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疑惑の新文書がまたも…加計問題「萩生田メモ」を各紙はどう報じたか

NHK「クローズアップ現代+」が報じたスクープをきっかけに、20日、文科省が公表した加計学園を巡る新文書。安倍首相の側近中の側近と言われる萩生田光一官房副長官の発言を記録したものとされますが、当の萩生田氏はこの内容を全否定しています。ジャーナリストの内田誠さんは自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、この文書を新聞各紙がどのようなスタンスで伝えているのかを詳細に分析するとともに、安倍首相の「説明責任」の履行を強く求めています。

ついに総理最側近、萩生田官房副長官の具体的な関与が明らかに? 加計学園問題で新たに浮上した文書について、各紙はどう報じたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「『総理は18年開学』と期限」
《読売》…「豊洲移転 築地は再整備」
《毎日》…「加計ありき鮮明」
《東京》…「首相最側近 関与は?」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「また文書 政権防戦」
《読売》…「都議選にらみ 折衷案」
《毎日》…「『加計』苦しさ増す政権」
《東京》…「市場『併存』 懸念先送り」

ハドル

小池知事による「豊洲移転」「築地再整備」も大きいですが、文科省から新たに出てきた加計学園関係の文書かなりインパクトが大きいようです。安倍政権がはたしてこれで「投了」となるのか。都議選の告示まであと2日。話はかなり煮詰まってきたようです。《朝日》《毎日》《東京》は1面トップ他、《読売》も2面で大きく扱っていますので、こちらを取り上げます。今日のテーマは…ついに総理最側近、萩生田官房副長官の具体的な関与が明らかに!? 加計学園問題で新たに浮上した文書について、各紙はどう報じたか、です。

基本的な報道内容

学校法人加計学園の獣医学部新設を巡り、文科省は、萩生田光一官房副長官が昨年10月に文科省幹部と会い、加計学園の名前も出したうえで、「首相の意向」として2018年4月の開学を求めていたことを記した文書を公開した。

萩生田氏は同省幹部との面会の事実は認めたが内容は否定した。

逃げ惑う安倍政権

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、4面に萩生田氏コメント要旨、12面社説、30面社会面にも。かなり大きな扱い。まずは見出しから。

1面

2面

12面

30面

uttiiの眼

1面記事には、いわば「資料批判」(史料批判?に通ずる詳細が書き込まれている。文書の標題は「10/21萩生田副長官御発言概要」。昨年10月21日に文科省の高等教育局長が萩生田氏に獣医学部新設について説明した際に出た萩生田氏の発言を、担当の専門教育課課長補佐が局長から聞き取り、自身の知る情報を加えて作成したメモ。そうすると、萩生田氏の生のコメントという線からはちょっと距離があり、文書作成の経緯という点からはやや追及材料として「力不足の感。萩生田氏は抽象的な言い方ながら、完全否定(文書コメント)しているので、形式的には、それを覆すインパクトがあるかどうか、微妙なところ。

しかし、問題は内容。中身が非常に生々しい。《朝日》は他の文書類の記載内容とシンクロするところが多い点を重要視しているが、それだけではない。

ポイントは4つほどあり、和泉補佐官が「農水省は了解しているのに、文科省だけが怖じ気づいている」と言っていること。「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」と書かれていること。手続きの遅れは何が問題なのか書き出して欲しいとして、その後に「渡邉加計学園事務局長を浅野課長のところにいかせる」と書いていることなど。この具体性は、細部で萩生田氏が言ったことと齟齬があるかも知れないが、事柄の方向性、ニュアンスは間違えていないだろう。中央省庁の官僚が政治家の発言のニュアンスを誤読するなどほとんど考えられない。しかも、この時点ならば、こうした文書を、例えば萩生田氏を陥れるために作る、つまりでっち上げる必要はなかったはず。萩生田氏は完全否定だが、ではどんなニュアンスで、どんな話をしたのか、どこが正確でどこが不正確なのか、具体的な反論を全くしていない。内容の生々しさを勘案すれば、萩生田氏に説明責任が生じていると考えるべきだ。

