先日、シルクロード経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で行われました。習近平主席は、「貿易は成長の重要なエンジン。一緒に利益を得られる経済のグローバル化に力を入れる必要がある」との意思を表明しましたが、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄さんは、「中国で政経分離はあり得ない」と、冷ややかな見方を示しています。
【中国】融資トラップで各国支配を狙うも人気ガタ落ちの「一帯一路」
5月14日から2日間、北京でシルクロード経済圏構想「一帯一路」の国際会議が初めて開催されました。会議には、29カ国の首脳が参加し、130カ国以上の代表が参加しました。
構想の提唱者で会議を主導する習近平主席は「幅広い合意と成果が得られた」などと自画自賛しましたが、主要国で出席したのはプーチン大統領くらいで、盛り上がりとしてはいまひとつというところでした。
言うまでもなく、「一帯一路」は2013年に習近平がぶち上げた経済圏構想で、海路と陸路によって中国からヨーロッパまでの交易網をつくり、その沿線国の道路や港湾などのインフラ整備を進め、一大経済圏を構築するというものです。
そのインフラ投資の資金調達のために中国主導でつくられた機関が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金などです。2016年に開業したAIIBについては、日本のメディアも「バスに乗り遅れるな」といった論調で、さかんに日本の参加を煽っていましたが、結局、本部は北京で、中国だけが拒否権を持つという、きわめて中国に都合のいい組織で、その不透明さが問題になっています。
一帯一路国際会議では、習近平が演説し、シルクロード基金に1000億元(約1兆6000億円)を追加融資し、今後3年間にわたり発展途上国に600億元規模の資金援助をすることを表明しました。
注目されたのは、途上国支援について「他国の内政に干渉せず、社会制度や発展モデルを輸出したり、押し付けない」と述べたことです。しかし、これが口だけのことであるのは言うまでもありません。中国にとって、政治や外交問題と経済は一体だからです。政経分離はありえません。
すでによく知られているように、韓国が在韓米軍へのTHAAD配備を決定したことで、中国は韓国に対して露骨な嫌がらせを続けています。2016年7月に配備決定直後、AIIBの副総裁だった韓国の洪起沢が突然、事実上の更迭となりました。
●韓国、AIIB副総裁ポスト失う ミサイル配備決定で中国の報復との臆測も
しかも、韓国はAIIBの出資比率で5位であるにもかかわらず、一帯一路国際会議に招待されていませんでした。ようやく招待状が届いたのは、開催のわずか2、3日前で、親北派で反米派の文在寅氏が大統領に就任してからでした。
中国の融資ほど危険なものはありません。たとえばスリランカのハンバントタ港は、中国の融資によって整備されましたが、融資条件が甘いかわりに6.3%と金利が高く、しかも完成後も需要が少ないため、スリランカ政府は中国からの融資返済が困難に陥りました。そこで中国はスリランカに対して、港の株式の80%を中国国営企業に長期貸与するよう要求し、結果、中国はハンバントタ港を99年にわたり管理運営できることになりました。
このような中国のやり方は、「融資トラップ」とも言われています。金利が7~8%以上になることもあり、中国側は融資を受ける国が100年かかっても返済できないことを承知で金を貸し、後に接収して軍事利用することを目論んでいるわけです。もちろん中国にとっては、自国の過剰生産を処理するために一帯一路を利用するということも、目的のひとつです。
ハンバントタ港周辺に住む数千人の住民が強制退去を求められており、今年の1月には抗議デモで警察と衝突、多数の負傷者と逮捕者が出る事態になっています。抗議者らは「この地域が中国の植民地になろうとしている」と訴えていました。
●スリランカ、中国企業の港湾管理に市民ら抗議、警察と衝突―英メディア
スリランカの港湾を99年間にわたり中国が支配する狙いは、インド洋に中国資本の港湾を次々と整備し中国の軍港化することで、宿敵インドを封じ込めるという、いわゆる「真珠の首飾り」作戦の一環とされています。
スリランカは、マヒンダ・ラージャパクサ前政権の時代に中国に傾斜し、関係を深めてきました。ハンバントタ港もその時代に決定したものです。加えて、ハンバントタ港のすぐ近くにも、中国の融資でマッタラ・ラージャパクサ国際空港が建設されましたが、1日に1、2便程度しかなく、ほとんど廃棄同然になっていることが報じられています。
いずれこの空港も中国のものになってしまうのでしょうか。
●スリランカ、中国支援で開港の「第2の国際空港」が廃棄同然―米メディア
