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スパイ防止法にチラつく“統一協会”の影。高市早苗政権が目指す「疑われないように黙る」監視社会の絶望

高市早苗首相が推し進める「国家情報局」創設と「スパイ防止法」制定。外国のスパイ活動やサイバー攻撃への対抗を名目としていますが、その中身を精査すると、「誰と関わったか」だけで処罰される社会、「疑われないように黙る」空気が蔓延する社会への道が見えてきます。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、高市首相の危険な憲法観から統一協会との歴史的つながりまで、その全体像を鋭くえぐっています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:泉美木蘭の「トンデモ見聞録・第391回 国家情報局とスパイ防止法が生む空気
※本稿では著者の意思と歴史的経緯に鑑み、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を「統一協会」と表記しています

高市早苗の危険すぎる憲法観

前回の「ゴーマニズム宣言」を読んで、高市早苗が「どのような国を創り上げたいのか、その理想の姿を物語るものが憲法です」などと発言したことを知り、政治家としての無知に呆れてしまったが、発売中の『女性自身』には、さらに斜め上を行く話が紹介されており、驚愕してしまった。 憲法学者の小林節が、10年ほど前に衆議院の委員会に呼ばれた時の出来事だ。 小林が「憲法とは”国の理想”を書くものではなく、国家権力を制限するためのものだ」という説明をしたところ、高市がこう反論したらしい。

私は、そういう考えはとりません。 憲法は、国家に権力を与えるものです

……言葉を失ってしまう。 高市は、民主主義国家における基本中の基本とされてきた常識をあっさり否定し、完全に間違った憲法観を、意味不明な自信とともに独自展開しているのだ。 この時すでに憲法学者から「憲法は国の理想を書くものではない」と言われているのに、一切修正していないのだから、頭の中は、「憲法を、権力が国民を縛るためのものに変えたい」という思いでいっぱいなのではないか? 高市は自身のYouTubeチャンネルで、「もう黄ばんでおりますが、大事に大事に持っているのが…」と言いながら、自民党が下野していた時代に作成した改憲草案を取り出し、「実は私、これが一番好きなんですね」「何度も何度も読み直して、最も好きなものなんです」と言って、愛着たっぷりに紹介している。

国民に命令しまくる自民党改憲草案

この改憲草案には、教育・勤労・納税の三大義務以外に、国民への命令がいくつも書き込まれている。

第3条(国旗・国歌) 国民は国旗及び国歌を尊重しなければならない。 第12条(国民の責務) この憲法が国民に保障する自由及び権利…国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。 第24条(家族) 家族は互いに助け合わなければならない。 第99条(緊急事態の効果) 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も… 国その他公の機関の指示に従わなければならない。 第102条(憲法尊重義務) 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。 自民党改憲草案2012

国民に「自由と権利には、責任と義務が伴うことを自覚しろ」「常に公の秩序に反するな」「この憲法を尊重しろ」と命令しまくるこの尊大さに対して、愛着を隠さない高市は、相当な危険人物と言わねばならない。 国家を縛るはずの憲法を、国民を縛り、秩序を乱させないためのものへと傾けたがっている。 警察的な発想だ。 そしてこの発想が、いま高市政権下で進められている「国家情報局」や「スパイ防止法」の目論見と無関係とは思えない。

国家情報局とはなにか

いま政府が検討している「国家情報局」とは、簡単に言えば、日本版のCIAのような情報機関を創設する構想だ。 外国によるスパイ活動や、先端技術の漏洩、サイバー攻撃などに対抗するため、情報収集と分析能力を強化することが目的らしい。 たしかに国家ぐるみのサイバー攻撃や、首都インフラ攻撃、通信傍受などの話を聞くと不安になるし、必要なものだろうと想像はするが、問題は、その中身である。 「情報を集めて分析する能力」と言っても、それを誰がどう使うのか、どこまで権限があるのか、言論・自由・監視とどう関係するのかという点が十分に議論されていないのだ。

高市もネトウヨも「外国勢力の影響/情報活動」という言葉を好んでよく使っているが、これも何を示すのかはっきりわからない。 ネット上には、高市の台湾有事発言への批判を「外国勢力による認知戦」と言ったり、皇位継承は双系こそ伝統に適っているという意見を「外国勢力による国体破壊工作」と言ったりするバカが溢れかえっている。 まさかそこまでのネトウヨ脳で運用することはない……と思いたいが、定義がはっきりしない限りは、権力がその気になれば、些細なことでも恣意的に「外国勢力の影響」と見なすことができてしまう。 そのような状態自体が問題なのだ。 海外の団体と連携する市民活動は大丈夫なのか、研究活動に支障はないかなど、一般的な活動にも影響が及ぶだろう。

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首相官邸に権限を集中させてよいか

国家情報局構想は、その構造にも問題がある。 現在の議論では、防衛省、外務省、警察庁、公安調査庁などに分散している情報収集・分析機能を内閣に集約させ、首相官邸の権限を強化する体制が検討されているのだ。 この場合、首相官邸内での活動は、一体誰が監視するのか? そこに国会や司法は影響を及ぼせるのか? 首相とその側近だけで「情報」を見て、利用したり、もみ消したりできるような仕組みになりはしないか? 重大な憲法違反が起きても、それを知る由もないという事態に陥っては困るのだが、その「歯止め」については具体的に伝わってこないまま、高市早苗という”強気の女性リーダー”が、「権限の強化」だけをアピールしているという状態だ。

日本には、「特高警察」という歴史がある。 権力の判断ひとつで、思想や言論が国家秩序を乱すものとして取り締まられ、人々が弾圧された過去だ。 制度が悪用されない保証はない。 「何が外国の影響か」「何を危険と見なすのか」の基準が曖昧なまま、権力にいかようにも判断できるような構造を作るのは危険だ。 国家情報局を創設するなら、同時に、それを厳格に監視する独立した機関も設置しなければならない。

