8月29日のミサイル発射実験、9月3日の核実験と、エスカレートするばかりの北朝鮮による挑発行為。さらなる制裁の強化などその対応に追われる日米韓をはじめとする国際社会ですが、解決の糸口すら見えない状況となっています。緊張度が増すばかりの「北朝鮮危機」を新聞各紙はどのように伝えているのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんは自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で各紙の報じ方を詳細に分析した上で、「この重苦しい緊張感とは付き合っていかなければならない」と覚悟を促しています。
ますます緊張感が高まる北朝鮮情勢を新聞各紙はどう伝えたか
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「対北朝鮮「最強の措置を」」
《読売》…「北 制裁逃れ外貨稼ぎ」
《毎日》…「保育中死亡 未検証6割」
《東京》…「対米不信で開発固執」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「トランプ政権 発言過熱」
《読売》…「米、対北経済封鎖へ」
《毎日》…「圧力強化 駆け引き」
《東京》…「北朝鮮挑発 米の対応3案」
ハドル
昨日に続いて、北朝鮮回りを見てみることにしましょう。国連安保理での協議は激しいものになりそうです。
「警告」の延長
【朝日】は1面トップと2面「時時刻刻」、3面、4面、11面国際面、15面は「耕論」で識者の見方。見出しから。
1面
- 対北朝鮮「最強の措置を」
- 安保理 日米、制裁強化訴え
2面
- トランプ政権 発言過熱
- 北朝鮮の挑発 強い危機感
- 国防長官が軍事行動示唆
- 制裁強化 中国に揺さぶり
- 「取引国との貿易停止も」
3面
- 中ロ抱き込み 首相腐心
- 米ロ韓と相次ぎ電話協議
- プーチン氏は滞在中の中国で
- 中ロ、厳しい制裁とは距離
- 核実験 強く批判する一方で
- 北朝鮮、石炭迂回輸出図る
- ミャンマー経由し中国へ…失敗
4面
- 日本防衛「絶対的に関与」
- 陸上イージス「両国利益」
- マルティネス在日米軍司令官に聞く
11面
- 対北朝鮮 米韓首脳に溝
- 軍事力辞さぬ構え■圧力と対話
- ICBM「核搭載可能」 韓国国防相
uttiiの眼
2面「時時刻刻」は、アメリカは戦争をする気なのかどうかを考える上で材料を提供しようとするもの。
これまで、軍事行動には否定的な印象の強かったマティス氏が「北朝鮮の全滅は望んでいないが、そうするだけの多くの選択肢がある」と語ったのは衝撃的だった。だが、その直前にはトランプ大統領やペンス副大統領との協議があり、その後、大統領執務室の外でマティス氏にわざわざ会見をさせているところを見ると、大統領が主導した一つのパフォーマンスとしての性格が見えてくる。大統領がマティス氏の口を借りてしゃべったと観ることができるからだ。「軍事行動をちらつかせる」目的を持った発言であり、逆に言えば本当に軍事行動を起こすなら、わざわざ会見したりしないだろう。表現の上での切迫度は上がったが、「警告」の一種と見るべきだ。
記事の後段は制裁強化を巡って中国に揺さぶりをかけようという米政権の狙いについて。先日の《読売》が真っ先に記事に反映させた「送油を止めるとパイプが詰まる」という要素を、《朝日》はきょう、私の知る限り初めて書き込んだ。しかし、中国との間に貿易戦争が起こることを覚悟してでも、送油の中止を要求し、北朝鮮と取引のある国営企業などにも制裁を科すなどということができるのだろうか。こちらも、中国に対する「警告」の一種とみられる。
総じて、「警告」の強さは増しているが、これまで「警告」によってはまったく解決してこなかったことがらを巡って、どこまで「警告」に留めておくことができるのか。昨日も書いたが、やはり「レッドライン」は北朝鮮がコントロールしているかのようだ。
「経済封鎖」は可能か?