《朝日》は1面記事最後のブロックで、野党4党が要求する予算委員会の閉会中審査や前川前文科次官証人喚問を自民党は拒否し、政権も「指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく」(安倍氏)という言葉とは裏腹に、官邸が主導して疑念に答える様子は窺えないと批判している。

2面記事は新文書の明らかになった経緯をさらに詳しく説明していて、発端は19日のNHK「クローズアップ現代+」。官邸幹部はまたしても「怪文書に近い類いのもの」と難癖を付けたが、文科相は公表に追い込まれ、存在を認めることに。安倍政権は前川前文科次官が明らかにした一連の資料の時と同様、またしても、実在するホンモノの書類を調べもせずに怪文書扱いするという、許されざる不誠実を犯したことになる。

悪戦苦闘する《読売》

【読売】は1面を外し、2面からのスタート。 関連で4面に安倍氏に関わるミニ記事、33面社会面にも関連記事。 まずは見出しから。

2面

4面

33面

uttiiの眼

さすがは《読売》。1面には関連情報も一切載せず、2面や33面の記事の見出しには、この文書によって安倍政権が追い詰められることを恐れ抵抗しようとする心理が滲んでいる。新文書の発見は政権の命運に関わる重大な疑惑の発生としてではなく、「野党が攻勢」という、政局的な出来事に矮小化され、資料の中身の深刻さよりも萩生田氏が内容を否定したことの方が重要であるかのような書きぶり、文科省が公表しながら「内容不正確」と言ったとして、まるで鬼の首でも取ったような勢いで見出しに反映させるやり口、文書は「個人メモ」であると強調することによって内容にケチを付けようという魂胆など、実に徹底している。次から次へと明らかになる事実に対して、《読売》の「悪戦苦闘が続いている

きょうの《読売》から拾い上げておくべき事はあまり多くないが、《読売》の特徴が如実に表れている表現が2カ所あったので、それを紹介しておくことにしよう。

1つ目。2面記事の後段。新文書の確認で野党が勢いづいているとした後で、今後の野党の動きについて、こんなふうに書いている。

首相が19日の記者会見で「指摘があればその都度、国会の開会、閉会にかかわらず分かりやすく説明していく」と発言したことを踏まえ、首相や萩生田氏を追及し、説明を求める考えだ。

なにも問題はないように感じられるかも知れないが、この文章は、新文書が明らかになった現在の状況下で、19日の首相発言がどんな意味を持つかについて、「判断停止でもしなければ書くことができない代物。首相があんなふうに言った以上、まあ、野党ならそれを利用して追及しようとするんじゃないですか…というくらいの気分で書いている。「踏まえ…」とは随分軽い言い様だが、《読売》自身は「踏まえ」てもいない。まるで外国の出来事のようだ。

もう1つ。そのすぐ後に、野党4党が閉会中審査などで合意したことに触れた後、次のような記述がある。

会談後、民進党の山井和則国対委員長は自民党の竹下亘国対委員長に電話で要望を伝えた。与党側は、告示が23日に迫った東京都議選への影響を最小限に抑えたい考えで、竹下氏は野党側の申し入れを拒否した。

東京都議選への影響を最小限に抑えたい考え」なるものが、真相解明を求める有権者・国民にとっても顧慮すべき「考え」であるとは到底思えない。山井氏に対して竹下氏がこのようなことを閉会中審査開催拒否の“理由”として述べたわけでもなかろう。勝手な推測で、党利党略を正当な理由のように見せかける詐術的な文章と言わなければならない。

やはり加計ありきだった…

【毎日】は1面トップに3面の解説記事「クローズアップ」、5面に関連記事と公開された文書の全文に社説一本、27面社会面にも記事。見出しから。

1面

3面

5面

uttiiの眼

1面記事。見つかった新文書の意義付けについて、重要なポイントが示されている。 昨年の10月21日というタイミングについてこんなふうに書いている。

昨年11月に獣医学部新設を認める国家戦略特区での規制緩和策が決定する以前から、政府内で首相の友人が理事長を務める学校法人を学部開設の事業者とする前提で調整が進められていた疑いが強まった。

