなど、業績は急速に悪化しましたが、顧客の立場に立った安心安全を徹底したメニュー開発やハンバーガー総選挙など顧客を巻き込んだイベントなどが功を奏してイメージの回復に成功し、2016年1月から既存店の月次売上高は15ヶ月連続で2桁成長を続けるなど、V字回復を達成することができたのです。

同じように大塚家具も、消費者の抱くイメージを変えるために積極的にイベントを取り入れ真の姿を知ってもらうのが効果的といえます。実際に大塚家具は3月末までにリユース家具の愛称を公募するイベントを開催して顧客を巻き込む試みに取り組んでしますし、今後は家具総選挙などの企画で多くの消費者の注目を浴びることも有効といえるでしょう。

また、二つ目のハードルとして、「実現性」が挙げられます。

確かに戦略的には理に適っており、完璧といっても過言ではありませんが、実際に実現できるかどうかはまた違う次元の問題です。新生大塚家具がスタートした頃のビジョンも、オペレーションの問題で達成できなかったことを考えれば、今回のビジョンも実行段階の問題で「絵に描いた餅」になる可能性も十分に考えられるのです。

このハードルをクリアするためには、社員全員が新たなビジョンを理解し、リーダーの思い描く大塚家具の理想像を実現すべく、能力を最大限に発揮して一生懸命努力する必要があるでしょう。

果たして、大塚家具はこの2つの大きな障害を乗り越えて、V字回復を実現することができるのか?

今年度中に黒字化できなければ久美子社長の経営能力にも疑問符が付きかねず、先月開かれた株主総会では社長の退陣は避けられましたが、堪え切れない株主から来年の株主総会では再度退陣要求が突き付けられることも十分考えられるだけに、久美子社長に残された時間はそう多くないといえるのではないでしょうか。

 

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【著者】 安部徹也 【発行周期】 ほぼ 週刊

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