スリランカでは最大の都市コロンボの海沿いを埋め立て、国際金融センターをつくるという「コロンボ・ポート・シティー(CPC)」プロジェクトも、中国の国有企業主導で行われており、こちらも埋立地を99年間、中国国営企業に貸与することが決められています。しかも、治外法権を要求する動きも出ています。
スリランカだけではありません。
2015年10月には、オーストラリア北部準州が中国企業の嵐橋集団と、ダーウィン港を約5億豪ドル(約430億円)で99年間貸与する契約を結びました。ダーウィン港の近くには南シナ海情勢に備えるアメリカ海兵隊の駐留基地があり、しかも嵐橋集団は中国軍との関係も噂されているため、この決定に米豪関係は冷え込みました。
●豪、中国企業に北部ダーウィンの港湾を99年間貸与 海兵隊駐留の米国は反発
このように、中国は融資を餌や罠にして、他国に拠点を次々と作ろうとしています。
かつてアヘン戦争によって香港が99年間イギリスの租借地になり、あるいは上海に租界が次々と作られたことを、今度は中国がやっていると見る向きもあります。かつての列強時代における租借地や租界は、清との不平等条約をもとに設立された、行政権や警察権を各国が持つ特別地区のことです。
中国にとっては、融資という武器によって、かつて自らが味合わされたように、他国に不平等条約を飲ませているつもりなのでしょう。習近平主席のいう「中華民族の偉大なる復活」には、復仇も含まれていると考えるべきです。
しかも、99年という租借期間ですが、中国人にとって99という数字は「久久」と発音が似ており、ほとんど「永遠」という意味になります。99年間の租借ということは、永遠に中国が支配するということを暗に宣言しているところもあるのです。
しかし中国のインフラ投資は、世界各国で評判がよくありません。ミャンマーのミッソンダムは自然破壊を懸念する地元住民の反対でストップしています。また、ニカラグアの運河建設も同様に地元住民の大規模反対デモが繰り返されています。
アフリカの鉱山開発では、中国から刑務所に入りきれない死刑囚を作業員として連れてきて、さらにそれに帯同して料理人やホテルなどもやってくるため、現地に雇用を生まないどころか逆に奪い、さらに金も落とさないため、現地人からの恨みを買っています。アフリカで中国人を狙った襲撃事件が増えていることは、以前のメルマガで報じたとおりです。
また、一帯一路向けの投資にしても、リスクが高い割に収益率が高いため、民間企業は慎重で、その主役はほとんどが中国の国営企業となっています。2016年では、中国の直接対外投資に占める一帯一路沿線国向けの融資は、わずか8%程度しかありません。
国際金融については、香港は知識を持っていても、中国の北京政府はまったくの素人です。そのため、AIIBにしても、信用力が低いため無格付けでの起債をせざるをえず、単独融資はバングラディシュだけ、その他はアジア開発銀行や世界銀行などとの協調融資しかできていません。
しかも、中国の融資は、口で言っていたことが、いざ実行となると、かなり異なることも多いのです。兆円単位の経済協力を打ち出しても、それをいつ、どのように実現するかは明言せず、あくまで中国の都合次第となり、結局ご破算になることもよくあります。フィリピンやベネズエラの高速鉄道建設などは、結局、中国が途中で放棄してしまいました。
●ほぼ放棄!中国受注のベネズエラ高速鉄道計画、インドネシア「日本に任せれば良かった?」
また、いくら条約を明文化しても、「革命外交」によって反故にするということも、歴史的に何度も行ってきました。一帯一路に対して、世界的な疑心暗鬼が高まっているのは当然のことなのです。
なお、一帯一路国際会議の開催さなか、北朝鮮がミサイル発射を行い、習近平の顔に泥を塗りました。その北朝鮮の代表団も、一応、中国から招待され、参加していただけに、北朝鮮の行動に習近平も怒り心頭でしょう。
●北朝鮮代表団、「一帯一路」サミットにひっそりと参加―米メディア
北朝鮮はこのミサイルを「主体弾」と呼んで、自主開発を強調していますが、この「主体」という言葉は、もちろん「主体思想」同様、自立精神という意味も含んでいます。朝鮮半島は1000年以上にわたって中華の属国として、事大主義を貫いてきました。
北朝鮮が今回のミサイルを「主体弾」と呼ぶ背景には、中国には従わないという意味が込められているのだと思います。
北朝鮮も中国からの経済支援によって生き延びているようなものですが、スリランカなどが融資トラップで中国の「植民地化」が進んでいる一方で、宗属関係が長かった北朝鮮が瀬戸際外交で中国の圧力をはねのけているという、きわめて対照的な世界の構図が見えてくるのです。
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