【読売】は1面トップに2面、3面「スキャナー」と社説、7面国際面、8面と9面は金融市場の反応。見出しから。
1面
- 北 制裁逃れ外貨稼ぎ
- 石炭輸出 東南アに変更
- アフリカに武器を提供
- ICBM発射可能性 韓国国防相
- 米、追加制裁提案へ
- 安保理緊急会合 11日採決目指す
2面
- 政府 安保理決議へ調整
- 河野外相、各国大使と会談
- G7、追加制裁要求 首脳声明
3面
- 米、対北経済封鎖へ
- 貿易国へ制裁示唆
- 中ロは慎重崩さず
- 軍事行動検討 報復攻撃防ぎきれず
安保環境悪化へ着実に備えよ(社説)
7面
- 米韓 北対応で温度差
- 「対話 役に立たず」 トランプ氏投稿 韓国は反論
- 中国 原油制限明言せず 対北追加制裁 「安保理で討論」
8面
- Q 長期金利なぜ再びマイナスに
- 株より安全 国債買い進む
9面
- 米朝緊張 市場神経質に
- 「何か起きそう、すぐに円高」
- 楽観論や慣れ 鈍感な面も
uttiiの眼
1面トップの記事に注目。北朝鮮制裁決議の履行状況を報告したのは国連加盟193カ国中78カ国のみ。残りの115カ国は制裁に協力していない可能性があるということになる。これでも、過去の対北朝鮮制裁決議と比べれば、協力する国は増えた形だという。驚いた。
石炭については第三国経由の迂回輸出、また、アフリカの諸国へは軍事訓練や警護訓練を提供するなどして外貨を稼いでいる。制裁決議は穴だらけで、北朝鮮を孤立させるのは難しいことが分かる。
だが、トランプ米大統領がツイッターに「北朝鮮と取引するいかなる国との貿易も全面的に停止することを検討している」と書き込んだのは、こうした制裁決議の履行状況を劇的に改善するためというよりも、北朝鮮貿易の9割以上を占める中国に対して「米国か北朝鮮か」の二者択一を迫り、中国に厳格な制裁を行わせ、北朝鮮を締め上げようとの意図だろう。ムニューシン財務長官とトランプ大統領が言う「経済封鎖」は、各国に対して北朝鮮との外交関係の縮小・停止を要求し、原油の供給を停止し、北朝鮮からの労働者派遣を受け入れず、さらに繊維製品の輸入を禁止することを求めるもの。
「経済封鎖」はキューバ危機の際の「成功体験」に基づいてデザインされているようだが、しかし、どこまで行っても、中国がその通りに動くかどうかが決定的であることに違いはない。中国が「不参加」となればまったく無意味なものになる。では、アメリカは対中貿易を全面的に停止できるかといえば、それはあり得ないことだろう。米国は雁字搦めの状態と言って良いだろう。
「緊密な協議」が必要
【毎日】は1面中ほど。関連記事は2面、3面「クローズアップ」、5面に社説、6面経済面、9面国際面、25面社会面にも。見出し
から。
1面
- 北朝鮮制裁を協議 安保理 石油禁輸焦点
2面
- 「ICBM再発射も」 韓国が分析
- 挑発続く可能性
- G7が非難声明
3面
- 圧力強化 駆け引き
- 日米に韓国同調
- 中露 制裁に消極的
5面
- 首脳間の意見調整を密に(社説)
6面
- 東証終値 183円安
- 北朝鮮核実験 リスク回避の動き
9面
- 核実験 広がる不信
- 中朝国境 吉林省の朝鮮族
- 商売への影響憂える
- 北朝鮮 ICBM強化へ
- 米当局 核搭載「18年前半」
25面
- 「国民飢えさせてまで」
- 北朝鮮核実験 脱北者も非難
uttiiの眼
5面の社説は後半に興味深い記述がある。日米首脳が北朝鮮情勢を巡って頻繁に連絡を取り合っていることを歓迎しつつ、トランプ米大統領の表向きの発言はぶれ幅が大きいことに注意を促している。突然何を言い出すか分からないということだ。さらに、核実験後の電話協議で「気になること」があったとして…「両首脳が『2国間の断固たる相互防衛の約束を確認した』という点」を挙げる。
