2016年、当時総務相であった高市早苗氏の「政治的公平が疑われる放送が行われたと判断した場合、放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性」を言及した国会答弁をめぐり、放送の自由と政治権力の関係が改めて問われました。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著名エンジニアで投資家の中島聡さんが、放送法第4条の立法趣旨と歴史的背景を振り返りながら、国家権力とメディアの健全な距離とは何かを考察しています。
私の目に留まった記事
高市早苗総理が総務相時代(2016年)に、衆院予算委員会で、「政治的公平が疑われる放送が行われたと判断した場合、放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性」を言及したことについて、これは「放送局に対する威嚇・恫喝以外」の何者でもなく、表現の自由を保証する憲法に違反するものだと抗議する、民放労連による声明です。
放送法4条には「(公共の電波を使った放送番組が)政治的に公平であること」を規定していますが、この法律は、戦時中の日本において、ラジオ放送が政府に管理され、戦争協力的内容を流して国民を洗脳していたことを反省して、戦後、米軍の占領下で作られたものです。
つまり政治的公平条項は、「国家による宣伝放送を二度と起こさないための制度設計」として生まれたのです。
憲法改正は、自民党の保守勢力の悲願であり、そのためには、国会で3分の2の票を集めるだけでなく、国民投票において過半数を確保する必要があります。
そのために、自民党はさまざまな形で世論の誘導に取り組む必要がありますが、(本来は政府による国民の洗脳を防止するために作られた)放送法4条違反を活用し、暗に「政府(=自民党)の推し進めようとする政策(例:改憲)に対して一方的な批判をする番組を作ることはけしからん」と放送局に対して圧力をかけたのは、とても危険な兆候だと私は思います。
第二次世界大戦に関しては、それぞれの国に事情があり、戦勝国が行った「東京裁判」が必ずしも客観的だとは言い切れませんが、日本政府が日本国民に対して行った以下のような悪行があったことは明らかな事実です。
- 長期戦になれば負けると分かっていた戦争に突入した
- メディアを政府が牛耳り、国民を洗脳した
- 言論の自由を封じ込め、戦争に反対する声や敗戦の可能性を訴える声を封じ込めた
- 形勢が不利になっても、それを国民から隠し続けた
- 無謀な戦略で、多くの兵隊に餓死などの「無駄死に」をさせた
上に書いた通り、放送法4条は、本来、国家が放送を支配することを防ぐために作られた法律です。
その条文が、逆に放送内容への政治的圧力の根拠として使われるとすれば、それは立法趣旨の逆転です。戦前の日本が経験した最大の教訓は、「権力が情報を支配したとき、民主主義は簡単に崩れる」という事実でした。だからこそ今、私たちはこの法律の条文が作られた本来の理由に立ち返って、高市氏の発言の意味を考えるべきだと思います。
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