《朝日》にはこの点の強調があまり観られないが、そのような事実が推測できるケースでは繰り返し指摘しておくべき事柄だろう。《毎日》の記者は問題の構造がよく分かっているものと見える。《毎日》の見出しにある通り、「加計ありきだったかどうかが最重要のポイント

3面記事は、独自の切り口で問題を抉ろうと試みている。

まず、リードは、今回の文書発見が「首相側近の萩生田氏が首相の意向を伝えたと記され、これまでの文書と次元の異なる衝撃的な内容」だとしている。

また、記事では、萩生田氏に面会して詫びたという義家副大臣の言葉を採録していて、「(文科官僚が)一部で萩生田氏の名前を出して事に当たる傾向があったのではないかと肌で感じ、『ご迷惑をおかけした』と申し上げた」と言ったのだという。萩生田氏は萩生田氏で、義家副大臣のコメントにシンクロするように、「私の名前が(文科)省内の調整のために使われているとすれば、極めて遺憾だ」と「潔白をアピールしたという。義家会見と萩生田コメントによって、文科官僚の「悪意」の存在を浮き上がらせようという「印象操作」。これに対して、《毎日》は「教育行政に影響力のある萩生田氏の名を官僚が勝手に持ちだしたという見方をちらつかせたもの」と批判的に評している。

義家副大臣と萩生田副長官のこのやりとり、実に“茶番の臭いがする。萩生田氏は形式的、抽象的に文書の内容を否定しただけで、具体的なことは何も言っていないに等しい。どこが自分の言った部分であり、どこが言っていないことなのか。萩生田氏と高等教育局長とはそもそも何のために会ったのか。何が話されたのか。こうしたことを闡明(せんめい)しなければ、反論に値しない。端的に言えば、話の中に「加計学園」を表す言葉は1つも出なかったなどと言えるのだろうか。その1点を突き詰めるだけで、萩生田氏の否定コメントは瓦解してしまう可能性がある。

この政権が説明責任を果たしたことはない

【東京】は1面トップと3面の「文書の全文」、22面23面の「こちら特報部」、25面社会面にも記事。見出しから。

1面

3面

22面・23面

25面

uttiiの眼

定番の解説記事「核心」だけは築地市場問題に譲ったが、フルスペックに近い対応。強調されているのは、安倍氏の空言・虚言についての批判

1面記事は新文書について、「内容が事実なら、首相側近が首相の意向として『加計ありきで獣医学部新設を求めたことになる」と、批判をにじませつつ、率直で穏当な書き方をしている。

また、「丁寧に説明する努力を積み重ねたい」としているにも関わらず、今回の新文書発見を受けて野党が閉会中審査を要求しても拒否。それを《東京》は首相の言行不一致」という言葉で責めている。

22面と23面、見開きの「こちら特報部」は、まさしく、その「言行不一致」についての特集になっていて、加計・森友・「共謀罪」を通して、口では「真摯に説明責任を果たしていく」と言いながら、真相究明に努力してこなかった安倍氏。思えば、秘密保護法でも安保法制でも事情は変わらなかった。

最後に紹介されているのは、首都大学東京の堀江孝司教授の言葉。「安倍政権は、個々の政策の支持率は決して高くない。何度も説明責任を約束しながら、果たしたことがない政権に対して、有権者はこれまで以上に厳しい目を注ぐべきではないか」と。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

いよいよ致命的な資料が出てきたという感じがします。萩生田氏は形の上では否定しましたが、面会そのものは認めているので、いくつか質問を畳みかければ白状せざるを得なくなるでしょう。白状しないのであれば、ただ「隠しているという印象が広がるだけのことです。松野文科相は「萩生田氏の発言でない内容も含まれている」と言いましたから、同時に「萩生田氏の発言が含まれていることを確言してしまったことになります。少なくとも、一から十まででっち上げ、ということではないのです。

問題は追及の場がどこになるのかということです。自民党も、一度は、閉会中審査をすると言ったのですから、そうさせるために色々なところから声を上げていかなければならないかも知れませんね。政権が腐敗していたかどうかの重大問題ですから、政治的な主張如何を問わず、誰もがみな望んでしかるべきことがらだと思います。

image by: はぎうだ光一の永田町見聞録

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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