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試用期間中に「能力不足」と解雇された中途社員は裁判で勝てるか

主として即戦力となる人材を求めて行われる中途採用。しかし、そこで採った社員がまったくの「期待はずれ」だったとしたら…。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』で紹介されているのは、そんな社員を解雇した会社が訴えられた裁判。果たして裁判所はどのような判決を下したのでしょうか。

期待していた中途社員が、期待未満だったら解雇できるのか

「アカデミー賞7部門受賞」
「まわりの友達はみんな『いいよ!』と大絶賛」
「大好きな俳優の〇〇が主演」

もしみなさんが、このような映画を観に行くとしたらどのような気持ちになりますか? おそらく期待度は「相当上がるのではないでしょうか。または「食べログ評価4.7」のイタリアン、「アマゾンレビュー200件以上」のオシャレ家電、なども同様でしょう。

ただ、残念ながら実際が期待度通りとは限りません。「期待していたのにガッカリ。。」という経験をされた人も多いのではないでしょうか(私も経験あります)。

これは中途採用にも同じことが言えます。中途採用であれば、会社は当然に「即戦力」を期待します。それが部長や役員クラスであればなおさらです。

では、実際に働いてもらったらその「期待未満」の仕事しか出来なかったら、解雇できるのでしょうか。

一般論として能力不足による解雇は新卒よりも中途のほうが認められやすい傾向があります(あくまで一般論です)。なぜなら、新卒の場合は「会社にも育てる義務がある」(つまり、能力不足は会社にも責任がある)と考えられているのに対し、中途の場合は「会社は即戦力として採用している」(つまり、能力不足は本人の責任)と考えられているからです。

そして、これは役職が高くなるほどその傾向は高まります。それは、会社もそれなりの能力を期待をして採用するわけですしそれ相応の給与も支払うことになるからです。

また、これも一般論ですが試用期間中の解雇は本採用後の場合よりも認められやすい傾向にあります(これも本当にあくまで一般論です)。

さて、それでは「役員クラスの待遇で採用した中途社員が期待未満の仕事しかできなかったら、試用期間中であれば解雇できるのか」という問題です。

それについて裁判があります。あるインターネット関連会社で役員候補として入社した社員(給与は年棒1,300万)が「能力不足」として、試用期間中に解雇されました。これに納得できなかったこの社員が会社を訴えたのです。ではこの裁判はどうなったか?

会社が負けました。「この解雇は不当」とされたのです。その理由は次の通りです。

いかがでしょうか? もしかすると「年棒1,300万も払って、期待未満の社員を雇い続けないといけないのか!!」と、憤慨される経営者の人もいるかも知れません。

この場合の実務的な対応としては2つあると考えています。まず1つ目は、「受け入れ態勢の見直し」です。確かに即戦力で採用したつもりの中途社員がなかなか実績をあげられないと「こんなはずじゃなかった=能力不足」と、考える人は多いかもしれません。ただ、それは果たして本人だけのせいでしょうか。もしかしたら、会社の受け入れ態勢に改善できるところがあるかも知れません。

最終目的である「業績を上げる」のはお互い共通であるはずです。ちょっとした歩み寄りで大きく業績が上がる可能性があるのであれば単に本人のせいだけにして終わらせてしまうのはあまりにも、もったいない気がします。

もう1つ目は「評価制度をしっかり整える」です。正直、業績が上がらないのは本人のせいかも知れません。ただ、それは本人の「能力不足」というよりも「相性の問題が大きいでしょう。特に前職で実績を上げていた人であれば、能力はすでに充分にもっているはずです。

ただ、野球選手で大成した人がサッカー選手でもできるかというと必ずしもそうとは言い切れないのと一緒でどの会社でも必ず実績を上げられるとは限りません。そこで評価制度をしっかり整え、適切に評価することで本人に気づきをあたえ方向転換(場合によっては退職)をしてもらうのです。

また、評価制度を整えることは万が一の際に社員の実績を評価する客観的なデータにもなります(実際にその評価制度の客観性が認められて解雇が有効とされた裁判例や、降格が有効とされた裁判例もあります。ただし、くれぐれもそのデータを使っての解雇をおすすめしているわけでは決してありません。念の為)。

「(なんとなく)能力不足」では、お互いが不幸です。適正な対応が求められるところですね。

image by: Shutterstock.com

特定社会保険労務士 小林一石この著者の記事一覧

【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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