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【書評】まるでサラ金。人生を潰す、奨学金団体の恐ろしい裏の顔

経済的理由で修学が困難な学生を支援するための「奨学金」ですが、近年その過酷な取り立てが物議を醸しています。無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』編集長の柴田忠男さんが紹介する一冊に記された、サラ金顔負けのブラックな「奨学金事情」とは…。

ブラック奨学金
今野晴貴・著 文藝春秋

読んだ後で憂鬱になったのは、石川結貴『スマホ廃人』だったが、それに次ぐほど厭な感じだったのが、今野晴貴『ブラック奨学金』であった。奨学金については何も知らない。普通に金があった時代だから、学費で悩むことはなく、わたしも、わたしの子供も、バイトさえせずに学生時代を楽しんだ。

奨学金といえば日本育英会、優秀な資質を持ちながら経済的理由により修学が困難な若者を支援する「慈悲深い団体」、というイメージを漠然と抱いてきた。2004年、独立行政法人化に伴い日本学生支援機構(JASSO)へと改編された。それさえ知らなかったが、いまそのJASSOが無慈悲なことをしているようだ。

昔サラ金、今奨学金」と言われている。いま大学生・短大生の38.5%が奨学金を利用しており、一人あたりの合計借入額の平均は、無利子の場合で236万円、有利子で343万円にも上る(2015年度)。新社会人の約4割の若者が巨大な借金を背負っている。奨学金が返済できず、本人や保証人がJASSOから訴えられるケースが激増中だ。返済の延滞者には苛酷で強硬な取り立てが行われる。

借りたモノを返すのは当然の義務であるが、雇用情勢の劣悪化で、返したくても返せない若者が急増しているのが現実だ。ブラック企業に勤務して、肉体的、精神的、経済的に追いつめられ、返済どころか自身の生存さえ危うい若者が少なくない。病気や低賃金で支払えない若者にも、JASSOから情け容赦なく請求が及ぶ。

本人に支払い能力がないと分かるや、即座に連帯保証人や保証人に請求が飛ぶ。膨れあがった延滞金は巨額である。ほとんどかつての消費者金融被害と同類だ。奨学金というプラスイメージから、穏健な対応がなされると思ったら大間違い。JASSO電話相談窓口のヒステリックで超絶不親切な対応の、あまりのひどさに呆れはてた。

JASSOは債権の回収を民間会社に委託しており、その対応は一般の債権回収と同じだ。回収会社の業務はあくまでも委託された債権の回収である。そこは福祉目的の奨学金制度とは完全に切り離された、殆どサラ金の世界だ。厭な仕事、汚い仕事、恨みを買う仕事は民間に投げろということだ。じつに悪賢い組織だ。

日本の奨学金制度をめぐる現実は、かくも厳しいものだったのか。非正規雇用やブラック企業の蔓延で、返済できないのは珍しいことではない。返済が滞ると家族・親類まで容赦ない請求が届く。そして裁判闘争、15年度にJASSOがとった法的措置は8,713件、強制執行500件近く、破産した者も600件超、ただし破産したら借金は連帯保証人に行く。破産に追い込むのは回収の手段」なのだ。

この悪魔の仕掛けた罠のような奨学金であっても、それ抜きの進学は極めて難しい時代なのである。奨学金返済の実態、苛酷な取り立ての実態、「延滞金地獄」のパターン分析、世界に逆行する日本の教育費政策、若者を奴隷化する日本の奨学金政策……という章立てを見ただけでうんざりする。

この本には最後に救いがある。「新しい奨学金の利用法と注意点必読! 返せなくなったときの対処法、という章があることだ。奨学金を借りなくては進学できない若者、返せなくて地獄に落ちた人たちにとって、これほど頼りになる本はない。その章に至るまでが、傍観者なわたしにもつら過ぎる。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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