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なぜNY在住の日本人社長は真っ白なDVDを見て身を乗り出したのか

レンタルビデオ店大手の「TSUTAYA」が始めた「NOTジャケ借」というサービスをご存知ですか? DVDのジャケット写真やタイトル、主演俳優などの事前情報を隠し、「あえて観ない」ことで「ドキドキ感を持ったまま作品を視聴できる」というコンセプトのサービスで、見えるのはたった一言のキャッチコピーだけ。メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者で、米国の邦字紙「WEEKLY Biz」CEOの高橋克明さんは、無類の映画好きという立場から、このサービスを「素晴らしい!」と大絶賛。さらに「映画の予告編や事前情報が映画をつまらなくしている」と、現在の映画業界に対して苦言を呈しています。

予告編だらけの世の中に

日本のニュースを見ました。

今、「NOTジャケ借」サービスが話題になっているとか。

レンタルビデオ店のTSUTAYAが始めたサービスで【敢えて見ない!】という借り方らしいです。 個々の映画作品のジャケットを封印して、それぞれの作品のレビューひとことだけをパッケージに掲載して並べられているとか。

つまり余計な情報は一切なく、DVDのジャケットもなく、ただ真っ白なパッケージにひとこと、その映画のキャッチコピーだけを書いて、客はタイトルも内容も知らないまま借りれるのだとか。

内容を詳しく知らない状態で、例えば【とにかくパパが強くて全員ボコボコにします】とか、【信じられないかもしれませんが実話です。】のようなコピーだけで、レジに持っていく。

実際に、家に持ち帰り、見るまでわからず、ドキドキ感が増すそうです。

映画好きの僕としては「待ってました!」というか。 なんて画期的な方法だ!と感心しました。 アイデア自体は素晴らしいな、と。

このニュースを報道した番組の、スタジオのコメンテイターは、のきなみ、みなさん不評でした。 大不評でした(笑

【映画くらい自分の好きなもん借りるわ!】

【自分で選んで、結果面白くなかったら納得せざるを得ないけど、タイトルもわからず借りて、面白くなかったら、許せないし 】

【すでに観ちゃった作品ならどうするの?】etc….

確かにそのとおりかもしれませんが、この人たちは、「本当に人生の1本に出会えるまで映画は多くの無駄な作品を観なきゃいけない」ということがわかってないんじゃないでしょうか。

この1本!に出合うまで、そうじゃない99本を観なきゃいけない。その時間は決して無駄じゃない。 じゃないと、本物の1本に出合えない、というのが僕の持論です(映画好きじゃないと意味がわからない持論だけれど・笑)。

いや、そんなに暇じゃない。 何本も観てられない、という人には確かにあまり意味のないサービスかもしれません。

ただ、昨今の映画に限らず、説明過多の世の中に飽き飽きしてませんか?

そう、映画に限らず。 飲食店だって、手持ちのiPhoneでコチョコチョすれば、他の人の(しかも信用できるユーザーの)評価がご丁寧に星の数で表してくれてることまでわかる。 こんな世の中、もう、劇的にマズい飲食店と出会えない!!

(ま、出会わない方がいいんだけど。 確かに映画好きの僕はこのTSUTAYAのサービスに大賛成だけど、特にグルメでもない僕は、食べログとかありがたいもんな。 そーゆーことか!)

とにかく、説明過多で、予告編だらけの世の中は、事故的な出会いが極端に少なくなった気がします。

映画の話に戻すと、予告編で見せ過ぎじゃないか、と思うこともしばしば。 もちろん興行的に成功する為には、極力、魅力的なトレイラーを見せることが必要であり、でも、それってさ、もうほとんどストーリー語っちゃってるじゃん!って予告編が多くなるってことですよね?

そのぶん、実際の劇場での感動度、興奮度、が下がっちゃって、映画そのもののファンを減らしてるんじゃあないかと危惧してしまいます。

大昔、僕が学生の頃、近所のお兄ちゃんが映画「トッツィー(Tootsie)」を観たときの衝撃を語ってくれたことがあります。 ダスティン・ホフマン扮する主人公が、ほぼ全編、女装で登場し、最後の最後で、カツラをとり、男性だとバラします。

