トランプ大統領が絶体絶命の窮地に立たされています。発端は、トランプ氏によるFBI長官の電撃解任。これを野党民主党が「大統領のロシア疑惑捜査の妨害」として、弾劾を要求したのです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者の北野幸伯さんが、これからトランプ政権がどのような道筋をたどるのかを占っています。
トランプ弾劾に向かうアメリカ
アメリカが、大変なことになっています。
トランプさんは5月9日、コミーFBI長官を解任しました。コミーさんは、「トランプ陣営とロシアが、選挙戦中結託していた」疑惑を捜査していた。それで、トランプが彼を解任したのは、「捜査妨害に違いない!」と誰もが思った。
「フリンを自由にしてくれ!」
トランプさんは、「ロシアと和解して、中国に勝つ」という大戦略をもっています。これは、世界一の戦略家ルトワックさんも勧めている「常識的」戦略。そして、政権内には、「親ロシアの大物」が2人いました。1人は、エクソン・モービル元CEOで、「プーチンの親友」といわれるティラーソン国務長官。もう1人は、フリン大統領補佐官です。
ティラーソンさんはいまもがんばっていますが、フリンさんは、辞任に追いこまれました。理由は、フリンさんが大統領補佐官に任命される前、在米ロシア大使と「対ロシア制裁解除」について協議し、その事実を隠していたからとされています。
フリンさんは2月に辞任しました。彼がらみで、トランプが攻撃されています。「捜査妨害をした」というのです。
捜査妨害? FBIに「ロシア疑惑」の捜査中止を要請か
ホウドウキョク 5/17(水)16:15配信
フリン氏への捜査をやめるよう要請
ニューヨークタイムズ紙などによると、トランプ大統領は、ロシアとの不透明な関係にからんで辞任したフリン前大統領補佐官に対する捜査について、2017年2月、FBIのコミー前長官に、「フリン氏はいい人物だ。彼を自由にしてくれることを望む」と述べ、捜査をやめるように要請したという。捜査妨害の懸念から、会話をメモし、FBI幹部に伝える
トランプ大統領からの要請は、フリン氏の辞任翌日の出来事で、コミー氏は、捜査妨害の懸念から、会話をメモに残し、FBI幹部にも内容を伝えていたという。
この会話、どんな状況であったのかわかりませんが。いずれにしてもトランプさんとコミーさんの関係が良好であれば、問題視されず、そのまま消えていく話だったでしょう。しかし、トランプさんは、コミーさんを「電撃解任」し、コミーさんは「逆襲」を誓っているに違いない。だから、こういう話が表に出てきたのですね。
民主党議員は、すでにトランプ弾劾を要求
事態は急速に動いています。民主党議員は、「大統領弾劾」を要求しはじめ、それに同調する共和党議員も出てきました。
民主議員が大統領弾劾要求=共和にも理解示す声─米
時事通信 5/18(木)6:10配信
【ワシントン時事】トランプ米大統領がロシア疑惑に絡んだ一部捜査の終結をコミー前連邦捜査局(FBI)長官に求めたという報道を受け、共和党執行部はまずは事実関係の解明を優先させる方針だ。ただ、民主党議員の1人は17日、大統領の弾劾を公然と要求。共和党の一部からも民主党内のこうした声に理解を示す声が出始めている。
誰が、弾劾を要求しているのでしょうか?
弾劾を求める動きは広がりを見せつつある。民主党執行部は沈黙を守っているものの、グリーン下院議員は17日の下院本会議で「司法妨害に伴う大統領の弾劾を要求する」と表明。米メディアによると、共和党内からも「ニクソン、クリントン両元大統領のケースでは、司法妨害は弾劾に値すると考えられた」(カーベロ下院議員)と指摘する声が漏れ始めた。
特別検察官に選ばれた「超大物」
さて、トランプさんがコミーFBI長官を解任したのは、「捜査妨害だ!」と思われている。既述のように、コミーさんは、「トランプ陣営とロシアが結託していた疑惑」を捜査していた。「捜査妨害だ!」という批判が高まり、トランプ政権は、この問題を捜査する「特別検察官」を任命せざるを得なくなりました。
ムラー元FBI長官、米大統領選ロシア介入疑惑の捜査指揮へ
BBC News 5/18(木)10:58配信
2016年米大統領選にロシア政府が介入した疑惑の捜査を指揮するため、ロバート・ムラー元米連邦捜査局(FBI)長官が特別検察官に任命された。ロッド・ローゼンスタイン副司法長官が17日、明らかにした。
FBI長官として捜査を指揮していたジェイムズ・コーミー氏を、ドナルド・トランプ大統領が解任して以来、特別検察官の任命を求める声が高まっていた。
このムラーさん(ミュラー、あるいはモラーと表記するメディアもあり)は、コミーさんの前任。2001年~13年、FBI長官を務めた超大物。きっと、客観的捜査をして結論を出すことでしょう。
孤立しているトランプ
トランプは、なぜここまで追いつめられているのでしょうか? 表向きの理由は、「ロシアとつるんでいるから」なのですが。
実をいうと、「事実」の前に「意図」がある。RPEではこれまで、「トランプには敵が多すぎて、国内の実権を掌握できていない」と、繰り返し繰り返し書いてきました。敵とは?
- 野党民主党(オバマもヒラリーも健在で、反トランプ運動を指揮)
- 共和党反ロシア派(マケインさんなど。数が多い)
- マスコミ(特にトランプから「フェイクニュースと批判されるCNN、ABC、ニューヨーク・タイムズなど)
- CIAなど諜報機関
- 国際金融資本(グローバリストの彼らは、ナショナリストのトランプが大嫌い。ソロスは今年1月、ダボスで、「トランプは失敗する!」と断言していた)
いくら世界最強国家の大統領とはいえ、こんなにたくさんの敵と同時に戦うことができるでしょうか?
トランプには、2つの道があります。1つは、アメリカのエスタブリッシュメントと戦いつづけ、おそらく負ける。つまり、弾劾される。
もう1つは、アメリカのエスタブリッシュメントに屈服する。この場合、弾劾は免れても、彼は「普通の大統領」になるでしょう。
どっちにしても、彼を選んだアメリカ国民は、裏切られることになりそうです。
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