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兄の失敗で危機。はちみつ黒酢の企業はどうやって立ち直ったのか

優れた経営者の条件として、「知恵と活力」が自働運動する組織体を作り上げることができる人だとするのは、無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者・浅井良一さん。そのためには大胆な「改革」が欠かせないとも断言します。カルロス・ゴーンやジャック・ウェルチも重要視した組織の「知恵と活力」、そして、それを引き出すために必要不可欠な「革新」について、浅井さんがわかりやすく解説してくださいました。

仕事の「自働化」

先日見た番組カンブリア宮殿の「タマノイ酢」の話には、優良企業に変身するためのマネジメントの「考え方」と「方策」が多く語られていました。いつも企業が「V字回復」をはたすときには同様な軌跡を描きますが、「タマノイ酢」もそんな一つの「知恵勇気経営のモデルケースです。

業績が下降し倒産に至る企業は、いつも同じような弱点を持っています。どんな企業でも、思わぬ外的要因で窮地に落ち込むことはありますが、基本の「知恵と活力を持った企業は復元力があり試練を糧として成長します。そうでない企業は、一時の「アイディア」と「幸運」により繁栄を謳歌してもやがて必ず崩壊する「定め」を迎えます。また平安に安住してしまい「知恵と活力」を失う時も同様に崩壊を迎えます。

経営者の仕事とは「価値観を核力しながら知恵(知識)と活力が自働運動する組織体を創り上げることにあります。経営者がそれをしなければ、またできなければそれまでで、外部・内部を問わず活力なく歪み組織は沈滞して末期へと向かいます。そうなってしまうと、企業のミッションである「顧客によろこんでもらえる『効用』」は創れず、また「従業員を幸せ(生活の糧、生きがい)にする」という内部ミッションの「効用」も果たすことができません。

基本の「知恵と活力を総動員するにはどうしたらよいのか。それは、経営者が顧客・従業員を含めの欲求・現実・価値感を知ることから始めなければなりません。

「タマノイ酢」の話に戻りますが、同社が窮地に陥ったのは現経営者播野勤氏の実兄が投機に失敗したことが大きな原因でした。播野勤氏は思わぬ経緯で社長になったのですが、ある時、役員会で部下でとある営業部長に「営業の状況はどうですか」と尋ねたところ、そこで返ってきたのは組織の硬直化と人材配置の錯誤を象徴する「社長は営業のことには、口を出さないでいただきたい」というものでした。この時点でいかに組織が歪んだ状況にあったのかが分かります。組織が機能不全を起こすと官僚制的発想とセクショナリズムが頭をもたげてくるのです。

これは組織自体の問題であり、一部長の品格の問題ではありません。そうなったのは、経営者の経営(マネジメント)が失敗したからです。ここに至れば、行わなければならないのは「大ナタ」をふるう「破壊的創造活動」で、そのことなくして解決の法はなく、またそれを行う絶好の機会です。

破壊的創造革新に必要なのは勇気誠実さ真摯さ)」です。まず播野さんは、「人(顧客・従業員を含め)の欲求・現実・価値感」を知るために「百聞は一見にしかず」で、1年間をかけて全国の得意先、自社の営業所、工場を訪問して巡り数千人以上の人に会ったそうです。「素直」に現実を見れば「問題点」「課題」が少しずつ浮き彫りになります。そして「勇気」を持って尋ねれば、そこから「対応策方向性」の糸口も自ずから浮き上がってきます。

日産のカルロス・ゴーンさんも再建を委ねられた時、予断を持たずに「現場を1年間巡って現場と対話して、そこでの観察と情報に基づいて「日産リバイバルプラン」の戦略構想を練りあげたそうです。そのうえで基本構想のもとに、社内の部署の垣根を超えた「クロスファンクショナルチーム」を発足させて再建計画を作成しました。

重視しなければならないのは、松下幸之助さんの言う「血の小便が出るほど、とにかく考えてみることである。工夫してみることである。そして、やってみることである。失敗すればやり直せばいい」という考え方です。「タマノイ酢」の経営者である播野さんも、悩み抜き考え抜いて実際に胃に穴があいたそうです。

GEの元経営者のジャック・ウェルチは改革の成功者ですが、その成功の法則をシンプルにまとめています。

熟考の末に行なわれた改革目的・目標は、大きく二つに集約されます。一つは、硬直化した官僚的なセクショナリズム(縄張り意識を破壊して部門を超えてコミュニケーションし協力し合える文化の構築、もう一つは、年齢、職制にかかわらず自由に「知識(知恵)」が発想され交換でき創造でき実行できる活性化した組織の構築です。

播野さんが決行したのは定期的で頻繁な全部門にまたがる人事異動で、それは営業、製造、管理という専門分野にこだわらない大胆なものでした。特筆すべきものとして、いがみ合っていた大阪・東京間の人事異動で、その成員の半数を一気に移動・交替させます。するとそれまでの敵同士が相手の立場を理解しあえるようになり、そこから同志に変わっていきました。

14年で9回も部署の移動を経験した女性社員は、最初は戸惑ったが最終的には自分たちの仕事の目的を「会社として『目指すもの』『頑張ること』は『共通』のものと考えるようになりました」と述べています。これは、頻繁な異動で混乱するなかお互いが補い合うことから意思疎通が生れ、大切なのは部署ではなく会社であることを知った社員集団が生まれたことにより成し得たものと言えるでしょう。

また「ヒット商品開発業務改革」をしなやかに実現するには、柔軟頭での新たな視点による発想が必要です。タマノイ酢が取ったユニークな施策は、「入社間もない新入社員が経営上の問題点を発表できる報告会を催して、経営者をはじめとする幹部がそれを聞き参考にする」というもので、これを社長は「解決策を求めるものではなく、自由に発言できる環境をつくることだとしています。

同社の「ヒット商品」である「はちみつ黒酢ダイエット」は入社2年目の新入社員の提案から生まれています。また、工場の「勤務体制の改革」は異動で転勤してきた社員の「常識にとらわれない柔軟な発想」から生まれています。

「優秀な人がいない」と嘆く経営者の方が多くおられます。「優秀な人がいない」ではなく、それはマネジメントが正しく行われないがための結果で、「タマノイ酢」のようにシステムや仕組みがかわれば状況は一変し、また「一人としては平凡であっても協同すれば天才に勝ります。「V字回復」企業では、同じことが行われています。大事な核となる要件は「最大の経営資源」である「の処遇にあります。これは、まさの経営者にしか行うことのできない「仕事」だと言えます。

ジャック・ウェルチは経営者の理想を、先に言ったように「優れたリーダーとは、自分が一番バカに見えるような優秀な人たちをチームメンバーとして集める勇気のある人だ」としており、「もしリーダーが一番賢いふりをしたら、最善の決断を下すのに必要な意見や批判などを半分も得られなくなってしまいます」と極言しています。

image by: タマノイ酢株式会社

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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