もし。 なんの予備知識もなく、この映画を観たら、映画の中の登場人物と同じくらいの衝撃を観客は受けられたのだと思います。

今の時代、その衝撃を受けるのは、もはや不可能。 だって、主演がダスティンホフマンってだけで、そのおばちゃんはホフマンとわかるだろうし。

小学校の頃から、映画好きだった僕は、ある時期2年間だけ映画から離れた時期がありました。 高校時代です。 その期間だけ、月刊「ロードショー」も買わなかった。

で、高松に遊びに行った際、何気に映画館の前を通り、貼られたポスターに目を奪われました。 背中に入れ墨した男の背中が怪しく光っています。

当時、話題になっていたロバート・デ・ニーロが主演する、その「ケープ・フィアー(Cape Fear)」という作品が、アクションなのか、ホラーなのか、サスペンスなのか、ジャンルすらわからず、チケットを買い、劇場に入りました。

何の予備知識もなく観たそのサスペンス映画は、今考えると特別クオリティも高いわけでなく(なにより60年代、グレゴリー・ペックが主演した名作「恐怖の岬」のリメイクであることも当時は知らず)それでも、ものすごく楽しめました。

ドキドキしっぱなしでした。 主役がデ・ニーロであることも知らずに入ったくらいなので、あまりにまっさらな状態だったので楽しめたのだと思います。

同じ時期に、テレビで映画評論家のおすぎさんだかが、映画のいちばん楽しい見方は、なんの予備知識も持たず、主演も監督も知らないまま、なんならジャンルも知らないまま観に行くことだ、と言っていたのを思い出します。 先の高松の映画館は、まさしくその通り!と感じた出来事でした。

こんな経験も、情報過多な今の時代には絶対無理だと思います。

ハリウッド映画が好きな僕は日本映画には結構、疎く、知らない作品も多い。

一昨年、女優の安藤サクラさんにインタビューした時のこと。 彼女はニューヨークで、特別上映される「百円の恋」の舞台挨拶で訪米されました。

インタビュー前日、関係者から観ておいて、とその出演作品「百円の恋」のDVDを渡されました。

関係者用の、非売品の、焼いただけのDVD。 真っ白な状態で、マジックでアメリカ人が「100 Yen Love」とだけ、本体に殴り書きしたDVD。 もちろん、パッケージもありません。 つまり、何の予備知識もない。 そんな状態で、自宅のプレーヤーに入れました。

ちょっとだけ日本映画に偏見のある僕は、大した期待もせず、あくまで仕事用の(明日のインタビュー用の)資料として、ソファに寝転がって観始めました。 例の日本映画独特のセンスがセンスすぎる「アートな間」ばかりの、浅いくせに深いセリフだらけの芸術作品風作品なんだろな、と思いつつ。 ある程度ストーリーがわかった時点で、停止して寝てやろう、くらいの気持ちでした。

観ているうちに、寝転がっていた上体は少しずつ、起き上がり、最後は身を乗り出して、食い入るように観ていました。 オモシロスギル!!

ここ数年観た日本映画ではベスト級の面白さでした。

でも、それも、やっぱり、今考えると、まっさらな状態で、観ることが出来たからかもしれません。 今考えると、この作品で主演の安藤さんが、日本アカデミー賞の主演女優賞を受賞したことすら知りませんでした(笑・それはさすがにインタビュアー失格だw もちろん取材直前にはWIKIとかでさすがに調べはすると思うけど)。

もし、TSUTAYAで出会った作品なら、少なくともDVDのパッケージ裏は見ていた。 そこにはボクシングをしている彼女の写真は掲載されていたはず。 それすら(ジャンルすら)知らない僕はまさかの展開に、驚き、結果、生涯の1本のひとつになった。 前述の近所のお兄ちゃんにとっての「トッツィー」のように。

予告編で観ていたら、少なくとも、最後に彼女がリングに上がるということくらいまではわかるはず。 観てなくて良かった。

、、ということは、映画好きじゃなくて、映画のこと何も詳しくなくて、強引に友達に劇場に連れて行かれる人の方が案外、幸せなのかもしれません、少なくとも、当人よりは、まっさらな状態で楽しめる。 それがなにより羨ましい、、、)

でも、まっさらな状態で観る、ということにトライしようとすると、冒頭の問題にぶち当たります。

「もし、つまんなかったら、どうするんだ!?」あるいは、「そんなバクチできるか! こっちは忙しいんだから」という問題。

確かに、その通りです。 だからこそ、本当の自分の好きな1本に出合えるまで無駄な作品をいっぱい観なきゃいけない、ということだと思うんです。

(いや、オレ、特別映画好きじゃないし、そんな時間ないし、、、と言われたら?、、、、、、、、もう何も言い返せない・笑 確かに!と言うしかない・笑)