この部分、米政府は発表したが、日本政府は明らかにしていないという。安保法制の成立によって、今や日本は全面衝突に至らない段階でも、「日本の安全に重大な影響がある場合」は、軍事作戦中の米軍を給油などで支援することになるし、また「重大な危機にさらされた場合」には、集団的自衛権を行使して米軍を守ることもあることを指摘。社説子は「いずれも北朝鮮の報復攻撃の可能性を否定できない」と懸念を示している。だからこそ、「日本は『あらゆる選択肢』を持つ米政権を支持しているが、日本に甚大な被害が及ぶ戦争を避けるよう米国に繰り返し働きかけるべきだ」としている。
例えば、米政権が北朝鮮の核保有を容認し、代わりにICBM開発を停止させるような方向に踏み出したとき、米国にとっての危機は低減するだろうが、日本にとっての脅威はそのままだ。そんな選択肢を採ることがないように、「緊密な協議」が必要だとする。
珍しく、と言ったら失礼かもしれないが、説得力のある社説。ただし残念ながら、安倍氏がこの社説子の願いを聞き入れてくれるかどうかは怪しい。
重苦しい緊張感が続く
【東京】は1面トップに北朝鮮問題についての連載。関連で2面「核心」、3面、4面に論説委員のコラム、7面経済面、9面外報、26面まで。見出しから。
1面
- 対米不信で開発固執
- 「保有国 侵略されず」
- 「ICBM発射兆候」 韓国国防省 新たな挑発警戒
2面
- 北朝鮮挑発 米の対応3案
- 軍事行動 報復の恐れ 日韓の被害甚大
- 「核保有国」認定 対話路線 核ドミノ誘発も
- 経済制裁 石油禁輸念頭 中ロは難色
- 戦術核の再配備 国防相再び言及
3面
- 首相、各国協議で温度差
- 北制裁圧力強化
4面
- 北朝鮮が核武装する日(論説委員のワールド観望)
7面
- 北のミサイル・核「有事」なぜ円高に
- 「他より安全」買い戻し
9面
- 米「あらゆる能力使う」
- トランプ氏、核にも言及
- 北核実験に国際社会包囲網
- 安保理 追加制裁巡り折衝
- 中 制裁強化なお慎重
- 韓 「斬首部隊」創設へ
- 正恩氏らの排除狙う
26面
- 「ええかげんにせい」 在日コリアンも怒り
- 「被爆地を愚弄」と危機感
- 長崎の5団体ら抗議文
uttiiの眼
4面に山本勇二論説委員による「ワールド観望」というコラム。タイトルは「北朝鮮が核武装する日」。
米朝の軍事衝突が絵空事でなくなった今、米国が「現時点で軍事行動に踏み切るのはかなり難しい」のは、北朝鮮の核・ミサイルをすべて破壊するのは不可能で、報復されれば韓国に甚大な被害が出て、被害は東アジア全体に影響するからだと。また、軍事行動に出るためには、在韓米軍の家族ら韓国在住の20万人もの米国人を避難させる必要があるとして、実際上、軍事行動は非現実的だとする。それでも、脅威そのものは増すばかりであり、北朝鮮が小型化した弾頭の模擬弾を載せたICBMを米国近海に落下させ、核武装が完成するのは1年以内とみられ、もはや米国は北朝鮮の核保有を認めざるを得なくなる。そうなれば核拡散防止条約体制は致命傷を負い、韓国では核武装論が高まる云々…。
まさしく、答えのない今の状況を象徴するような文章が続く。そして、日本の核武装は世界が認めず、自衛隊と米軍の一体化が進む中、日本社会は「重苦しい緊張感を強いられるだろう。防衛費が増えれば国の予算編成はさらに厳しくなる」と書いている。
米国が戦争に踏み切れない状態のまま、北朝鮮の核武装化は急速に進展し、戦争の危機そのものは亢進し続け、日本社会に高いコストの支払いを要求するようになる。そこまで論説委員は言っていないが、「日本社会の暗く貧しい未来」が、すぐそこに迫っているような恐怖を感じる。
筆者は最後に、「日米韓は外交と安保の両面で連携し、朝鮮半島と東アジアでの軍事衝突は総力を挙げて防ぐという強い決意を確認し続けたい」と、行儀の良い結論を書いてしまっているが、このコラムで提起されている問題は、「戦争を防ぎ続けるだけでは解決しない問題」ではなかったか。どうしたらいいのだろうか。
あとがき
以上、いかがでしたでしょうか。
「重苦しい緊張感」とは、少なくともしばらく、付き合っていかなければならないようです。しんどいですが、避けられない以上、覚悟するしかないですね。