スパイ防止法の危うい系譜

私が「スパイ防止法」という言葉をはじめて聞いたのは、約9年前、森友学園事件の時だった。 「安倍晋三記念小学校」創立の夢を見て、安倍昭恵を名誉校長に迎えて国有地を異様な安値で入手した末に、詐欺罪で実刑判決となった籠池泰典が、動画のなかで声高に主張していたのだ。 それだけで胡散臭さを感じたが、調べてみると、やはりただならぬニオイを発していた。 「スパイ防止法」の議論は、1980年代初頭にさかのぼる。 冷戦下の反共意識が強かった当時、自民党が、防衛や外交に関する機密漏洩を防止する法案を国会に提出した。 違反した場合の最高刑は「死刑」だった。 この法案の推進運動は「スパイ防止法制定促進議員・有識者懇談会」が担っており、その会長は岸信介だった。 さらに、統一協会の政治団体「国際勝共連合」も名を連ね、多額の資金提供を行うなど、強力な後押しを行っていた。 その後も勝共連合は、機関誌などで「スパイ防止法」の制定を主張しつづけ、時代が下って、岸の孫である安倍晋三が首相になると、ますます「制定急げ!」の声を強めた。

だが、この法案には強い反対運動も起きた。 法曹界や学界、市民団体などから、「何を国家機密とするのかが曖昧」「ふつうの情報交換や調査まで処罰対象になる」「後からいくらでも拡大解釈できる」「密告や監視社会につながる」「報道や研究が萎縮する」などの反発が相次いだのだ。 特に問題視されたのは、情報を渡しただけでなく「未遂」「予備行為」「共謀段階」も処罰するとしていた点だ。 「内心」や「関係性」にまで踏み込む危険があるとして、法案はやがて廃案に追い込まれた。

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すでに分散して制度化された中身

勘の良い人は、ここで察知したかもしれないが、その後「スパイ防止法」そのものの制定運動は鳴りを潜めたものの、法案の中身は、分散されて別の法律として制度化されていく。

◎2013年「特定秘密保護法」成立 行政が「特定秘密」を指定し、漏洩すれば重罰を科すことになった。 ◎2017年「共謀罪(テロ等準備罪)」成立 実行前の「計画」や「準備行為」が処罰対象になった。 ◎2022年「経済安保推進法」成立 防衛・外交などに限定していた「秘密指定」と「漏洩罰則」を、経済・技術分野にまで広げた。

名前は変わっても、骨格は似ており、「国家が秘密を広く指定できる」「犯罪が実行されなくても、その前段階で処罰できる」という危うい部分は、すでに整備されてしまっているのだ。

「誰と関わったか」が罪になる社会

では、今回の「スパイ防止法」は、一体なにを加えようとしているのか? 一つは、「外国勢力との関係」そのものを処罰できるようにすること。 これまでの法律は、秘密の漏洩や具体的な犯罪計画を対象にしたものだったが、今回は、「外国政府の指示を受けて活動する者」「外国勢力のために情報収集を行う者」「影響工作を行う者」といった、関係性そのものを処罰対象としたいらしい。 つまり、「何をしたか」だけでなく、「誰と関わったか」ということが問題になる可能性があるということだ。

もう一つは、「秘密指定」がなくても処罰できるようにすること。 特定秘密保護法は、「秘密指定」が前提になっているが、今回は「国家利益に関わる情報一般」へと対象を広げたいらしい。 ひとえに「国家利益」と言っても、その範囲は、経済から安全保障、供給網、先端技術まで、あまりに広い。 大雑把に定義されてしまうと、国民にとっては、「触れてはならない範囲」が際限なく広がり、知る権利は狭まるばかりだ。 これらは「国家情報局」構想と合わせて議論されているようだが、定義も歯止めも十分に検討されていないままである。

「疑われないように黙る」空気の到来

高市早苗は、首相になってから急にこれらの法案に前のめりになったわけではない。 4年前、政調会長だった際、経済安全保障の議論のなかで「スパイ防止法に近いものを入れ込んでいくことが大事だ」と言い切っている。 (FNN 日曜報道 THE PRIME)

高市にとって、「情報統制」「監視と罰則」は、かなり思い入れの強いものなのだろう。 もし「スパイ防止法」が成立し、恣意的に運用されるようなことが起きればどうなるか。 思想や交友関係といった属性が、政府の監視対象になり得るし、一度その仕組みができてしまえば、「経済安保のため」という言葉のもとに、秘密の範囲も、監視の対象も、いくらでも広がっていく。 そうなれば、社会には「疑われないように黙る」という空気が静かに出来上がってしまうだろう。

安全保障に関わるテーマには触らない、外国と関わる活動は避ける、余計な発言はしない──心理的な萎縮はじわじわと強まり、力強く自由な言論も減ってしまうし、問題視すべきことが見て見ぬふりをされて過ぎ去ってしまう。 特に、弱体化してしまったマスコミにとっては、息の根を止められるようなものだろう。

内部文書をもとにした調査報道や、安全保障をめぐるスクープは、事実上不可能になる可能性まである。 「国益のため」として制定された法律が、結果として重大な国益を損なうかもしれない。 「スパイ防止法」が目指すのは、国家を守ることなのか、それとも国家に従順な国民を作ることなのか。 そこを見抜かなければならない。(『小林よしのりライジング』2026年3月3日号より一部抜粋・敬称略。このほか、小林よしのりさんの記事「ゴーマニズム宣言」はメルマガご登録の上お楽しみください)

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