でも、そうやって出会った作品は忘れられないよ。 その感動は無駄な99本を忘れさせます。

例えば、名作、といわれる作品。「ローマの休日」しかり、「風と共に去りぬ」しかり、「七人の侍」しかり。もう誰もがいい作品と認める、名作中の名作

でも、これを未見の人が今から観るということは、前述の理屈だと「絶対いい作品」「間違いないクオリティーの作品」だということを知った上で観る、ということになります。

それって、つまりは、お見合い結婚だよね?(いえ、決してお見合い結婚が悪いってわけではなく、、)

相手の顔写真も、年齢も、家柄も、職業も、なんなら年収までわかった上で、会う。(いや、それが悪いってわけではなくて、、、)

ローマの休日も、不朽の名作とわかった上で、オードリー・ヘプバーンが妖精のごとくキレイで可愛いと知った上で、観る。

恋愛結婚ではない。(いや、決して、それがいいってことではなくて、、)

出会い頭に出会って、事故的に衝突するかのごとく出会って、ではない。

今、例えば、僕と同世代、もしくは下の世代の人で、好きな映画は「ローマの休日」です、とか「タイタニック」です、と言う人に、「本当なの?」とちょっと言いたくなったりもします(ただの「好きな映画」、余計なお世話だと重々承知の上で)。

すでに名作中の名作とわかって観て感動した感動は本物の感動か、と聞きたくなる。

当時の、公開当時に劇場で観た人たちの感動には勝てないんじゃないかなと思ってしまう自分もいます。

「ローマの休日」以降、ストーリーが「ローマの休日」にインスパイアされた作品は数多くあります。

意識的でも無意識でも、制作者も、観ているコチラ側もそんな作品を数えきれないほど観てきました。 ほんの数%くらいの影響を受けている映画、ドラマ、漫画は、ゴマンとあるはずです。 ストーリーそのものが違っても、例えば、身分差がある恋愛とか、例えば、身元を隠したままの出会いであるとか。例えば、異国の地での同胞との出会いとか。

そのバイアスがかかった上で、今、そんな元祖である「ローマの休日」を観たところで、当時の映画館で事故的にこの作品に出会った人たちに、その感動を超えることは出来るのか。

「ローマの休日」以前に「ローマの休日」はなかった。 あったかもしれないけど、かなり希少で、いまほどメディアが発達してなかったことを考えると、丸々、コンテンツが初見な人がほとんどだったと思います。 そんな当時の人たちからすると、やっぱり類を見ない、とびっきりのストーリーだったはず。 衝撃はスゴかったと思います。

ビジュアル面でもそうです。 「ローマの休日」本編を観たことがない人でも、あの有名なヘプバーンの正面から撮った笑顔の写真は見たことがない人はいないのではないでしょうか。 ポストカードなり、ポスターなり、あのモノクロの写真は世界中に浸透しています。 当時、映画館で初めて、スクリーン上で、その笑顔を見た人は、その透明感や、妖精のような美しさに衝撃を受けたに違いありません。 すでに数えきれないほど、あの写真を見てきた僕たちと比べ物にならないほど。

やっぱり、オンタイムで見た人たちの感動には適わない。

映画という芸術に時代性は切っても切り離せないという側面があるのなら、当然です。

悲観することは全然ないんだけれど。 僕たちには僕たちの世代の代表作があって、僕たちには僕たちの感動があるわけだから。

なので、なおさら、予告編で見せすぎちゃうことに疑問を持ってしまうわけです。

特に、いま、普通に「カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作品!」とか、「アカデミー賞何部門ノミネート!」とかまでご丁寧に教えてくれる予告編が主流です。 (観客動員を考えると、僕も配給会社の人間なら絶対、そうしちゃうけどw)

中には、劇場帰りの観客を捕まえてカメラに向かって「感動して泣いちゃいました~」だの「今年のナンバー1です!」だの言わせる予告編も普通にあります(人に感動決められちゃうのか?)。

とりあえず、どう感じるかを期待する前に観てみろよ。 そう思ってしまいます。

なので、冒頭のTSUTAYAの新サービス、「NOTジャケ借」は大賛成です。

ただ、、、、

実際は、NOTジャケ借したところで、レジで「ピっ」って、バーコードを通すと、伝票に、映画名、シッカリ出ちゃうんだってさ。なんだ、それ。

image by: TSUTAYAニュースリリース

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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