先日、文科省のいじめ防止対策協議会がいじめ相談にSNSの活用に意欲を示しているとの報道がなされました。多くの中高生がSNSを利用しているという現状を鑑みれば、至極真っ当な動きとも言えそうですが…、無料メルマガ『いじめから子供を守ろう!ネットワーク』では、これまで10年以上に渡りメール等での相談に対応してきたという同ネットワークの経験を踏まえ、協議会の会議で議論されているナンセンスとしかいいようのない「大人の論理」を厳しく批判しています。
国のSNS相談-解決しなければ意味がない
夏休み真っ最中、暑いですね。でも、子供たちは夏を謳歌しているはずです。
さて、大人たちも頑張っています。文科省のいじめ防止対策協議会が、7月31日に、いじめ相談にSNSを活用するための中間報告をまとめたとのことです。確かに子供からの相談は、電話よりSNSが多いのは事実です。
NHKの報道をまとめてみますと、
- SNSの利点として、子供たちが絵文字などで自分の思いを気軽に伝えられる
- 相談者にはSNSを使い慣れた学生や若者のコミュニケーションに精通した人を入れる必要がある
- 自殺をほのめかすなどの緊急の相談の場合は、できるだけ早く音声による相談に切り替える、加えて、子供たちの個人情報の厳格な管理が必要
- そのうえで、来年度、モデル事業として、一部の学校や地域で実施し、その効果を検証し、全国展開を検討する。
報道を見る限りは、真摯に対応しようとしているように見えます。しかし、中間報告案および、前回の委員会を直接傍聴してきた私たちとしては、いくつかの提案をしておきたいと思います。
提案の前に、一言、述べておきたいと思います。ご存じの方も多いことだとは思いますが、私たち「いじめから子供を守ろうネットワーク」は電話相談だけでなく、掲示板での相談、メールでの相談をもう10年以上も受け続けております。この10年、私たちが受けたSNSを介した相談には、自殺予告や、リストカットなど一歩間違えれば大変なことになるという相談もありましたし、お子さんをいじめ自殺でなくされた方との交流もありました。ですから、単なる批判のための批判ではありませんし、机上の空論でもありません。実際に相談を受け続けている人間として、文科省に伝えたいのです。
協議会では、「保護者の相談を受けると何らかの回答をださないといけなくなる。保護者については今後の検討ということにしたい」という趣旨の意見も出ておりました。
「いじめ相談」は解決するために行なわなければなりません。過激に聞こえるかもしれませんが、「解決策を提示できなければ意味がない」のです。保護者だけでなく、子供たちも「いじめ」を相談するのは、「聞いてもらいたい」から相談するわけではありません。「解決してほしい」のです。
「解決してくれない相談機関」は必要ありません。お金の無駄遣いと言っても過言ではないと思います。「解決する」ことを前提に、子供たちをがっかりさせない体制を構築していただきたいものです。
また、議論の1つとして、「子供たちのスマホ、携帯には、相談員がどのように対応したか痕跡を残さないようにしたい」との意見もありました。一方「あとで読み返すためには、やり取りを残してあげるべきだ」という意見も出ていましたが、今回の中間報告を読む限り、「チャットのようにリアルタイムでやり取りをすれば、運営側だけがデータを取れる」という方向で調整が進んでいるように読めます。加えて「制限時間内に応答がなければ打ち切る」とか、「定時になったら強制終了するのはどうか」との意見も採用されてしまいそうです。この意見からは、「その場かぎりの対応しかしないし、できない」という姿勢が見て取れます。これでは、ほとんどのいじめは解決できません。
子供たちからの相談は、「死にたい」、「いじめられている。学校行かなくてもいい?」、「もうやだ」とか、そんな一行だけの言葉から始まります。その子の心を開き、信用してもらうためには、何十回ものやりとりが必要です。何日もかかることもよくあります。しかも、第一声に対しての返信を失敗したら、二度と連絡がとれなくなります。ひとつひとつを丁寧にやり取りして、徐々に実態が分かってくる。そこから解決策を模索してゆくものなのです。また、子供たちだって、ご飯も食べます、お風呂の時間もあります。宿題もあります。チャットしている間だけで相談が終わるわけがありません。
解決するために必要な相談員側の姿勢としては、「解決するまで、その子とやり取りを続ける」という覚悟が必要です。同じ相談員が、繰り返し繰り返しやり取りして、やっと名前が聞ける、学校が分かる、いじめている子がわかる。そんなものなのです。
私自身、1人の子とのやり取りでだけ、1ヶ月に、携帯のメールの上限の1,000件を超えてしまうこともあります。1時間程度のチャットで終わりにしようなどと考えているようでしたら、甘すぎるのです。本気でいじめを減らそうというならば、本気の相談体制を模索しなければなりません。
「繰り返し相談される場合がある」ことを問題点としてあげている意見もありました。繰り返し相談されて困るような相談体制は必要ないとも言えます。解決しなければ、当然、何度も相談してきます。当たり前です。文科省としては、「繰り返し相談させない、リピーターをやめさせる」という議論ではなく、繰り返し相談してくるような事案を「どう解決するか」というところに議論を進めなくてはならないはずです。
いじめの相談は、単なるなやみ相談ではありません。重大事態が目の前に迫っているという認識の下で対応していかなくてはならないのです。文科省をはじめ、委員の皆様には、子供たちの実態に即したSNS相談体制をつくりあげてほしいものです。
夏休みではありますが、いじめ加害者から呼び出される、あるいは家に押しかけてくるという夏休みならではの相談事例もあります。また、休み前のいじめ問題で学校とやり取りしている方もいらっしゃいます。どうか、ご遠慮なくご相談していただければと思います。
一般財団法人 いじめから子供を守ろうネットワーク
代表 井澤一明
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