職場でどうしても終わらない仕事を自宅に持ち帰ってまでこなす…。こんな経験のある方も多いと思いますが、果たしてこれは「残業」として認められるのでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では、持ち帰り仕事が元で起こったとある労災申請の事例を取り上げ解説しています。
自宅への仕事の「持ち帰り」は残業と認められるのか
今だから告白します(その当時の営業所のみなさま、申し訳ございません)。以前のメルマガにも書きましたが私が新卒で入社したのは某車の販売会社でした。平日は基本的には、個人宅や会社へ「飛び込み営業」をしていました。朝出勤し、朝礼が終わるとそのまま自分の担当エリアへ営業に行くわけですが、その担当エリアには図書館がありました。実は…、営業中にその図書館にしばしば行っていました。また、「今月は売上が上がってないからなんとなく会社に戻りづらい」というときには、近くの喫茶店で遅くまで時間を潰していたこともあります。
つまり、明確な「職務専念義務違反」をしていたわけです(申し訳ございませんでした)。
今は立場が逆になりこういった社員(昔の私のような)をどう管理していくかというご相談をいただくようになりました。ただ、これは大変悩ましい問題です。社外に一人でいる社員の行動を会社が把握するのは非常に難しいからです。
これと似たケースで自宅への仕事の「持ち帰り」という問題があります。
「自宅で深夜まで仕事をしてました」と言われても、会社ではその確認をしようがありません(もちろんITツールを導入し、一定のルールを決めれば不可能ではありませんが)。
では、その「持ち帰り」が「残業である」と主張されたらどう判断したら良いのでしょうか。それについてある労災事件があります。
ある英会話運営会社で講師だった社員がうつ病を発症し、飛び降り自殺をして亡くなりました。そこで遺族が「うつ病を発症したのは長時間の残業が原因である」として、労働基準監督署に労災申請を行ったのです。では、この申請はどうなったか?
通常はこのようなケースではほぼ労災とは認められません。自宅での行動が把握しづらいため残業を客観的に証明するのが難しいからです。
ところがです。労働基準監督署は「労災である」と認めました。その理由は次の2点です。
- 会社と自宅での残業時間を合わせると労災認定基準を上回る
- さらに上司からの厳しい叱責によりうつ病を発症した
では、どのように自宅の残業時間を証明したのでしょうか。
実はこの自殺した社員の自室には仕事で使うレッスン用の手作りのカードが2,385枚残されていました。それをなんと、監督署の署員が実際にカードを作成して時間をはかり、自宅でも月に80時間以上の残業があったと結論づけたのです。
いかがでしょうか。先ほどのお伝えしたようにこれは非常に「珍しいケース」ではあります。ただ、1回このようなケースが認められると今後も同じように判断される可能性が充分にあります。
ではどうしたら良いか。実務的には下記のような点があると、たとえそれが自宅で行ったことであっても「残業時間」と認められる可能性があります。
- 担当業務を一定の期日までに処理しないと評価に影響する
- 自宅に持ち帰らないと処理しきれない仕事量である
- 自宅へ仕事を持ち帰っていることを会社(もしくは上司)が認識している
これらが無いように徹底していくことが大切でしょう。実際に別の裁判では、自宅での仕事を次の理由から「残業ではない」と認定しています。
- 自宅での仕事を明示的に指示していない
- 社内のパソコンを使用して仕事をするように指示していた
- 自宅で仕事をしなければこなせないような仕事量ではなかった
仕事量については、「こなせるはず(会社)」「こなせない(社員)」と、お互いが主観的な見方になってしまい、判断が非常に難しいところではあります。ただ、そもそも社員の仕事量を把握もせずに仕事を次々に指示している会社も多くあったりします。まずはそこから改善していく必要があるのではないでしょうか。
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